ログインガチャ:選ばれた運命、進むべき道

ADF

第1話君の運を示せ


星運町(せいうんまち)。どこにでもある田舎町の風景が広がっているけれど、その名前にはどこか特別な響きがあった。「この町で暮らせば運命が変わる」と噂される不思議な場所。だが、高村亜里沙にとって、そんな話はどうでもいい。彼女の毎日は、オンラインゲームとスマホゲームと最低限の仕事で成り立っていた。


「今日もデイリーミッション、クリアしなきゃ…」


昼下がり、アパートの一室で彼女はぼんやりとスマホを操作していた。アディントというゲームの通知がまた来ている。


『運命の選択、君の運を示せ!』


その文字に一瞬だけ目を奪われる。どうせまたいつものガチャイベントだろう――そう思いながらアプリを開いた。ところが、そこにはいつもと違う画面が表示されていた。


『新たな挑戦を始めます。現実のフィールドにマスが出現しました。サイコロを振って進んでください。』


「…は?」


何を言っているのかわからなかった。画面には星運町の地図が表示されていて、普段見慣れた道にカラフルなマスが並んでいる。赤、青、黄色、緑――ゲームのボードみたいに。


「これ…ARゲームの新機能か何か?」


半信半疑のまま、アプリの指示に従い部屋を出た。歩いてすぐの商店街。いつもの道を進む途中、彼女は奇妙なものを目にする。


「……え?」


目の前の道路に、巨大な赤いマスが浮かび上がっていた。画面上だけではない。現実世界そのものに、透き通った光のパネルのように浮かび上がっているのだ。


周りの人たちには見えていないのか、普通に歩いている。けれど、亜里沙がそのマスに近づくと、スマホが振動し、画面にサイコロのボタンが現れた。


『サイコロを振ってください。』


「……どういうこと?」


スマホを握りしめながら戸惑っていると、足元に突然、見えない壁のようなものを感じた。進もうとしても前に進めない。まるで透明な力に阻まれているようだった。


「え、動けない…?」


画面を再び確認すると、『サイコロを振らないと進めません』と表示されている。


「これ、やらないとダメってこと?」


仕方なく画面のサイコロをタップすると、振られたサイコロがくるくると回り始める。数秒後、「3」の数字が表示された。


その瞬間、透明な壁が消え、体がふっと軽くなる感覚がした。ゆっくり歩き始めると、ちょうど3歩目の地点でぴたりと足が止まった。また見えない壁だ。


「嘘でしょ、ほんとに進めなくなるの…?」


目の前には今度は青いマスが現れ、画面に『ポイント+100!』という通知が表示される。まるでゲームの世界が現実に侵食してきたような感覚。戸惑いながらも、亜里沙は再びサイコロを振る。こうして、現実の星運町がまるでボードゲームの盤上のように変化していくことに気づいたのは、この時だった。サイコロの目は2で、次に止まったマスは青いマスでポイント+200+どこでも使えるクーポン1万円分だった。「何なの?このクーポンって何?どこでも使える?意味がわからない…それにこれサイコロ振らない限りどこにも行けないってこと?」

見えない壁はまるでマスを囲むように周囲に広がっている。手を伸ばして叩いても、蹴っても、まったくびくともしない硬さだ。さらに奇妙なのは、周囲の人々だ。誰もこの壁には気づいていないようで、普通にその場を通り過ぎていく。


「なんで私だけ……?」


周囲の景色はいつもと変わらない星運町の商店街なのに、自分だけが閉じ込められている感覚。それが不気味でたまらなかった。焦った亜里沙はスマホのホーム画面に戻ろうとするが、何度スワイプしてもアプリが閉じない。さらに、携帯のアンテナも圏外を示していた。


「電波も届かないし、これアプリを終了もできないの?」


じわじわと冷たい汗が背中を伝う。嫌な予感が胸を締めつける中、ふと亜里沙は画面に表示されたメッセージを思い出した。

『ゲームをクリアするまで進めません』


「……もう、そういうことね。ゲームをクリアするしかないってわけ?」


普段なら、こんな状況に絶望しそうなものだが、亜里沙の中で別の感情が芽生え始める。それは、オンラインゲームの世界で何度も味わってきた、攻略への渇望と興奮だった。

「……やってやろうじゃない!」


その言葉に、亜里沙の目がキラリと光る。

ゲーマーとしての誇り――いや、半分ヤケクソではあったが、退屈な日常を彩るこの異常事態に、少しだけ胸が高鳴っている自分がいた。


亜里沙はスマホの画面を握りしめ、再びサイコロのボタンをタップする。

サイコロは画面の中でくるくると回り始め、やがて「5」の数字で止まった。

――その瞬間、見えない壁が静かに消える。


「これで進めるわけね……。いいわ、次はどんな仕掛けがあるのか見せてもらおうじゃない!」

「デスゲームみたいにトラップとかあるの?それとも追跡者みたいなのが来るタイプかな?」不安からか、亜里沙は独り言を呟きながら歩いていた。周囲の人々やネットでは「ゲーム廃人」と陰口をたたかれている彼女だが、ゲームの仕様やトラップの種類についてはさすがに詳しい。


「もし、ガチでデスゲームみたいなタイプなら、どうしよう。いや、でもこんな町で…」と考えつつ、足元に現れた青いマスに立ち止まる。何も考えずにサイコロを振ると、再び「ポイント+100!」と表示された。


「ふーん、私って運が良いのかも。プラスマスにしか止まってない」と妙に楽しんでいる自分に気づく。だが、現実味を帯びた状況には若干の不安を覚えつつも、何となくポジティブに思っていた。


その瞬間、画面に「100万円!」と表示される。驚き、亜里沙は思わず声をあげる。「…100万円!?ゲーム内だけのお金?でも、急に100万円!?」


空を見上げると、突如として現金100万円が降ってきた。手に取り、少し震えながら確認する。「本物だ…。ボカシもちゃんとある…。これは、どういうこと?ゲーム内でのお金じゃないってこと?」


亜里沙は恐る恐るその現金を手に取り、再度確認を繰り返す。これはリアルの世界での金銭に他ならない。しかし、その現金を手にしたことで、急に不安が押し寄せてきた。


「このマスに書かれていることが本当に起きるなら…もし、今度はマイナスのマスに止まったらどうなるんだろう?」頭の中がぐるぐると回り、思考が止まらない。興奮と恐怖が入り混じり、サイコロを振る手が止まってしまった。

「でも悩んでてもしょうがないし、サイコロ振るか…」

再びサイコロを振ると、目が「6」を示す。6マス進むことに。


「良くあるボードゲームみたいに、来た道は戻れないし…一本道か〜、完全に運任せね。カードもないし、サポートもなし…私ができることはサイコロを振るだけか…」

ボヤきながら5マス進むと、次のマスが見えてきた。

「えっ、次は黄色?カードマスかな?良かった、マイナスじゃなくて」

6マス目に到達すると、画面に「イベント発生」の文字が表示され、前に現れたのは黄色いヘルメットをかぶった工事現場のおじさんだった。

「ここは工事中だから立ち入り禁止だよ」

亜里沙が驚いて声を上げると、おじさんが不意に格好を変えて、着物姿の遊び人のような格好に変わった。

「そんな事より、お嬢さん、そんなに大金を持ってたらいけないよ」

そして、おじさんはニヤリと笑って続ける。

「オイラが半分貰ってあげよう」

そう言うと、ポイントと現金を半分奪い、亜里沙を置いて立ち去っていった。


「え?今のって、某鉄道系ボードゲームのキャラ?でも、100万円じゃ少ないし、ゴールもないし…って、もう少し進むと家じゃないの?どういうこと?」

唖然としながら亜里沙は状況を理解しようとする。

「あれだけ時間をかけてただ家の周りを歩いていただけ…?本当どうすれば終わるんだ…?」

その時、携帯が震え、亜里沙はすぐに画面を確認した。


『ゲーム開始から1時間経過しました。本日はここまでです。お疲れ様でした。』

「ログアウト」の音声が流れると、目の前のマスがすべて消え、いつもの街並みに戻っていた。

「…今時ゲームは1日1時間なの!?私なんてゲームは1日中やってる時もあるのに…それより、ゲーム終了したらどうなるんだろ?お金とか…」

ポケットに手を入れると、一万円分のクーポンと50万円が入っていた。


「じゃあ現実なんだ…ARゲームじゃなくて、本当におかしい世界に連れて行かれてる…でも、まぁお金貰ったし、考えてもしょうがないし、最新ゲーム機とか欲しかった物を全部買っちゃおっと♪」

単純なのか、何も考えていないのか。

亜里沙はゲーム機やソフト、周辺機器と食料を買い込み、バイトも休んで、翌朝まで徹夜で遊び続けたのだった。

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