月を抱く

雪月すず猫

第1話

0:足を引きずりながら血でふかふかの玉座へと続く絨毯を濡らしながら1人の男が玉座の間の喧噪を抜けながら入っていく。

0:―――口から血を垂らしながら男は一歩一歩玉座に近づいていく。

アルフォンス:(腐敗し疲弊しきった国、戦火は免れなかった……。そして今、3年ぶりの邂逅)

アルフォンス:「くっ…ディー…」

ディーアヌス:「良く来たな、アル、待っていたよ」

アルフォンス:「ここまで来るまでに色んなものを犠牲にして…ごほっ、来た。あとはディー、貴様を倒すのみ」

ディーアヌス:「その前に私に抱かれる気はないのか?」

ディーアヌス:「あの時の続きをしたいとは思わないのか?私はその血に濡れた手負いのお前を抱きたくて堪らないぞ…」

アルフォンス:「ディー…、お前は…はは、変わらないな。好色悪食な所は変わらないな」

ディーアヌス:「私はとんだ、阿呆皇帝だからな、道化は道化らしく最期まで演じ切るさ」

アルフォンス:「じゃあ、黙って俺に殺されろ」

ディーアヌス:「嫌だね、一番抱きたい男が手負いで綺麗な血を流しながら私の命を欲しているんだ、抱かない理由はないであろう?」

ディーアヌス:「我はまだ皇帝ぞ」

アルフォンス:「お前は!そんなんだから、反乱が起こるんだ」

アルフォンス:「お前ほどの才覚があるなら反乱が起こる前になんとかできただろう!」

アルフォンス:「お前は―――冷酷にも残酷にもいくらでもなれただろ!」

ディーアヌス:「死は怖くないぞ。自らの命に価値を見出したこともない」

ディーアヌス:「大臣達は往生際悪く粘っていたようだがな」

ディーアヌス:「私はただ観ていただけだ。―――ただの観客だ」

アルフォンス:「―――ッ!お前という奴は!」

アルフォンス:「その観ているだけの皇帝に、何万人が死んだというんだ!」

アルフォンス:「もう……誰もお前を助けないぞ!」

ディーアヌス:「ふっ!私に皇位継承に敗れ、私に下り(くだり)―――」

ディーアヌス:「宰相皇族となり権勢を振るわせてやったのに―――」

ディーアヌス:「私が少しお前を抱こうとしただけで逃げ出したお前に何が言える?」

ディーアヌス:「―――さて、ワインでも飲め、どうせ、その怪我では剣もふるえまい?ん?」

0:ディーアヌス、玉座から降り、ワインを無理やりアルフォンスに飲ませる

アルフォンス:「何を!ぐっ、ごほごほ」

ディーアヌス:「ほう…(アルフォンスの肌がワインに染まるのに興奮する)美しい!美しいぞ!アル!今すぐ抱いてやろうぞ!」

0:ビリビリとアルフォンスのシャツの前を破るディーアヌス

アルフォンス:「くっ!やめろ!」

ディーアヌス:「ふ、お前の体はもう私のものだよ。今は皇帝でもないお前のディーだ」

アルフォンス:「…、…皇帝でも、ない?なら…」

ディーアヌス:「なら?」

アルフォンス:「私の願いを…叶えてくれるか?」

ディーアヌス「アル!お前の願いなら何でも叶えてやるよ!」

アルフォンス:「…げろ」

ディーアヌス:「うん?聞こえない…」

アルフォンス:「俺と一緒に逃げろ!」

アルフォンス:「こんな身勝手な国も、民も、置いてもう、『ディー』を『ディー』として扱わない国から逃げろ!」

アルフォンス:「子を成す為だけに置かれた玉座にいる監禁された奴隷皇帝なんて要らないんだよ!」

アルフォンス:「俺はずっと『ディーだけ』が好きだった!皇帝ではなく『ディー』を!」

ディーアヌス:「…なんで…もっと早く―――ッ、アル!ここはもう危ないから逃げろ!私がなんとか時間を稼ぐから、この皇帝しか知らない隠し通路を使え」

アルフォンス:「やだ!行くならディー、お前も一緒だ!」

ディーアヌス:「はは、聞き分けのない弟だな、良いだろう!この際どこにだって一緒に逃げてやるさ!」

アルフォンス:「ディー!」

ディーアヌス:「アル!」

0:二人抱きしめあって隠し通路から逃げ出す。

ディーアヌス:(―――ずっと寂しかった。誰も私を見てはくれない。馬鹿な皇帝を演じれば、誰かがこの民を踏みにじり、貴族ばかりが私腹を肥やす間違えだらけの国を終わらせてくれるだろう。だから、アルフォンスを焚き付けた。『皇帝』としてアルフォンスの尊厳を傷つければ、賢いアルフォンスは『皇帝』を正しにやってくる。アルフォンスだけはずっと私を兄と慕ってくれていたし、私より才能もあったから…。好きでいてくれた事は大きな誤算だったがね。

ディーアヌス:これからは『兄』としてお前の傍にどこまでもいよう)

ディーアヌス:(と、国を捨て隣国の集落へ逃げた私達だったが…)

アルフォンス:「ディーは俺が抱く!」

ディーアヌス:「…は?」

アルフォンス:「ディーは綺麗でいつも色気を振りまいていて、可愛いから、俺がディーを抱く!」

ディーアヌス:「待て!アル!ッあん!」

語り部:カタルゴ帝国皇帝ディーアヌス・ミリア・ディーラー、反乱軍の長アルフォンス・ミリア・アレスの行方は反乱の戦火の中、忽然と二人とも姿を消し300年経った今でも、その行方は辿れなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

月を抱く 雪月すず猫 @mikaduki_0305

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ