ことのあらまし

 まあ、杜さんが怒る理由はわかる。


 つまるところその男子は、


「見張り役だね」


「うん、絶対にそう! だからわたし言ったの。わたしが戻って来るなり、帰ろうとする男子二人に『ボディーチェックさせて!』って」


 ……ふふ。

 ぼくは密かにほくそ笑む。

『ボディーチェックさせて!』ね。賭けてもいいがきっと杜さんのこと、そのセリフはさぞ舌っ足らずで迫力なんてまるでなかっただろう。なにせ怒る杜さんはさながら駄々をこねる小学生のようなものだから。


「それでね、わたし男子たちを調べた。だけど、。もちろんカバンも、それに机の中も見たけどやっぱりない。ありそうな場所は全部探した。

 だけど……わたしにはわかるの。日記はその男子たちが隠したんだって!

 だって日記はあのクラスでモテモテの白ちゃんも書いてる。

』って噂だった。だから警戒もしていた。なのに……わたし、本当に迂闊うかつだった!」


 うーん。残念だけどそれは違う。

 だって今の話が本当なら、日記の存在自体を知らなかったぼくはクラスの男子でも女子でもなくなっちゃうんだから。


「それでわたし、もしかしたら広瀬くん、まだ図書室にいるんじゃないかと思って連絡したの。今日のホームルーム終わり、広瀬くん図書室の方に向かって行ったから」


 わお。それはぼくも迂闊だった。

 こんな面倒ごとに巻き込まれると知っていたら図書室になど行かなかったのに。今後はもっと周りを意識しよう。


 しかしまあ、ようやくと言うべきか話の方向は掴めてきた。要は『日記はどこに消えたのか?』ということだ。


 そういえば確か、最初にぼくにこの話を持ち掛けた時、杜さんは日記を『失くし物』と表現をしたが、その理由も今になればわかる。杜さんが教室に戻った時……。仮にその時、日記が床に落ちていたり、二人組の男子生徒のカバンから出てきたなら罪の追及もできた。


 しかし実際はその日記そのものがない状態。有るものについての議論は簡単だけど、無いものについて議論は難しい。つまるところそこに現物がない以上、裁判長もガベルは叩けない、と。

 だから杜さんは『失くし物』なんて言い方をしたのだ。

 内心ではらわたを煮えくり返しながら……。


「ね。これで一通りのことは話したけど、ここまで聞いて広瀬くんはどう思う?」


「どうって……。まあ、そうだね」


 ぼくは考えを整理しながら言う。

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