生き延びる
「なあ、ハザリー」と、次の交代まで2時間のところで、カレルが言った。長い沈黙のあとだった。
「俺が・・・ブラックナイトとして一人前になったら・・・・二人とも、トリステスが治ったら・・・俺ら、またゼロに戻るのかな。つまり、別々んところで暮らすのかな。って、俺はつい思っちまって。ちょっと寂しいな、なんて」
「あら、気にかけてくださるのね、嬉しいわ」と、ハザリー。
「2代目ブラックナイト様に思ってもらえるなんて、光栄だわ」と、ハザリーがくすっと笑う。
「ハザリー!」と、カレルがたまらなくなって言った。
「俺がニール賢者についていくと決めたのは、このトリステスなんかをやっつけて、生き延びたいと思ったからなんだ!俺はトリステスなんかに負けない、負けてたまるか、とそう思った。君はどうだ??」と、カレル。
「私は・・・小さいころの幸せだった記憶があるから、よけい・・・今になって、死んでもいい、って思ってるわ」と、ハザリーが哀しい目をして言った。
「私はすみれ姫。それ以上でも、それ以下でもないわ」と、ハザリーが言った。
「いつまでも故郷の夢を見て、それで果てるのかしら。それが私の人生かしら。神は、私から、第二の人生をくれたお師匠様まで、奪ったわ。まだ生きているかもしれないけれど。私は、未来の展望が描けないわ。この旅はどこへ行くのかしら」と、ハザリーがそっぽを向いて言う。
「そんな哀しいこと言うな」と言って、カレルがハザリーの顔を引き寄せて、キスをした。
1,2秒たち、カレルはハザリーを離した。
「俺らは運命によって出会ったんだ、そんな哀しいこと言うな」と、カレルが繰り返す。まるで、自分自身に言い聞かせるかのように。
「俺だって、神様なんて信じちゃいないよ。いや、俺は、世界アラシュアでも珍しい部類に入ると聞くが、女神サラソタ様だけは信じてる、だけど神様は信じてない。サラソタ様と、神様は、別だと俺は思ってる。友には、ひねくれてる考え方だ、と言われたがな」と、カレル。
「ハシントの宗教ね」と、ハザリー。
「キスの味、どうだった??」と、カレル。
「悪くなかったわ、カレル、私も、あなたを2代目ブラックナイトに見込んで頼み事をしただけあるのよ。ああ、カレル・・・」
そう言って、二人はもう一度、深いキスをした。
その後は、二人は沈黙したり、お互いの出自について語り合ったり、ワルキューレの祝福がなんなのか、などについて話したりした。
「兄は亡くなったわ」と、ハザリーが言った。
「弟も、逃げ遅れて亡くなった。兄妹で唯一生き残ったのが私」とハザリーが説明した。
「そうか」と、カレル。
「フラウ賢者は・・・きっとニール賢者が見つけてくれるさ」とカレルが言い終わらないうちに、交代の時間が来て、ニール賢者が荷台から布をめくって中に入って来た。
「カレル、そろそろ交代してくれ。外は冷える。セント・エルモの火の呪文を、もっと強めにかけておくな」と、ニール。
「ありがとう、ニール賢者」と、カレル。
中は荷物が多く、大人3人は無理なのと、見張りもかねて、カレルとニール賢者が交代で外の荷台に座った。
「マーヴェラス・キャンドル(不思議な蝋燭)」とニール賢者が呟くのを、ハザリーは聞いた。
ハザリーも魔法はたしなんでいるので、何をしているのかは分かった。
それから3日後、一行は街道沿いで、
「ここがプレトリアの首都フォールトヴァングへとつながる街道の手前だよ。ここから先は特に混む、シェトランドを目指すなら、迂回する街道を使うといい、俺は積み荷を届けるから、ここでおしまい」と、御者が言った。
「どうもありがとう」と言って、ニールがガリオン金貨を追加で1枚渡した。
「賢者様の頼みとあらばね!これも世界平和に貢献、ってやつ??まあ、気にすんな、賢者様!」と、御者が豪快に笑った。
旅の途中で、ニールが賢者証を見せて軽く説明したのだ。
「その街道の先には、死者の沼地と呼ばれる呪われた観光スポットが近くにあるらしいけど、寄らない方がいいですよ」と、御者が親切にも教えてくれた。
「では!」と言って、一行は御者と別れた。
「使者の沼地だってよ、温泉にできないかな」と、カレルがにやりとして言った。
「何言ってるのよ、カレル、私は怖いわ!」と、ハザリー。
「ハザリーちゃんはまだ20いってないからな」と、カレルがニヤリとする。
「カレル、今は秋なんだぞ!まったく・・・それより、さっさとシェトランドに行きましょう!ここから、歩いて2週間ぐらいのはずです」と、ニール賢者。
その日は、早めに3人は野営をすることにした。近くに宿屋らしきものが見当たらなかったからだ。人が少ない街道を選んだからでもある。
「ハザリー、何してるんだ??」と、カレル。カレルは野営の準備をしていた。
「カレル、あそこに、宿屋が見えるわ!今日はあそこに泊まらない??」と、ハザリー。
「おかしいな、来るときはそんなのあったっけ??」と、カレル。
「何日もろくに寝てないことだし、その宿、一度行ってみるか、カレル??」と、ニール賢者。
「ニール賢者、それもいいが、俺にはどうしても・・・」
「なら、俺が様子見してくる。それなら安全だろ??」と、ニールが、野営の準備をいったんやめて、カバンを取り、宿屋に向かった。ハザリーとカレルは、そこに留まることにした。
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