追放先は南国でお願いします~寒がり令嬢は不器用王子の愛に鈍感
ロゼ
第1話
「さ~む~い~!」
朝から情けない声を出しているけど許して欲しい。
侯爵令嬢として生まれたからといって全てに恵まれているわけではないのだ。
アスター侯爵家の娘として生を受けた私はスザンナ・アスターという。
私が生まれた国は冬になると極寒になるところで、そんな中でもアスター領地は国で最も雪が降り積もり、気温も連日氷点下十五度以下を記録するほど超極寒地域。
そんな地で生まれたのに極度の寒がりなのが私である。
寒冷仕様にはなっている屋敷でも寒いものは寒く、冬は暖炉の前から動きたくないほどの寒がり。
お花を摘みに行くと底冷えする寒さが襲ってくるため最早命懸け。
屋敷で働く者達や私の家族は「そこまで寒くないだろう?」、「大袈裟だ」なんて言うが、ちっとも大袈裟じゃない。
「またお嬢様は! そのような格好をなさって!」
侍女長が私を見て咎める声を上げている。
「これでも寒いのよ」
ドレスの上にアスター領特産のオマーク羊の毛をふんだんに使用してもっこもこに作ってもらったコート、頭には同じくオマーク羊の毛で編んだ帽子、首にオマーク羊のマフラー、手には冷気を通さないアンネアヤギの革の内側にオマーク羊の毛を編み込んでもらい巨大になった手袋、そこにオマーク羊の毛で編んだ靴下を二枚重ねに履いて室内履きの大きくてもこもこのスリッパを履いているだけなのだけれど……。
「それではまるで
雪人とはこの地にいるといわれる伝説上の生物で、全身を白銀の毛に覆われた大男である。
大雪の日に現れ、特に何をするわけでもなく雪山を歩いているという生物で、時々足跡らしきものも見つかっているそうだが、私は一度たりとも見たことがない。
そもそも冬は家から出ないので見る機会なんてない。
「寒いのだから仕方ないでしょ」
「お嬢様の寒がりは異常ですよ……」
異常だと言われても私にとってはこれが通常なのだからどうしようもない。
「春になればお嬢様も王太子妃になられるのですから、もう少し相応しい格好をなさいませんと……」
「城が寒くなければいいのだけれどね」
雪が解け春になれば私はこの国の王太子殿下の花嫁になる。
子供の頃に決められた婚約だったが、年に数度しか会うことがなかった婚約者で、実は殿下のことをよく知らない。
手紙を送っても数回に一度しか返事をくれない大変忙しい人だし、そもそも私もあまり興味がなかったため積極的な交流はしてこなかった。
アスター領に比べれば断然暖かい王都へ行くのは嬉しい限りなのだけれど、殿下との結婚生活を想像しても何も浮かんでこない。
「私、本当に結婚するのかしら?」
「何を仰っているのですか?! 婚姻用の衣装も既に届いておりますし、あとは雪が溶けてから王都に向かうだけではないですか」
なぜ私が選ばれたのか未だに謎でしかないこの婚約。
父も母もそれは同じようで、釣書すら見ていない段階で決まってしまった婚約に当初は困惑していたと聞く。
お会いしても表情一つ変えない殿下。
嫌悪されてはいないとしても好かれてもいないはずで、「婚約を白紙に戻してくれないかしら?」と思ったことが何度もあった。
誕生日には贈り物をくださるし、私も贈るのだが、本人が選んだのかすら分からないし、私も殿下の好みが分からないため毎回無難な品を選ぶに留まっていたし、それに対しての定型文のようなお礼の手紙が来るだけで喜んでもらえたのかも分からない。
本来王宮で行うはずの妃教育だが、なぜか教師陣が我が家にやってきたため行くこともなかったし、会うのも王都と我が領地のちょうど中間にあるパドリック領。
「殿下は私を王都に入れたくないのかしら?」
そう何度思ったことか。
でもやはり今日まで婚約は継続してきたし、王家から婚姻用のドレスなどの一式も届いている。
「寒い寒い! 早くお部屋に戻りましょ!」
あれこれ考えても分からないものは分からない。
今は早く温まることだけに専念するため部屋へと戻った。
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