ゼネコン令嬢~ダム・ガール、悪役令嬢になりて異世界に建つ! 継母に家から追放されても、ショタ公爵さまとイチャコラしながらインフラ強靭化計画を実現しますの~
第7話(累計 第97話) ダムガール、躊躇しつつも敵を討つ。
第7話(累計 第97話) ダムガール、躊躇しつつも敵を討つ。
「気球より報告。敵集団、騎馬の準備をし始めました」
「榴弾砲、攻撃準備できています。いつでもどうぞ」
「魔導自動車部隊、同じくいつでも」
まだ夜も明けきらぬ公爵領、第二の街コンビットス。
公爵別荘に設置された戦闘指揮所では、各方面から入ってくる情報が飛び交う。
「アミータ姫さま、戦闘開始の指示をお願いします」
「ええ。ここに集いし戦士の方々、わたくしの願いに従って頂き、ありがとう存じます。わたくし達を襲い、平和を乱す者達への鉄槌を落とす準備が出来ました。戦う以上、わたくし達には勝利しかありません。皆さま、勝利の後に必ず生きて帰ってきてくださいませ」
「御意!!」
副官の方に促され、わたしは戦う前に思う事を演説する。
今回の戦いは、多くの無辜な人々を守るためのもの。
だからこそ、負けるわけにはいかないのだ。
「では、作戦開始!」
「榴弾砲一号機、初弾発射」
そしてコンビットスを守る戦いが開始された。
……ティオさま、くれぐれも無茶はしないでくださいませ。
◆ ◇ ◆ ◇
どすんと低い音と振動が、わたしのいる戦闘指揮所にも響く。
「凄い音ですね、アミちゃん姫さま」
「ええ。この建物から大砲はかなり離れていますが、発射時の振動が響きますね。今回から、発射火薬に
アンモニアを合成し、そこからプラチナ触媒で硝酸。
硫黄由来の硫酸と併せての綿のニトロ化。
ニトロセルロースによる綿火薬の誕生だ。
おかげで発射のたびに、黒色火薬みたいに黒煙で視界が遮られるという事もない。
……先日、ジュリちゃんとスノッリ親方さんの協力でアンモニア生成プラントが完成したの。前世というところのハーバー・ボッシュ法。いや、水蒸気改質由来の水素じゃなくで電気分解による水素を使うから、厳密にはカザレー法っていうのは、日本のダム開発で勉強したわ。水力発電で作った電気を使うって。
高圧高温を達成するプラント、反応性の高い触媒、そして電気発電。
多くの障がいを乗り越えて、わたし達は「空気と水からパンを作る」事に成功したのだ。
……ゴムの代わりになる柔らかい絶縁素材を見つけたのもラッキーだったの。まさか、魔族国家内や公爵領にあった樹液が固まる樹木がゴムそっくりなんてね。
「まもなく着弾するでしょうね。三、二、一」
「観測気球より報告。目的地付近に着弾を確認」
続々と報告がわたしの元に飛んでくる。
そこから、わたしは次の命令を下す。
「では、そのまま他の砲からも全力砲撃をお願いします」
「御意」
再び司令室内に轟音と衝撃が響く。
先程は一射による着弾確認用の試射。
目的地に着弾したので、同じセッティングの榴弾砲群から連続砲撃。
敵の頭上に鉄製な死の雨を降らせるのだ。
……事前に敵陣予想地点を決めておいて、そこへのセッティングを決めておいたのが勝因ね。地形図を見れば、おおよその陣をひく場所は想定できるし。
間接照準による榴弾砲の砲撃。
あらかじめ着弾地点が分かっていないと設定が難しい。
まだ、この世界では弾道の物理計算、というか物理現象の研究・計算は殆どなされていない。
わたしがうろ覚えの物理学知識を提示して、なんとかなったところはある。
……三角関数や微分積分にニュートン力学。更には
上空の気球に装備された偵察用ゴーレムの眼。
水晶カメラからの魔法伝達による水晶球映像。
それが、戦闘指揮所の
その映像の中では、弾着時の爆風と破片で吹き飛ばされる騎士や軍馬らが映る。
「うわぁぁ。アタシ、初めて敵に同情しちゃいますぅ。アミちゃん、どうして全部が殆ど同じ場所に着弾するんですか?」
「それは良い質問ですの、ヨハナちゃん。今回使ってます大砲には、ライフリング。螺旋が刻まれてますし、火薬も毎回同じ量を使ってます。そして、同じ方角、同じ発射角度で撃てば、発射時に回転運動。くるくる回る勢いをつけられた弾はまっすぐ飛んでいき、そして地面の重さに引きずられて同じ場所に着弾します。そのあたりの工夫をしたのが、今回の榴弾砲ですの」
……自動車の乗り心地をよくするために作ったオイル封入型サスペンション。同じ仕組みのモノを駐退機として大砲につけたわ。おかげで、撃つたびに駐退機が発射ショックを受け止めて大きく大砲が動くって事は無いの。
砲弾の雨の中、大半の敵は殲滅されたが一部の敵が爆風の中から飛び出してきた。
「報告! 敵集団が着弾地点から逃亡。現在、街の方角に走ってきています」
「では、砲撃は現在をもって停止。各トーチカへ射撃準備命令を」
魔法防壁を使ったのか、重装甲の騎士の一団が砲撃の雨をかいくぐって、こちらに攻めてきた。
砲撃が同じ場所に降り注ぐのなら、そこから逃げるのは当然。
そこで逃げるのか、前に進むのか。
指揮官の性格で道は分かれる。
「こっちに攻めてくるなんて、よほど怒ったのでしょうか?」
「というより、まだ街を落とすことを諦めていないのでしょう、ヨハナちゃん。ほら、敵集団は城壁が未完成の側に向かってきてますの。そこに罠があるとも知らずに」
コンビットスを守る城壁。
他のインフラ構築を優先していたため、まだ半分強しか出来ていない。
攻めてくる敵からすれば、しっかりした城壁を相手にするよりは、まだ城壁の無い側から攻めてくるのが楽に見える。
……そう、一見見えるの。そこを罠にしたんだけど。
「敵陣、地雷源に踏み込みました。あ、爆発を確認」
ゴーレム型地雷のアイデアを提供したわたし。
その地雷、ポッポアップ型のものが空中に飛び出して炸裂。
四方にベアリングをまき散らし、それによって騎士たちが血を吹き出しながら倒れていった。
……ぐぅぅ。今は我慢なの! アイツらを生かしておけば、被害が出るし、今後のゴブリン王との面会にも影響しちゃう。
わたしは、口元まで上がる胃液を無理やり飲み込み、自分が作り上げた「地獄」を凝視した。
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