第6話(累計 第96話) ダムガール、暗黒騎士団を迎え撃つ。

「ほう、以外と立派な街ではないかな。だが、城壁が未完成なのは残念よのぉ。これでは我らが襲い放題ではないか、ぐふふ」


「団長、我らが襲うには実に好都合では無いですか? 足の遅いゴブリンらを放置して、我ら騎士団のみ先駆けして正解でしたな」


 誰にも妨害されず公爵領の原野を疾走してきた、漆黒の鎧で身を固めた重装甲騎兵。

 夕刻、彼らは未完成の城塞都市を見下ろす丘に集結して、これから襲う街の偵察をしている。


 原野の中に突然と現れた、高層建築物も見える立派に栄えたコンビットス

 ただ、街を覆う城塞は未完成で、半分も街を囲い切れていない。


「ふはは。愚かなゴブリンなどあてにならぬわ。今回もゴブリン王の娘が失態をした罰としての派兵。あ奴らを使い捨てにする予定が、敵兵がおらぬのではそうもはいかん。とはいえ、ちんたら遅い奴らの面倒など見ておれぬよな、副長よ」


「ですわな、団長。騎士は早や駆け、敵を駆逐してこそ誉れ! 弓騎兵に銃騎兵も同行しておりますので、このまま未完成の壁を越えて街を火の海に致しましょうぞ」


 ゴブリン王を馬鹿にしている騎士団長と副長。

 そしてゴブリン姫を懐柔し、魔族国家内に争いの種を生み出した王国の姫も愚か者と蔑む。


「我らの邪魔ばかりする『泥かぶり』姫とやら。今度は自らと領民の血をかぶって後悔するがいいわ。では、明朝に強襲をかけるぞ」


「御意。ん、団長。空に妙なものが浮かんでおりませんか?」


 明朝の戦に興奮する騎士団長。

 そんな団長の命に従う副長だが、彼の眼に夕日を受けて輝いて空に浮かぶ不思議なものが映った。


「あれか? どうせ、飼いならした魔獣かなにかであろう。だが、あそこからでは我らを襲うことなど出来まい。気にすることでもないわい。噂のデク人形ゴーレムも対抗策は準備済み。今よりこの地に陣を引き、戦勝の前祝いとしようぞ」


「はっ。明日の夜には街の女どもを抱けますな。ぐふふ」


 下品に笑いあう暗黒騎士団たち。

 しかし上空に浮かぶ「何か」は、彼らの動向を注意深く観察していた。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「アミータ姫さま、上空の気球部隊より連絡がありました。敵、東北東の高台、距離五キロ付近に陣を引いている様子です。主に騎馬部隊が主。黒い鎧から暗黒騎士団と想定されます」


「報告、ありがとう存じますわ。想定されていた地点で良かったですね。今から陣を引くのでは、夜の奇襲は考えにくいでしょうか。一応、警戒を怠らず監視を続けて下さいませ。では、砲兵隊に目標Aにて明朝。日の出前に砲撃開始と通達をお願い致します」


 日が沈もうとしている多民族が住む公爵領二番めの街、コンビットス。

 街の中心部にあるティオさまの別荘。

 そこに、わたしは臨時戦闘指揮所を構築した。


 ……前世世界でのCIC。とまではいかないけど、魔法通信や映像転送を駆使して、常時敵の行動を把握。即時、攻撃命令を出す様にしているの。あと、この世界。日本の同人ゲーム由来なのか、単位系がメートル法なのも助かるの。滅びよ、ヤード・ポンド法めぇ!


 わたしは何故か今、脳内でインチねじに苦しめられたことを思いだす。

 工事などで使うナットやボルト関係でもインチ関係が残っていて、ミリボルトと混ざって、とてもややこしかった。


 ……なんて無関係のヨタ話を脳内でしちゃうくらい、ストレスを感じているのよねぇ。だって、わたしが戦闘の総指揮官なんだもん。


 そう、わたしは全ての情報から作戦を立案する立場にある。

 ティオさまの指揮する機械化歩兵部隊は、既に臨戦態勢。

 だが、まだ奇襲をかけるには早い。

 今、敵はこちらが察知していることを知らないのか、呑気に陣を敷き宴会の前準備をしているようだと報告にある。


 ……夜討ち朝駈けは戦の基本だけど、馬鹿真面目に近接戦闘をする必要もないわ。


「まず榴弾砲による間接砲撃で敵をいぶりだします。その後、おそらく壁が無い面に敵騎馬部隊は攻め込んでくるでしょう。しかし、そこには地雷、鉄条網が設置済み。足止めをした上でトーチカからの銃撃で殲滅します。では、一部監視部隊を除いて臨戦態勢から、待機状態に移行します。皆さま、明朝の開戦までしばしお休みくださいませ」


 わたしは今日中に行うべき指示を全てだし、指揮所を一時離れた。


「アミちゃん姫さま、お疲れ様です」


「ありがとね、ヨハナちゃん。正直、気は重いの。わたくしの命令一つで敵の命が奪われちゃうし、失敗したら味方が沢山死んじゃうの」


 自室に向かう廊下。

 周囲に他の人がいないのを確認して、わたしはヨハナちゃんに弱音を吐く。

 わたしが進む道の先に繋がる幸せ。

 それを目指す途中で血が流れる事を、一度は覚悟した。


 ……でも、想像以上に心的負担が大きいの。誰かの命を預かるのって、こんなにも大変なのね。ティオさまや陛下は、もっと大変なんだろうなぁ。


「お気持ち、お察しいたします。ですが、敵を生かしておけば、多くの罪もない人々が蹂躙され、殺されます。それは、もっと多くの悲劇に繋がる。悲しい事ですが、アタシも一緒にアミちゃんの罪を背負います」


 ヨハナちゃんは、わたしの側でいつも見守ってくれる。

 今日もわたしの罪を一緒に背負うとまで言ってくれた。


「いつも、側にいてくれてありがとう。わたし、頑張るわ」

「では、今晩も添い寝ですね。早速準備しますね」


 そして、わたしはヨハナちゃんを抱き枕にし、悪夢を見ずに戦闘開始の朝までぐっすり眠った。

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