第11話(累計 第55話) ダム・ガール、決闘を見守る。

「では、決闘委員会の監視の元、正規の決闘を行う。ミルコ・デ・ジュスティ、ルキウス・デ・モンテヴィア。両者、前に」


「おう」

「はい」


 リナちゃんをイジメたミルコがルキウスくんへ決闘を申し込んで五日後。

 ルキウスくんは視覚障がい者であるのにかかわらず、それを考慮されていないのか正規の決闘が行われることになった。

 もちろん実剣でなく、木剣を使っての決闘。

 学生同士で殺し合いなどすれば、学生の親同士。

 貴族間の内戦にもなりかねないからだ。


 ……とはいえ、木剣でも頭部を打たれたら死ぬ危険性も無い訳じゃないの。即死さえしなきゃ、治癒魔法が間に合うけど。


「ふふふ。逃げないで挑んできたのを褒めてやる!」


「僕、買われたケンカからは逃げないようにしているんですよ」


 学校にある武闘技場、そこの中央にある舞台に立つ二人。

 ミルコはロングソード型木剣。

 ルキウスくんは、一メートル半程の木杖を握る。


 ……武闘技場ってミニ・コロッセウムって感じなの。


 向かい合う二人の間。

 決闘委員会から派遣されてきた元騎士の先生が審判員として立ち会う。


「もう一度ルールを確認するぞ。参ったと発言するか、もしくは戦闘不能、意識を失った者の負けとする。頭部、股間への攻撃は禁止。偶然以外の攻撃は、行った時点で負けとする。直接的な攻撃魔法も禁止だ。良いな、二人とも」


「ふん。目も見えぬ新入生に俺が負ける筈はないがな」


「分かりました、先生。先輩、お手柔らかに」


 強い殺気をぶつけるミルコ。

 そんなのを気にせず、ひょうひょうと受け流すルキウスくん。


 ……凄いよね、ルキウスくん。見えないのに怖くないんだもん。でも、中身があの『お爺ちゃん』なら、まず負けないか。


 わたし達はルキウスくんの応援で武闘技場の観客席に座る。


「アミータお姉さま、ルキウスさまは勝てますでしょうか? ワタクシが原因でこんな事になってしまって……」


「リナちゃん姫さま。大丈夫だと思いますよ。あの方は強い……はずなので」


 ゴブリン姫、リナちゃんが心配そうな顔でルキウスくんの事を見ている。

 リナちゃんを庇う形でミルコからケンカを売られたのを、ずっと気にしているから。


「アミお姉さん。彼のお話は聞きましたが、本当に勝てるんですか?」


「ええ。わたくしは彼を信用していますから」


 ティオさまも心配そうなのだが、わたくしが太鼓判を打つと何処か悲しそうな顔をした。


 ……ん? ティオさま、少し変なの。


「では、決闘開始!」


 舞台で二人が動き出す。

 わたしは、先日の驚きを思い出しながら、ルキウスくんの応援を始めた。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「なんか皆さん、お集りの中で自分の事を話すのは恥ずかしいですねぇ」


「と言いますが、ちゃんと説明してくださいませ、ルキウスさま。わたくしも混乱してますから」


 ルキウスくんとの出会い翌日。

 わたしはティオさまにお願いして、お話しできる歓談室を学校から借り、ルキウスくんを呼び出した。


 ……わたしの『前世まえ』はまだ話せないから、今回はリナちゃんたちを呼んでいないの。リナちゃんは大丈夫でも、周囲から魔族国家にわたしの情報が流れたら一大事だし。


「では、お話しましょう。何故か転生してしまった修羅の一生を」


 ヨハナちゃんから給仕されたお茶を、見えていないはずなのに優雅な笑みを浮かべながら飲むルキウスくん。

 わたしだけでなく、ティオさま、ファフさんからの視線を受けながらも、二分の笑みを消さない。


 ……可愛い坊やなんだけど、中にあの『ジジイ』がいるなら図々しいのも納得ね。


「アミータお姉さん、ダム好きお嬢さんは僕の正体を分かっていると思いますが、お仲間の皆さんにもお話しますね。ただ、ココだけにしていただくと助かります。僕にも事情がありますし」


 そしてルキウスくんは、自分の過去を話し出した。


「僕は生まれつき盲目で生まれました。両親は僕の為に神殿神官や医師、多くの伝手やコネを使い、僕の目の治療を願いました。ですが、どんな手段を使っても僕の目は見えることはありませんでした」


 淡々と生まれついた障がいについて語るルキウスくん。

 本人の語りに一切悲壮感は感じられないが、ご両親の心労はいくばかりだったであろうか?


「僕には優しい兄が居て、両親も大事に障がいがある僕を育ててくれました。そして、洗礼式の日。僕は全てを、『前世まえ』の記憶を思い出しました。」


 ……ルキウスくんも、洗礼式の時。属性を判断される儀式で前世記憶を思い出したのね。


「ふむ。前を思い出す辺りはアミお姉さんと同じですね。で、ルキウスさまの前とアミお姉さんは知り合いだったと」


「知り合いというより、お嬢さんは晩年の教え子でした、公爵閣下。僕、いやワシは護身術の道場を晩年に運営していました。それまでの血塗られた人生の罪滅ぼしにね」


 そこから、ルキウスくんは前世での壮絶な人生を語りだした。


「ワシが生まれたのは大きな戦争の少し前。アミお姉さんなら大正時代末期と言えば、分かりやすいかな? 古武道の名家次男に生まれました」


「え!? じゃあ、お爺ちゃんは第二次大戦で戦っていたの?」


「中国大陸の南方戦線。陸軍第十一軍にて華北作戦に参加していました。そこでスパイモドキの事もしていたのが、後の人生に関係します」


 ルキウスくんの前世。

 わたしがNPOで海外派遣をする前に、両親の紹介で通った護身術道場。

 そこにいた、枯れ枝みたいだけれど眼光の鋭いお爺ちゃん先生。

 時折見せる殺気が凄かった印象ではあったが、まさか戦争参加者だとは思わなかった。


 ……ということは、あの時は百歳くらいだったんじゃないの!?


「アミちゃん。アタシ話が分からないの」

「ボクもです。一体どういうお話なのか?」


「えっとね。簡単に言えば、ルキウスくんの前世は戦う事を仕事にしていた人。何十万人、何百万人も世界中で殺し合った戦争で戦っていたの」

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