愛を探す物語

かもめ7440

第1話 友達

   


 この眼のない魚の泳ぎアイレス・フィッシュ・スウィム、をしい―――気づけば俺、深谷ふかたに久嗣ひさじには一人も友達がいなかった。群れや縄張りは回避するタイプだった、防衛本能の一種だった。

 ―――というような、ぼっち精神を肯定したところで、に生まれ変われるわけではない。ひ弱な精神に、劣等感は拭い去れるものではない。

 、小説や漫画や映画や音楽における友達という甘美な響きは長い間ずっと胸を射抜いていた。その強い乾きにも似た憧れというものが、人生の変化を促す装置であることは否定できない―――と思う・・。

 誰かと喋ったり遊ぶよりも本を読むことが好きだった小学生時代。

 黒歴史さながらの在りし日の俺の中学生時代、空振りした、現実と物語には齟齬そごがあることを知った。友達とまではいかないにせよ、友人と呼べるような人も、いた。けれども、それはやっぱり何かが違っていた。

 あみ目硝子越めがらすごしの淫奔いんぽん膿胞みずぶくれ

 と屋上から三百六十度見渡すよう―――な、夢見がちなもの・・。

 鹿と犬が仲良くなったり、猫と梟が仲良くなったりするような異種間の友情ないしは愛情というのは心がする。別にそこまでファンタジーなものではなくとも、普通に比べたり自慢したりしない、大変な時には大変だねとちゃんと気付いて、色んなことに気遣いが出来るような友達。

 同性同士のそれも一種の疑似恋愛のようだという見方があるが、理由を作って会いたくなるような友達というのが欲しかった。

 蕭条しょうじょうたる出現しゅつげんせし焼絵硝子ステインド・グラスのような悲傷図ピエタ

 


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 誰だって優しい人、自分にとって優しい人、揉め事を起こさず、素直な気持ちにさせてくれる人が好きに決まっているが、そういう優しい人はいくらでもいる。それを人畜無害と言い、八方美人と言うのかも知れない。こんな言い方はいくらでも出来る。たとえば常識の違う言葉は、『強迫性の不安』や、『限定的な視野狭窄』だ。

 失うことを知り続けてなお無垢に憑依かれた亡霊―――。

 

 ...知 ろ う と し て 引 っ 掛 か る 、冷 た い 苦味・・

 ...惨 め さ 卑 し さ 、人 の 心 の 複雑 な 回路。


 女の子は好きなタイプについて優しさを口にする、これはインスタグラム脳的な意見だ。抽象的で具体性に欠けている。何ということはない、優しくて顔がよくないといけないのだ。もちろん、そうでない人もいる。ただ、そこにも別の筋道が作られる。顔が悪くても有名大学なら付き合ってみたい、という正直な人が分かり易いかも知れない。身長が低くても高くても構わないと思ってる、でも身長が二メートルを超えていたら、ちょっと困るな、と思う。身長が自分より少し低いとか同じならよくても、三十センチ以上違った場合、拒否反応が起こる場合もある。

 体裁の括約筋かつやくきんが締まるだけでこうも表現というのは変化する。友達が利害関係であったり、たんなる一緒にいるだけの時間が長いだけのもたれ合いみたいなのは嫌だった。たとえば、『いい人』とか『優しい人』というのは、たんに、自分に都合のいい人間という意味に過ぎない。砂時計のくびれ、土星のリング、その果てがない感じが―――『』だった・・。

 

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 とはいえ、万事このような調子でいうと、いささか乱暴だ。斜に構えて、人のあらがやたらと気になっていたのは思春期という病なんだろう―――か。

 学校が『監獄』か『魔窟』に想えたりする。

 作り笑いをしながら挨拶をし、空気のように受け答えをし、その殆どは無味乾燥な、ドラマのない、起伏の少ない、滑走路のように平坦な日々を過ごす。

 どんなところでも、一定数こういう人は生まれるのだ。

 一定数いっていすう、それは死者の髪の毛のようにたなびいている。

 けして、自己肯定感を増加させるための論法ではないけれど、結局のところ、そういうものだ。現実は辛く厳しいものだし、物語のような理想や、救済措置はない。

 きっと理想を追い求めた瞬間に迷路の入り口は始まってるんだろう、と思う。

 氷の世界だ、永久凍土だっていうわけじゃないけど、人は特に何の理由もなく傷つけるものだし、に、いちいち付き合っているのは面倒くさい。IQの低い会話、愚痴、不条理で理不尽に襲い掛かる不幸。

 運命の相手だって自分から見つけなければいけないかも知れないのだから、友達だって、自分で話し掛けて、自分の眼鏡にかなうような友達を積極的に探すべきなのだと思う。でもそういうのが不得意な人間はどうしたらいいのだ。それだったら別に一人でも生きられる、友達なんかいらない、仮にたまたまそういう友達が出来たらいいよなぐらいで強く生きていくしかないのではないか。

 言葉が曖昧であるように、友達の定義だって曖昧だ。

 天国を記憶していると嘯くように仰る、とある人々の大半は、地上へ行きたくなかったと言う。じゃあ、この人生は何だ、地獄そのものなのか。

 “”は同時に“”であるのかも―――知れない・・。

 高校生の頃にはもう、街道をだった。幸いだったのはイジメられたり、最低限の、あるいは最小単位の居場所をなくして孤立しなかったことだろうか。しかしそうなればそうなったで、俺はまた現実に絶望したかも知れない。ごくごく有り触れた、だ。

 もしかしたらそういうのを趣味とか、あるいは突出した才能とやらで処理する方法もあるのかも知れない。しかし皆無だ。そんなものはない。

 傷つくことを回避することで痛みを負わなくなり、そして何も残らない無痛覚の、凡庸で低俗な、学生生活というのが完成する。世の中は不平等で、何だったらわけのわからない不条理なことの連続だ。それを乗り越えるにはフットワークを軽くするか、それこそ、生き方を百八十度、三百六十度、七百二十度まで変えるような勇気、根性、死に物狂いというのが必要になる。

 

 ―――ばせばとどくところにあるもの。

 ―――それは、こころよわさとかいうことだ。


 それを認めるには俺は若すぎた。若者特有の稚気ちき、あるいは自尊心が弊害となり、他者を否定する。けれども、事実として、誰かとする会話はその場限りの軽薄なものに感じられ、退屈という言葉が固い石ころのような固い物質になって咽喉を塞ぐ。でも、当たり前だ。相手の話をちゃんと聞こうともしないで、積極的に他人と関わろうともしないで、そんな机上の空論じみたものが眼の前に現れたら魔法である。あるいは素直に憧れられるような人、尊敬できる人というのがいなかったからかも知れない。色んな言い方が出来るけど、、その退屈の石を手のひらに吐き出して、転がしたり、つまんだり、光に透かしてみたらいい。何だったらそれを、ハンマーで砕いたりしてみたらいい。

 俺とそいつが、そんなに変わらないことだって分かるだろ―――う・・。

 だから『(何処かへ出掛けるのに便利な、)大きな車を持ってる友達』みたいに、利害関係、友達というのは特典制度みたいに考えるのも間違いではないと思う。何だか嫌な言い方になるけど、たとえばお店のクーポンを用意している友達がいたら便利だろう、パソコンや英語の知識がある友達がいたら便利だろう、女の子を口説くためにイケメンの友達がいたら便利だろう。

 こういうのに大真面目に反発するような俺の方が何処かおかしい―――

 子供時代は、自然に好奇心が強く、他人に対してオープンで、年齢と共に感じるようになる不安感を抱えていない。でも大人になればなるほどに選択の機会を設けることになる。そういう見識が不幸の始まりなのだという見方も出来るだろう。遅かれ早かれ、一緒にいて居心地がいい人、楽しい人、気兼ねせずにいられた人でも、それ以降は何だか関係に疲れるようになってしま―――う・・。

 臆病で怯懦きょうだ、といまならきちんと認められる。

 思考の鳥観図ちょうかんずとでもいうべきものを想像して、全領域で障害物、対立、荒廃の座標軸というのは何処にあるか、と・・・。


 ―――自分じぶん時間じかんより他者たしゃ時間じかんほうが・・。

 ―――人生じんせい時間じかんはえてしてながくなる。


 人の声は多層性で、多面的だ、常にその前の現象があるのだが、一つの声は最初から発されていて最後の時も消えることはない。その破綻に満ちたものこそが、夢の中で激しく溶け合う、芳醇ほうじゅんの酒のようなものなの―――

 その消え入りそうな、小さく、か細い囁きを、聞き逃してきたのだ。

 結果、俺は最後まで本物の友達を得られないまま、この世を去ろうとしていた。

いま、一人の人間がいる。謎のピコピコ音がして、ゲームスタートというわけだ。

棒人間、へのへのへもじでもいい、CPU、仮名A・・・。

 一つずつ組み合わせれたジグソーパズル、額縁の中のその微妙な接続跡に、風が死んだように凪いでいる、空っぽの“こころ”へ―――。

 心へと続く“いのち”あるものへ・・。

 ―――嘘の優越、不死の錯覚、

 釘付けにされた運命―――が、

 

 世界せかいわるおと何処どこかでした・・・・・・。



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