第2話 一つだけ分かったこと
そう、朗らかな声音で告げる。……依月、神社……うん、やっぱり聞いたことがない。まあ、それはともあれ――
「……えっと、初めまして。僕は、
「……陶夜くん、か。うん、宜しくね陶夜くん!」
すると、僕の名前を呟きそう言い放つ依月さん。……えっと、名前? 苗字じゃなくて? いや、もちろん嫌なわけじゃないけど、流石にちょっと驚いて。だって、初対面でいきなり……いや、それともこれが普通なのかな? 最近の若い人達はとっては。
……まあ、それはそれとして――
「……あの、
「あっ、
「どんな仲!?」
思いも寄らぬ依月さんの言葉に、思わずツッコミを入れる僕。……そう言えば、初めてかも。ツッコミを入れたのなんて。いや、でも実際それくらい驚愕で……えっと、初対面……ですよね? そもそも、彼女自身初めましてって言ってたし。……まあ、それはともあれ。
「……あの依月さ…………あの、風奈さん。その、以前からありました? こちらの神社」
そう、躊躇いつつ尋ねる。ちなみに、言い直したのはお名前――苗字の方で呼ぶ
「……ふふっ、よく気付いたね陶夜くん。何を隠そうこの神社、私が呪文でちゃちゃっと出しちゃったんだよ」
「…………ん?」
ふと、思いも寄らない返答が届く。見ると、いつの間にやらその手には可愛らしいステッキが。そして、戸惑う僕を余所に再び口を開いて――
「――巫女とは、世を忍ぶ仮の姿。その正体は……なんと、地球を救うべくこの時代へとやって来た魔法少女なのです!」
そう、何とも晴れやかな笑顔で告げる。うん、結局ほぼ何も分からない。だけど、そんな中で一つだけ分かったことは――
「――あ、すみませんお邪魔しました」
「ドン引きの笑顔で立ち去ろうとしないで!!」
「はい、陶夜くん」
「あ、ありがとうございます風奈さん」
それから、ほどなくして。
柔らかな風鈴の音が優しく響く風情漂う縁側にて、柔和な微笑で湯のみを差し出してくれる風奈さん。中身はもちろん、暖かなお茶……うん、いい香り。そして、お味は……うん、すっごく美味しい。
さて、どういう流れかと言うと――あの後、立ち去ろうとする僕をまあまあ少しお茶でもと
「ところで、陶夜くんは高校生なんだよね? 学校生活はどんな感じ?」
「……へっ? あ、そうですね……」
すると、ふと隣からそう問い掛ける風奈さん。いや、別に驚くような
……ただ、それはそうと……うん、何と答えたものか。正直、盛り上がる気がまるでしない……と言うか、きっと普通に重苦しくなるだけで――
「…………へっ?」
そんな暗鬱な思考が、不意に止まる。何故なら――先ほどまで楽しそうに笑っていた彼女が、そっと僕の手を取りじっと僕の
「……あの、風奈、さん……?」
予想だにしない風奈さんの行動に、ただただ茫然とする僕。……えっと、当然どうしたの――
「……なんでも、いいんだよ?」
「……へっ?」
「……別に、気を遣ってくれなくていい……今、
「……風奈さん」
そう、僕の手を取ったまま真っ直ぐ僕の
「……あの、風奈さん。その、実は――」
「…………そっか」
それから、しばらくして。
僕の話を聞き終え、小さく呟く風奈さん。お世辞にも楽しい話とは言えないはずだけど、それでもずっと真摯に耳を傾けてくれていたことが彼女の表情からもはっきりと分かって――
(…………そっか、それなら)
「……ん?」
「……ん? どしたの陶夜くん?」
「……あ、いえなんでも……」
すると、ポツリと声を洩らした僕に柔和な微笑で尋ねる風奈さん。そんな彼女に、少し戸惑いつつ返事をする僕。……今のは、いったい……いや、気のせいかな。
「もう帰っちゃうの? 陶夜くん。まだまだお話ししたいのに」
「すみません、風奈さん。これから、アルバイトがありまして。ですが、もしご迷惑でなければまたお伺いします」
「……アルバイト? ……ああ、うん、アルバイトねアルバイト! うん、それならしょうがない。うん、待ってるね!」
「はい、ありがとうございます」
それから、ほどなくして。
そんなやり取りと共に、笑顔で手を振り僕を見送ってくれる風奈さん。尤も、途中少し気になる反応はあったものの、それはともあれ僕も笑顔で……まあ、出来てるかどうかは分からないけど……笑顔でそっと手を振り鳥居を潜る。すると、
「…………あ」
ほどなく、僕の視界に映ったのは住宅街――路地裏に入る前にいた、あの閑散とした住宅街で。そして、もう路地裏はなくいつもの白い壁が……うん、どういう原理なんだろう。あと、こんなところ誰かに見られてたら大事だよね。幸い、今は誰もいないみたいだけど。……まあ、それはともあれ――
「……明日も、来ていいのかな」
そう、ポツリと呟く。そして、心做しか軽くなった足取りで再び帰路を歩いていった。
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