じいちゃんの雪のオヤツ

羽弦トリス

じいちゃんの雪のオヤツ

鹿児島は南国と言うイメージがあるが、僕んちは、薩摩半島の北の北薩ほくさつにある為、冬は寒い。鹿児島の北海道と呼ばれる町であった。


大人は心配そうに天気予報を見ている。

ニュースでは、明日は雪が降るそうだ。僕は雪が大好き。

雪だるまや、雪のウサギが作れる。

雪だるまはクルクル転がし、雪のウサギはユズリハで耳を作り、赤南天の実で目を作る。


だが、父親は長距離トラック運転手であり、母親は介護の仕事なので、自動車通勤は走る前にタイヤにチェーンを装着しなければならない。

面倒であり、雪道は危険だ。

そんな、大人をよそ目に子供の僕は明日の朝が来るのを楽しみに寝た。

じいちゃんと三毛猫と電気毛布に包まれてスヤスヤと眠る。

朝起きると、父親は出勤しており、母親は朝ごはんの味噌汁を作っていた。

そんな事は、どうでも良い。

外を縁側から見た。


銀色の世界。

外は雪がつもり、無機質な空からまだ、雪が降っていた。

弟と雪だるまを作っていたら、じいちゃんも外に出てきて、南天の実をちぎっていた。

雪ウサギを作る為だ。


雪ウサギは玄関先に飾られた。


朝ご飯を済ますと、保育園は休んで雪で遊んだ。

雪合戦をする。


遊び疲れて、じいちゃんと3人で母親が作り置きしていた、昼ご飯を食べたら、じいちゃんが湯飲み茶碗にかき氷を作って持ってきた。

味は、砂糖のみ。

とても美味しかった。じいちゃんにお代わりを頼むと、外に出て再びかき氷を出してくれた。

「じいちゃん、このかき氷どうやって作ったの?」

と、尋ねると、

「雪だよ」

と、答えた。僕ら子供は、喜び外の雪をボウルいっぱいに詰めて、砂糖や蜂蜜を掛けて食べたが、ガソリンの臭いがする。

食べれたもんじゃない。

じいちゃんは、外の梅の木の枝に積もった雪だけを集めていたのだ。


今考えれば、雪が美味しいはずが無い。

だが、じいちゃんの雪のかき氷はとても美味しかった。


大人になり、親になった。

子供に雪を食べさせた事は1度も無い。名古屋の雪なんか、危険だらけだ。


雪が降ると、いつもじいちゃんを思い出す。

あの時の、雪のかき氷は何故か美味しかった。

今、かき氷は冬でも食べられる。

店に売っている。

子供の頃、駄菓子屋のアイスクリームコーナーは冬は施錠されていた。

夏にならないと、食べられない時代だった。


鹿児島を離れ、名古屋に住んで24年。

雪が積もったのは数えられるくらい少い。

子供の頃の様に嬉しくは無いが、雪が積もると心踊る。

これは、僕の精神の未熟さだろう。


今日、名古屋でもミゾレが降った。雪が降る直前が一番寒い。

明日は晴れ。

雪は遠くになりにけり。

しかし、幻となってしまった、雪のかき氷。

決して食べてはいけないが、あの頃の自然は人間に優しかった気がする。



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じいちゃんの雪のオヤツ 羽弦トリス @September-0919

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