マダム クロッシェ 2号店

マダムクロッシェ 2号店。ここはギルド内にある手芸屋。


店内には、天井まで伸びた木枠の棚に沢山の毛糸が埋め込まれ、ふわふわな壁ができていた。


店の中央には、大きな作業机がある。それを囲うように何台もの棚が、幾重にも設置されていた。


棚には、ボタンやビーズなど細々としたものが、それぞれのガラス瓶に収められ綺麗に並んでいる。


ガラス瓶の中のカラフルなボタンやビーズは、窓からの陽射しを受けながら、きらきらと店内を揺らめかしていた。


レーシーは、現在、真ん中に置かれた作業机で一人椅子に座り、レースのブレスレットを編んでいる。


そこへ、一人の青年がノックと同時に店に入ってきた。

素早い身のこなしで店内を突っ切る青年は、スカイブルーのきりりとした瞳で、店主を探す。

短く刈り整えられた金髪で堂々と動き回るその姿は、まるで騎士の様に精悍であった。


棚の隙間から店主を見つけた青年は、満面の笑みで踊る様に回転しながら、棚をすり抜け作業台へと近づいてきた。


青年の手には、一枚の紙が握られている。


レーシーは、作業していた手を止め、目の前に差し出された紙を青年から受け取った。


青年は、目を細め嬉しそうにレーシーを見つめ、そして今度は珍しそうに店内を見回り始めた。

「あ、これ懐かしい。あの時のぬいぐるみ。ここに飾ったんだ。」

「あ、これも。そっか。いいな。いいなー。あ、これは見た事ないな。新作か?」

店内を隈なく探索し、楽しそうにくるくるしている。


レーシーは、ディープブルーのつぶらな瞳で青年を見据えながら、

「貴方のお名前。これによると、ルークとなっているけど、私の新人護衛騎士?」

そう尋ねた。


「おかしいわね。」飴色の柔らかで少しカールががった髪をふわりを揺らし、小首をコテンとかしげてみせた。


レーシーのコテテンを見て、ふにゃりとした笑みを浮かべたルークは、すぐに表情を引き締め、背筋を伸ばして彼女に凛々しく宣言する。


「はい、間違いではございません。私の名前はルーク。明日からこちらで、貴殿の護衛の任に就かせていただきます、ルークです。護衛騎士の新人ルークでございます。とても大事なので3度言いました。」


「本日は、我が主人となりますレーシー嬢へ、ご挨拶に参りました。えー、ふつつか者ではございますが、何卒、よしなによろしくお願い申し上げます。」


青年が言い終わると同時に、レーシーは、ぷっと吹き出し彼に、はちきれんばかりの笑顔を向けた。 


そして、作業台に両手で頬杖をつき、言った。


「どう言う事なの?ヴォルフ殿下。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る