第2話 バーサーカー

ちょうど明け方で周囲が明るくなり始めていた時だった。

「おい、起きろ、魔物が現れた すぐ動けるようにしておけ」

ムートの声に私はすぐに飛び起きテントから出た。

残念ながら起きたら元の世界に戻っていたなんてことなかった。

それどころか緊急事態だ。


魔物って??


キュレネは細身の剣をムートは大剣を手に持っており、2人ともすでに戦いの準備ができているようだった。


「コボルドが数匹、近づいてきている。お前はそこで待っていろ」

とムートに言われ不安そうな顔をした私に

「私たちは強いから心配するな」

と付け加えられた。


2人は飛び出して行き、私の5メートル前ぐらいで構えた。


犬顔の2足歩行生物で140cmぐらいの大きさの茶色い魔物が6匹で群れを成して近づいてくる。

なにあれ、この世界はあんなのがいるのね。

2人とも、平然と向かっていったけど大丈夫なのかしら?

と思って見ていると


まず一匹ずつキュレネとムートにとびかかる。

それをキュレネは風魔法「エアカッター」でムートは剣の一振りで簡単に倒していく。


2人ともすごい。


今度は2匹同時にムートのほうへとびかかるもムートは一匹はよけながらもう1匹を一振りで倒して振り返りざまに先ほどのよけた1匹も倒してしまった。


自分で強いというだけあるわね。

これは楽勝ね。

と思った瞬間背後に気配を感じた。


振り返るとそこには2mほどもある大きなコボルドが立っていた。


「キャー」

悲鳴を上げるも驚いて体か固まってしまった。

逃げなきゃと頭では思っても足が動かない。

次の瞬間、鋭い爪のついたコボルドの右腕が私の頭をめがけて振り下ろされる。

私は反射的に顔を背け左腕を前に出し頭をかばうような姿勢をとっていた。

『誰か助けて』と心の中で叫ぶもその思いも届かず、左腕にものすごい衝撃が加わる。


あっ、これは死んだなと思った瞬間、時間の流れがゆっくりに感じる。死ぬ前に走馬灯のように思いが駆け巡るという言葉が頭をよぎった。が、そんなことは起こらない。


代わりに先ほど衝撃を受けたはずの左手は軽い重みを感じているだけになっていた。

コボルドの殺気立った顔とは裏腹にやさしく手を乗せられているだけなのではないかと感じるほどだった。

軽く左手を振り上げるとコボルドは大きくバランスを崩す。

あれ? 動きが止まってる?おなかに攻撃できそう。

すかさず、右手に力を込める。

「ゴッドブロー」

なんとなく頭に浮かんだ言葉を叫びながらパンチを放つ。

青白い光に包まれている自分のこぶしを不思議に思いながら眺めていた。

それがコボルドを吹っ飛ばすと同時に衝撃波が腹を貫き抜ける。

飛ばされたコボルドは近くの木に当たりどさりと落ちた。

その時にはもう動かなくなっていた。


なにこれ、この力、私ってこの世界じゃ本当に女神様かも。体重100kgはありそうな魔物を簡単に吹っ飛ばせるなんてやばいわね。そんなことをボーっと考えているといつの間にか体が元の状態へ戻っていた。



「バーサーカー」

私の悲鳴を聞いて急いで戻ってくれたムートが呟く。


「ん?目が赤くなったけど大丈夫か?」

「えっ?平気です。たぶん」

目が充血でもしたのかな?


「ならそれはいいが今、エルダーコボルドを素手で殴り倒したよな?

なるほど、国を救ってくれといわれるだけの力はあるようだな。おまえ、バーサーカーか?」


バーサーカーって強いけど敵味方なく暴れる狂戦士とかいうやつだよね。

イメージ悪いな。


「バーサーカーではないと思うのですけど女神様とかには見えませんでした?」


「お前の国の女神は素手で魔物を殴り倒すのか?」

ううっ、そういわれると言い返せない。

たしかに女神様のイメージじゃないよ。

「そんなことはしないわね」


「まあいい、そんだけ強いなら冒険者になって一緒にパーティ組まないか?」

冒険者なんてできる気がしないんだけどと思っていると、残りのコボルドを倒したキュレネが戻ってきた。

「ムートが人を誘うなんて珍しいわね。でもティアはまだ子供だから冒険者登録できないわよ」

「年なんかごまかせばいいじゃん、知り合いがいなからばれないよ」

なんでも早く冒険者になりたくて歳をごまかして登録をするとばれた時に、登録無効となり、さらにごまかした歳の分の期間だけ再登録できる日が通常より遅くなるペナルティがあるらしい。


「何歳から登録できるんですか?」

「15歳よ」

「私15歳ですけど」

「ごめんなさい」

めちゃくちゃ気まずい顔で謝られた。

この国の成人は15歳で二人も同じ歳だったようだ。

確かに私の印象でも二人は年上に見えたからしかたないか。

「ちなみに私は何歳ぐらいに見えました?」

「10~12歳ぐらい」

ここではだいぶ子供っぽく見られるんだ。

確かに身長はこの二人と比べ小さいけど......

それとも顔が子供っぽいの? 


「ならパーティの件、私からもお願い。冒険者をしながらあなたの必要とする情報を集めるのはどう?もちろん協力するから」


正直、こんな右も左もわからない世界で一人で生きていけるわけない。

この人たちと一緒に行動できるならそっちのほうがいい。


「よろしくお願いします」

「ありがとう、同じパーティになったし、同年齢とわかったんだからため口でお願いね」


「とりあえず武器を用意しておくか」

ムートはそう言って森の中でちょうど握りやすい太さで1メートルぐらいの長さの木の棒を持ってきた。

エボーの木と言ってふつうの木よりも重くて硬いものだそうだ。

キュレネが魔法で木を乾燥したあとムートが剣で形を整えてくれた。


「その服装だと、木の枝とかに引っかかって大変だ、これを貸してやる」

雨具用に持ってきたんだと言いながらポンチョみたいな服を貸してくれた。


初期装備が木の棒とポンチョって......

こんなのありえないと思っていた某RPG並みにひどいよ。


一連のやり取りの後、倒したコボルドの魔石は回収し、テントなどを片づけて町へ向けて出発した。


先頭はムート私が真ん中で後ろがキュレネだ。

最初だけ私が付いてこれるか心配してたけど、大丈夫そうだと思われたのか容赦なしだ。

途中、枝を払いのけたり 段差があったり結構ハードなルートを迷うことなく進む、ムートは森の中でもどの方角に進んでいるか感覚でわかるらしい。

場合によっては魔法で道を切り開いたりもする。もう何時間も歩き続けている。


だけどなぜかあまり疲れていない。


私にこんな体力あったっけ?いやない。

と頭の中で反語突っ込みをしながらここに来るまで何度も異常は感じていたことを思い浮かべる。

木の枝につかまりながら移動するときもおさるかっていうぐらい楽々進めたし、木の枝だって簡単に折ることができたジャンプ力なんかも時代劇の忍者かっていうぐらいあった。


私、身体能力が5倍ぐらいになってるかも?


でも魔物を倒した時の力は5倍なんてもんじゃなかった。

あれは多分自動車とけんかしても勝てるぐらいの力があったと思う。

あの大きな魔物でさえ手ごたえがなかった。

それに、周りの動きが超スローに見えた。

名付けるなら『女神モード』とでも呼ぶべき状態になっていたと思う。

道中、密かに再現できないか試しながら歩いていたのだが、残念ながらまったく再現できなかった。


火事場の馬鹿力みたいなもんだったのかなぁ......



「ゴブリンだ」

先頭を歩いていたムート手を挙げ合図した。

緑色で鼻が高く、耳が大きくてとがっている小柄な人型の魔物だ身長は130cmくらいでこん棒や石斧みたいな武器をを持っている。


全部で5匹いる。


「向こうは気づいてないみたいだから魔法でやっつけちゃいましょう」


そういうとキュレネが風魔法を放つ。

同時にムートが飛び出し回り込んで退路をふさぐ。


キュレネが風魔法で3匹しとめる。奥にいた2匹は手前のゴブリンが盾になったのでほぼ無傷だ。

すかさずムートが飛び込んで1匹をしとめる。


残り1匹はムートと私たちの挟み撃ちだ。


「ティアちょっと腕を見せて さっき私はあまりよく見れなかったのよ」

キュレネの無茶ぶりだ。

えー 結構怖いんですけど。でも役立たずとばれても困るしなぁ。

まあ私のほうがリーチも長いし、隙だらけに見えるから大丈夫かな。


とりあえず中段に構えながら近づき、間合いに入った瞬間、振りかぶりながら踏み込んでまっすぐ頭めがけて振り下ろす。


ゴブリンはとっさにこん棒を前に出すもこん棒ごと真っ二つになっていた。


魔石を拾いながら、木の棒っていうのも案外武器として使えるのね。

とか思っていると


「あなた、その剣技もすごいけど、魔法もすごいのね」


「魔法?」

いや、魔法なんて使ってないけどなんで私褒められた?

剣のほうは昔おじいちゃんに習ったのよね。最後の務めとしてどうしても子孫に残したいといわれて


「身体強化とエンチャント使ってたでしょ。あなたのその華奢な体から繰り出せるスピードとパワーじゃなかったわ。それに木の棒でゴブリンと持っていたこん棒を両断するなんて、あのこん棒、ベルコっていうかたい木でできているの鉄の剣でもなかなか切れないわよ」


「私、魔法なんて使えないよ」

「魔法なしであの攻撃ができるわけがないのだけど無意識に使えるのはバーサーカーの特殊能力なのかしらね」


なるほど魔法で強化されてたのか、どうりで異常な身体能力だと思ったよ。さらに言うならメンタルも強化されている感じがする。


バーサーカーって言われるのはちょっと嫌なんだけど、私に変な能力があってもバーサーカーだからってごまかせるのはいいよね。とりあえずバーサーカーの件は保留にしておこう。


「魔法は普通どうやって使うの?」


「使う魔法の魔法陣イメージするんだけど、魔法には属性があって、その適性がないと使えないの。冒険者登録をするときに魔法適正を調べるからその時、適性のある魔法を教えるわ。ちなみにさっき使った身体強化は光魔法、エンチャントは土魔法が最も効果が高いと言われているのだけど、身体強化とエンチャントに関してはたくさん研究されていて他の属性の魔法でも同じような効果を出せるものがあるとわかってるからティアがどの属性に適性があるかは何とも言えないわ」


あとのお楽しみってとこね。


そんな会話をしながらいったん休憩を取り、さらに数時間歩いていくとようやく木がまばらに立っている草原のような場所にでた。近くに舗装はされていないが幅4mぐらいある道があり、その先にはよくファンタジーで見かける城壁で囲まれる中世ヨーロッパ風な町が見えていた。


その道をしばらく進むと、高さ10mを超える外壁で囲まれた町『ウィスバーロ』に到着した。私は外壁の迫力に圧倒されつつ出入りする人々を眺めていると大きな門の前では衛兵が訪問者をチェックしていた。


何を確認してるんだろう。私、この国の人じゃないってすぐわかるみたいだし町に入れてもらえるの?


そんな心配をよそにムートが取り出した書類を衛兵に見せる。

ちょっと渋い顔をして

「ゴルフェのものか......」

と呟くと村長の娘と従者ということを確認してすんなり通してくれた。


従者の人数とかまではチェックしないんだ。

「ここを毎回通るたびにその紙をいちいちチェックするの?」


「なくても通れるわ、ただ怪しいと思われたら色々調べられて面倒なの

冒険者登録をすれば登録証で通れるわ。 顔見知りになれば顔パスよ」


そんなに厳しいわけじゃないんだと思いながら町へ入る。

町へ入るとまっすぐな石畳のメインストリートがあり、道沿いには4、5階建ての建物が並んでいた。奥には広場のような場所がありかなりの賑わいを見せていた。

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