出会い

描空

彼女

 知っているようで、知らない。だが確実に存在している。その存在を僕はこう名付けた。と。


 の美術室、の机と椅子、そこにいるの女の子。だが、この世界で一つとして同じものは無い。唯一無二な存在。いつからか僕はあなたを見つめるようになっていた。


 高校生になった僕は、中学からしていたバスケを続けようと考えていた。


「ねぇねぇ。君新入生?指長くて細いね。良かったら美術部見て行かない?」


 僕は強引な勧誘を断りきれず渋々美術室に足を運んだ。


 そこには一人女の子が座って絵を描いていた。


 何故か彼女から目が離せなくなっていた。


「そんなところで何してるの?」


 彼女が優しく声をかけてきた。


「ええと、先輩に美術部見て行ってと誘われて見にきただけです。」


「そう。自由に見て行って。」


 彼女はそっけなく言った。


 僕は美術室に置いてある画材や先輩の作品を一通り見て感嘆した。


 僕もこんな作品を作って見たいと思った。だが、僕は指先より体全体を使う事のほうが向いているようだった。だから中学ではバスケ部に入ったのだ。


「あの、僕も先輩方のように綺麗な作品を作れるとおもいますか?」


「美術は綺麗汚いじゃないの。自分が作りたいものを作れば良いの。だからそんな事気にしなくて良いわ。」


 僕は美術部に入る事を決意した。


 次の日から僕は彼女をデッサンし始めた。


 デッサンしている事は彼女にバレていたと思うがそんな事気にせず僕は彼女をデッサンし続けた。


 美術部に入部して一年僕の絵は誰が見ても上手と言うほど上達したが、彼女が言った作りたいものを作れ良いと言う言葉には到底届いていなかった。


 彼女の優しさ、美術に対する熱意、そのような感情の部分を落とし込むには二年の月日が掛かった。


 彼女が卒業する前に仕上げることが出来たがこの作品を美術室に飾ることも捨てる事も出来ずに美術室で突っ立っていた。


「それ貰ってもいい?」


 僕は彼女に自分の気持ちと同時に作品を手渡した。


 は卒業式で泣いたのか分からないが目から涙を流しながら僕の気持ちと自分の気持ちも同じだと伝えてくれた。


 僕は知っているようで、知らなかったこの存在にようやく出会えた。


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出会い 描空 @kakunikominopaa

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