雪夜コンコンっ!
白千ロク
本編
深夜のコンビニバイトを終えた早朝。まだ日が昇らないからだろうか、はらはらと雪が降ってきたようだった。天気予報では今日と明日は大気が不安定になり、寒波の影響を受けやすくなるので雪が降るかもしれないと言っていたからか、雪が降るのはまあ解る。山沿いは特に降りやすくなり、平地でも降る可能性があると言っていたし。ここは平地だが、雪が降らないこともないからね。過去には5センチほど積もったこともあるし。
雪が降るのは解るが、子狐が降ってくるとは思わない。「むぃぃぃー!?」と慌てたような声が聞こえたからか、思わずとっさに受け止めてしまったではないか。腕の中にいる子狐は「むぃー!」と元気よく鳴いて、頬を擦り寄せてきた。君は初対面の人間に懐きすぎ!
しかし一体どこからやってきたんだろうか。竜巻に巻き込まれた? いやでも、竜巻注意情報は聞いてないし、そもそも体重があろう子狐が巻き込まれる竜巻なんて災害級だろう。考えたくない。
真っ白ふさふさ子狐はむぃむぃ鳴きながら頬を擦り寄せてきている。どうやらコンコンとは鳴かないらしい。まあ、この子だけ鳴き方が特殊なだけかもしれないから、調べるけど。
片腕に子狐を寄せて片手はスマホを握る。尻ポケットから出したてだからか仄かに温かい。手袋をしていたら解らないが、素手だからなオレは。手袋を忘れたんだよ、言わせんなって。
さくっと調べだところ、鳴くのか鳴かないのかよく解らなくなった。更に調べようとするが、子狐がスマホを持つ手の袖を噛んだ。ああ、飽きたのか? ならもういいや。寒いし、早く家に帰ろう。
◆◆◆
家に帰って明かりをつけ、エアコンをつけると寝てしまったらしい子狐をクッションに下ろす。むひゅ〜という寝息とともにミミがピクピク動いているようだった。リラックスしているならいいか。威嚇されても困るし。
玄関に戻ってコート脱ぐと一度を払い、部屋へ戻る。スマホと二つ折り財布は脚の低い丸テーブルに置くと、オレの方も一眠りするかと敷いたままの布団に潜る。瞬間、眩い光が辺りを包んだ。
飛び起きても、眩しさに「眩しっ!」と瞼を閉じただけだったが、なにが起きたというのか。
『
柔らかな声におそるおそる目を開くと、これまた真っ白な狐がいる。大きさ的には成獣だろうか。浮いているのが気になるが、赤色の瞳を見ると野生動物ではないことが解ってしまった。野生動物でも白色の狐は生まれるかもしれないが、赤目はないだろうし。
子狐の母という狐の話を聞くに、彼女たちは雪の精らしい。子狐ははしゃぎすぎて雲から落ちたという。打ちどころが悪かったら雪の精でも死ぬしかないので、オレが受け止めたことで死を免れた。
『ありがとうございました』と再び頭を下げた母狐に対して「いえいえ。大したことはしてません」と答えると、母狐は子狐の元へと寄っていく。やはりふよふよ浮きながら。
『さあ、帰りますよ〜』
『むぃ〜?』
薄めを開けた子狐は母狐を見ると、『むぃ!』と元気よく起き上がってからオレに近づいてきた。
どうしたのかと見ていると、手に頬を擦り寄せてきた。ありがとうと言うように。
「もう落ちるんじゃないぞー。危ないからな」
ふわふわの頭を何度か撫でると、『むぃー!』と答えてふわりと消えた。跡形もなく。さすがは精霊。人智を超えているなあ。
これはある冬の出来事である。
(おわり)
雪夜コンコンっ! 白千ロク @kuro_bun
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます