時代はまた巡る
岸亜里沙
時代はまた巡る
ここは26世紀の地球。
この世界から芸術を創造する職業は消え失せた。
デジタルアート、小説、音楽、映画。
それらの娯楽を提供するのは、今では全てAI。
23世紀までは、人間がエンターテイメントを生み出していたようだが、いつからかAIがそれにとって代わり、AIの生み出す独創性に人間は敵わなくなってしまったようだ。
量産性の如く、毎日のように生み出される極上のエンターテイメント。
それが当たり前になり、人間は神から与えられた創造性を発揮するのを忘れてしまったのだろうか。
だがある時、Tエリアに居住するマイクという少年が母親に打ち明けたそう。
「ママ、僕は将来小説家になりたい」
マイクの母親は、目を丸くした。
小説家というものが職業として存在しない以上、マイクの言葉は母親にとって理解出来ないもの。
息子が宇宙人になりたいと言っているのと、同じ感覚なのだろう。
「ねえマイク、小説家って何?」
「物語を書く人の事さ」
「それはAIのお仕事よ」
「だけど僕はやりたいんだ」
「物語をどうやって作るの?」
「頭で考えるんだよ」
「だったら他のお仕事で頭を使いなさい」
「嫌だ。僕はもう決めたんだ。小説家になるって」
「マイク、誰もAIには敵わないのよ」
「確かにAIは完璧だね。でも僕は、不完全なものにも魅力はあると思っているんだ」
「不完全なものに魅力なんか無いわ」
「ママ、人ってみんなそうやって生きてきたんじゃない?不完全だけど、もっと良くするため悩んで知恵をしぼって。その人間らしい心は、本当は芸術の中に溢れているはずなんだ。心地よい音楽の中にもそうだし、もちろん素敵な物語の中にもね。だから僕はそれを見つけたい」
母親はもう何も言いません。
マイクの熱意ある言葉に、同意するしかありませんでした。
その後マイクが小説家になれたのか、この話を書いたAIのみぞ知る。
時代はまた巡る 岸亜里沙 @kishiarisa
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