愛が罪に変わる時

ひす

第1話 軽い始まり

男なんてそんないいもんかね。

どうせ傷つくだけじゃんか。

妊娠しただのさせただの、バカみたいな話だ。

それなら音楽でも聴いていたほうがいい。


惚れた腫れたで笑っては泣く同級生を見て、私はそう思ってた。


彼と出会うまでは。


出会いなんてどこに転がっているか分かったもんじゃねぇ。

少なくとも、私が予期できるもんじゃなかった。


「お姉ちゃんもBOOWY好きなの?」


学校から帰る途中、真新しい制服に着られてるようなチンチクリンが私に後ろからそう言った。

私のカバンについたキーホルダーを見て、振り向いた私をキラキラとした目で見つめる。


「あぁ、好きだけど」


「若いのに珍しいね。なかなかいないよ」


私が生まれた時には、とっくに解散して伝説になってたバンドだ。

親だって世代じゃねぇ。

それなのに、どの口が言う。

面白いやつだと思った。


「おまえのほうが若いだろ。ガキがおっさんみたいなこと言いやがって」


「お姉ちゃん高校生でしょ?僕と何歳かしか変わらないじゃん」


「おまえ中学生だろ?年上に若いって言ってるのがおかしいってんだよ」


「そんなつまんないことにこだわるのは、ロックじゃないよ」


私の主張のほうが正しいはず。

そのはずなのに、曇りなく微笑む彼の言葉に私は反論できなかった。


いつかは覚えてない。

思い出そうとしても出てこないけど、私はこれに近い感覚を知ってる。


「気に入ったよ。私は石川薫。16歳だ。おまえは?」


「僕は川端誠。12歳だよ。いい名前でしょ?」


「寅泰なら最高だったな」


「氷室じゃないんだ。薫って変わってるね」


「そんなことねぇだろ。ってか、いきなり呼び捨てかよ。どうせ友達いねぇだろ。私がなってやるよ」


「友達くらいいるよ。薫は友達も彼氏もいなさそうだけどね」


「私だって友達なんているよ。彼氏は…まあ…」


「僕は彼女いたことあるよ」


「別に聞いてねぇよ。さっさとスマホ出せ」


二度と会えないのは嫌だから、連絡先は交換した。


また明日、この場所でこの時間に誠と会えるかもしれねぇ。

別に明日じゃなくてもいい。

でも会える保証なんてねぇから、私から言った。


知ってる感覚のはずなのに思い出せねぇ。

もどかしさの裏側にある正体は、きっと誠が教えてくれるはず。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る