オトナのおんなのひと
「シッポどこやっちゃったの?」
ホテルを降りるエレベーターに乗ってる時、リツカからそんなことを言われた。
自分の腰裏に急いで手を当てる、確かにそこには何も無かった。
「アイツにやられたからか……?」
ストラッツォに何かしらの封印のようなものを施された、思い当たる理由はそれしかない。
だから俺は試しに右手だけ変身してみようとした、安易にそんなことを実行したのは、どうせ無理だとタカを括っていたからだ。
しかし。
——ボゴッ!
「うおっ!?」
肥大化する俺の右腕、銀色の毛並みが一瞬で生え揃い、筋肉の質がヒトの物ではなくなる。
変身した俺の背丈は五メートルを超えていた、そんな奴の右腕が突然現れたら、この狭い箱の中じゃ収まりきらない。
「きゃあー!」
壁に当たってカールした俺の右腕は、リツカの履いているスカートを切り裂き、そして壁を突き破って外に飛び出した。
——ガゴン!
「「あ」」
不安な揺れ方をするエレベーター内。
「……ボクのスカート、どうしてくれるんだ」
上の方から聞こえる、ブチブチという何かが引き千切れる音。
「大丈夫、俺に名案がある」
——ブヂィッ!ガゴォン!
「どこが名案なんだぁぁぁぁぁーーーーー……」
朝っぱらから、一悶着を起こす俺であった——。
※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※
「あれーリツカちゃんなんで今日ズボンなの?」
「リュウイン君にスカートを破かれたせいだよ」
「え……?」
教室に着くなりさっそく俺の悪評をばら撒き始めるリツカ、だが自業自得なので何も言えない、甘んじてその冷たい視線を受けよう。
「だ、ダイナミックなプレイだね?」
——ガダンッ!
机に着いていた肘がうっかり外れた。
「ゲホッ、ゲホッ……ちが、そんなんじゃ……」
リンゴジュースをストローで飲んでいたリツカも、トンチンカンな反応に涙目で咳き込む。
周りの女子が『あーあー』と言いながら背中を撫でている。
「ちょっとユナ!あんたのせいでリツカちゃんの気管がジュースまみれになったでしょ!」
「だってスカート破くって意味わかんないし……」
口元に指を当ててうーんと唸りながら、その女は周囲を見渡し、そして自分の席で荷物の整理をしている俺の姿を見つけると。
何か思いついたような顔をして、こちらにスタスタと歩いて近付いてきた。
そしてバンッと机に手をついて、透き通るような好奇心の目でこう言った。
「ねえ!なんでスカート破いたの?」
「そういうプレイだよ」
「ぶはっ!」
向こうで飲み物を吹き出すリツカ。
「アタシのスマホがぁぁー!!!」
向かい合って座っていた生徒が被害を受ける、ありゃしばらくベタつくぞ。
「やっぱり二人付き合ってるんだ!」
まったく別の方向に納得する女、今度は恋愛的な好奇心が膨らんだようだ、俺の手をパシッと握って見つめてくる。
「どっちから告ったの?」
「そりゃあーッ!」
——ゴギ!
リツカが突然ドロップキックをかましてきた、顔面モロにそれを食らった俺は、椅子ごと吹き飛んで窓を突き破る。
「危ない危ない、顔にハチが止まっていたよ」
無理な言い訳をするリツカ。
「あー、えーと……ラブラブだね!」
自分の見たい良い方向にしか解釈しない女。
そしてなんとか外に放り出される前に、窓枠を掴んで落ちずに済んだこの俺は、ヒョイと体を引っ張り上げて教室に戻る。
「ズボンの利点、活用してるみたいでなによりだ」
フーッと息を吐きながら椅子を回収する、ところで机は何処に行っちまったんだ?
「……流石に少しは怒って欲しいんだけど、じゃないとなんだか逆に怖いよ」
「良い蹴りだったぞ」
「ごめんなさいボクが悪かったです!」
——ガララッ!
「おねーちゃんを虐めるなァーッ!」
勢い良く扉を開いて飛び込んできたルプルグは、何処から取り出したやら金属バットを片手に、俺の元に走り込んできてそれを振りかぶる。
——コーン。
あまりの突然のことに対処しきれなかった俺は、ド頭ホームランを食らって吹っ飛んだ。
——ガシャーン!
そのまま壁を突き破り、今度は復帰の望みすらなく落下して、地面に背中を強打する。
——ドスーン!
「……はっ!?やっちゃった!ごめんなさい!」
空いた壁の穴から身を乗り出し、悪気はなかったんですと大声で泣きながら謝罪をするルプルグ、その彼を後ろから撫でて抱きしめるリツカ。
「キミはなんにも悪くないんだよルプルグくん」
——カラカラカラ。
ちょうど落ちた先は保健室の前だったようで、開いた窓から白衣の女が顔を覗かせる。
「やっほぉーイケメンくぅん、うち寄ってくぅ?」
ちなみに俺は。
「……ってありゃ、気ぃ失っちゃってるよぉ」
打ちどころが悪くて白目剥いていた。
※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※
「えーっとぉ、何処やったっけなぁ」
ガサガサ、ガチャガチャ。
「あ、あったあったぁ、これこれぇ」
チャキッ、カチャッ、シャーッ、シャーッ。
「じゃー始めよっかぁ、解体♡」
朦朧とした意識の中で、聞き捨てならないセリフを耳にして、突如俺の脳みそは覚醒を迎える。
「——!?」
目を開けると俺はベッドに拘束され、そして強い光のライトを腹に向けられ、傍にはマスクをした保健室の先生がメスを片手に立っていた。
「あらぁ、麻酔が足りなかったかしらぁ」
本能的な脅威を感じ取り、俺は腕や足や首の拘束具を引きちぎり、まるで猫のような身軽さで跳躍し保健室の先生から距離を取った。
「何しやがる!」
地面に手を着きながら威嚇する、この体勢は意識的にやったものではない。
「何ってぇ、君の不思議な体をちょっと、開いたり閉じたりしようとしただけよぉ」
白衣を靡かせこちらに向かってくる保健室の先生、確か名前はシノザキだったけか、彼女は明らかに常軌を逸していた。
「来んな!」
地面を蹴って前に飛び出す、拳を構えながら懐に入り込み、顎先を狙って真っ直ぐ突き出す。
相手はただの頭のおかしい人間だ、手加減してやらないと死んじまう、なんて思ったのが俺の犯した間違いだった。
——フラッ。
「……!?」
まだ麻酔が効いていたこの俺は、中途半端に力を制御しようとしたせいで、崩れゆく体勢を整えることができず、そのまま前方へつんのめる。
——ぽふん。
「あら、大丈夫?」
シノザキに受け止められる俺、ついでに太ももに何か注射を打たれる、途端全身から力が抜ける。
「安心して、開いたら閉じるのが決まりだから、私これでも昔は研究員だったのよ、頓挫したサイボーグ計画のだけど」
何も安心できない事を言いながら、俺の体を優しく撫でますシノザキ、たのむリツカ来てくれ。
——ガラガラッ!
そんな俺の願いが通じてか、保健室の扉が鍵ごとぶっ壊して開き、見たかった奴の顔を覗かせる。
「リュウインくん!ここから気配がしたけど」
彼女は部屋の状況を目撃して。
「あら?追加の非検体かしら」
シノザキ先生に抱きしめられている俺の姿を見て。
「……そ」
——そ?
「そんなにオトナの女性が好きなのかっ!!!!」
バタン!ガシャーン!
扉のガラスが粉々に砕けるだけ力を込めて閉め、そのまま泣き喚きながら廊下を走って何処かに逃げて行ってしまった。
「……ウソだろ」
絶望し、唖然としていると。
「えーと、相談、乗ってあげよっか」
こうして、シノザキ先生が恋愛相談(仮)に乗ってくれる事になったのだった——。
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