褐色ボクッ娘ちゃんと饒舌狼くん。〜これ以上の出会いがあろうものか〜

ぽえーひろーん_(_っ・ω・)っヌーン

意味不明大会合。ラッキーカラーは黒。


この俺、カブラバ リュウインの自宅が、突然ガス爆発を起こしてぶっ飛んだ。


「……」


メラメラとぶち燃える我が家を前に、目元をヒクつかせながら呆然とする、何の前触れもなく俺は住む家を失った。


それから色々あって解放されて、煤に汚れた焦げた服に嫌気が差し、真冬の雪の降る空の下、手頃な服屋に入って商品を選んでいたら。


——キキーッ!ドガシャァァァァン!!


入り口を破壊して自動車が突っ込んできた、これから並ぼうとしていたらレジが、目の前で木っ端微塵にされてしまった。


「……」


立て続けに起こった不運どころじゃない出来事に、俺はすっかり参ってしまい、どこか触れる場所で休みたいと思った。


それで見つけたのが公園で、真っ白なベールに覆われた遊具の立ち並ぶ、ちょうど近くに自販機なんて置いてある、まさにうってつけの場所だった。


——ふみ。


「?」


そのまま流れでベンチに座ろうとして、足の裏に地面ではない踏み心地を感じた。


特に何も考えず、半ば反射的に、違和感の正体を確かめるべく視線を下に落としてみると、そこにあったのは人間の女のケツだった。


一瞬フリーズして、すぐに再起動、俺は人生で一番素早い飛び込みを披露しつつ、女の体を抱き上げて思い切り叫んだ。


「大丈夫かっ!」


すると返ってきた反応は。


「人がせっかく五体投地で涼んでいるのに、邪魔をしないでもらえるかな」


という、常軌を逸したものだった。


一瞬意識が飛びかけたが、女の容姿を観察することで何とか堪える。


黒い髪、褐色の肌、そこそこ高い背、悪い顔で笑うのが良く似合いそうな顔面に、パッと見で年齢のわからないその体格。


落ち着いてきた、正気を取り戻してきた。


「頭でも打ったのか?」


とりあえずそう質問する、まさか本気で答えたわけではあるまい、強がってふざけたのかもしれん、それか一時的に脳みそが狂ったのか。


「いいや?でもまあ撃たれはしたけどね」


撃……。


と思って後頭部を支えた手のひらが、何やらべたりと濡れているような気がして、チラと視線をやって確かめてみてみると。


俺の手のひらは雪を染め上げる真っ赤さで、それはどう見ても人間の血液だった。


「ボクとしたことが、撃たれた衝撃で腰をやっちゃって、そのまま倒れて動けなくなってしまって、かれこれ三時間くらい心細かったんだ」


『でもこれで安心さ!』と元気よく良い、続けて彼女は俺に向けてこう言った。


「キミちょっとこれから血を吸い尽くすからそれまで大人しくへぶぁっ!?!?」


良い加減キャパオーバーだバカヤロォ、続けて起こった異常事態に、俺は脳の処理が追い付かず、元々備わっている動物的な防衛本能から。


女の顔面を真上から拳で叩きつけ、そのまま全身の力を込めて振り抜き、地面とのサンドイッチをくれてやった。


——ボゴォッ!


派手に雪煙を巻き上げて、女は数度地面をバウンドし、何メートル先か離れた場所に落下した。


「フーッ、フーッ……」


やっちまった。


頭は意外に冷静だった。


俺は自分が間違いなく人を殺したと思った、だって頭から血を流してたんだぜ、そんな状態の奴にあの一撃を見舞ったら、そりゃお陀仏だろうよ。


まずは明鏡止水、落ち着いて深呼吸、それから落ち着いてストレッチを開始して、その後全力フルスロットルダッシュ。


「——ッ!!!」


ひき逃げ犯の気持ちなんて、一生わかることないと思っていたけれど、なるほどこんな感じか、俺はとにかく遠くへと離れるのだった……。


※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※


その次の日。


俺は引き続き放火犯の気持ちも知ることになる。


つまりあの公園に立ち寄った、いったい女の死体はどうなったのかと。


「まだあのまんまか……」


状態は昨日と何も変わらなかった、てっきりもうとっくに誰かが通報して、そのまま事件になってると思ったのに。


また次の日。


流石にもう居ないだろう、そう思ってまた公園に顔を出してみると、いや普通に床に倒れていた。


「オイオイ、誰か通報しろよ……」


どの口で言ってるのか分からない感想を溢し、俺は恐る恐る女に近づいて行った、気分はまるでホラー映画で死ぬヤツのよう。


傍まで行って、ここまで来たら腹括って、もういっそ誰かに見られた方が楽だと思い、通報がどうだ警察がどうだという考えを頭から排除して。


しゃがみ。


それから揺すってみて。


「もしもし?」


そんなふうに声かけてみた、すると。


「たすけてください」


涙の河を流しながら、うおーんと泣いて、女は俺に助けを求めてきたではないか。


「……」


俺は頭を抱えた、この展開は予想していなかった。


どうするべきか途方に暮れていると、女は一度大きく息を吸い込んで、それから長々とこんな話を語り始めた。


「ボクって最近自殺して、つい先日火葬を終えたはずだったんだけど、なんか墓の中で復活しちゃって、そしたら雪なんて降り出すじゃないか


はしゃいで雪で遊んでたら、いきなり黒服の男の人がやってきて、銃向けられて金銭求められて


でもそんな生き返り方したら普通、何か特別な力があると思うだろう、だからボクは正面から男に襲いかかってみたわけなんだけど


いや、確かに弾丸は止まって見えたとも、本当に嘘のような体験だったんだ


でもちょっとボク運動神経が悪くって、避けるタイミング間違えて喰らっちゃって、そしたらギックリ腰やっちゃって、それからそのままだったんだよ」


支離滅裂なカミングアウトに、一周回って冷静になったこの俺は、とりあえず殺人犯になった訳ではないことに心の底から安堵した。


「ふー」


「え、今キミ『あー良かった』って思ったよね、この話聞いてその反応するかな普通、ボクが言うのも何だけどキミ頭おかしいんじゃないのかい?」


なんか言ってるけどもういいや、様子のおかしい奴にこれ以上構ってられない、ずっとあったつかえが取れて気持ち良い。


「もしもし、警察ですか?実はちょっと倒れている人を発見しまして」


「ちょっと待ちたまえよ人間クン、警察は悪手だと思うんだけれどボクは、どう考えても良い結果にならないと確信できるんだけれども」


——ブツッ。


「これでよし」


後は知ったことじゃない、全部ぶん投げよう。


立ち上がって雪をほろう、これで一件落着だ、後は警察が来る前にここから逃げるだけ、明日にはこんな出来事サッパリ忘れて普通の日常に帰還だ。


「待ちたまえ、待ちたまえよキミ!?ちょっとボクまだ動けそうにないんだけど!このままだと非検体Aエンドになってしまうっ!」


ごちゃごちゃ叫んでるのを思いっきしシカトして、学校のカバンを拾い上げて立ち上がる、さっさと家に帰って着替えたいんだ俺は。


「達者でな」


片手を上げてさようなら。


「待ちたまえーーーー……


背に聞かせる気の遠くなるような呼び声は、無論俺の足を止めさせることはなく、そのまま二度と会うことは無かったと。


そう言いたかった。


「——酷いじゃないか置いていくなんて」


家帰ってドア開けたらこのザマだ。


女は当たり前みたいな顔をして、俺の家で俺のゲーム機に電源入れて、俺のアカウントで暴言チャット打ちながらオンラインやっていやがった。


ホットパンツにタンクトップっつー、真冬に馬鹿みてえな格好したまんまで。


「……全然当たらねーじゃねーか」


ここ最近、ラッキーカラーは黒だったんだ——。

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