恐塊-kyoukai-

月真猫

第零話 恐塊

 はじめまして。短編集『恐塊きょうかい』に興味を持っていただき、ありがとうございます。

 ホラーというのは、異世界への扉を開くようなものだと私は思っています。幽霊や怪異の世界は、私たち生きる者には決して理解できない領域です。そして、「人怖」と呼ばれるような、人間の中に潜む異常性もまた、私たちの日常から隔絶した“別世界”の物語です。


 この『恐塊』は、そんな異世界へあなたを誘う作品群です。けれど、一つだけ注意してください。ホラーには『ソレ』を呼び寄せる力があると言われています。


 例えば、こんな話を聞いたことはありませんか?

 怖い話を99話語り終えた時、100話目を“そこにいない誰か”が語り始めるという噂。

 あるいは、怖い話を読んでいる最中、肩越しに誰かの気配を感じて振り返ると、スマホ画面に映った自分の後ろで“それ”が笑っていたという話。


 そして、この『恐塊』にも似たような噂があります。この短編集を読み終えた後、何も反応せずに閉じてしまった人々に、不幸が訪れることがある、と。


 ある人は突然体調を崩し、ある人は家族や友人との間に不和が生じ、またある人は――姿を消しました。


 もちろん、それが本当かどうかはわかりません。ただ一つだけ確かなことがあります。この物語を最後まで読んだあなたの背後にも、“何か”が立っているかもしれないということです。


 どうぞ、『恐塊』の世界をお楽しみください。そして、無事に戻ってこられることを願っています。

 最後に、この物語が気に入ったならば、最後まで読み続ける事、それが、『ソレ』から逃れるための唯一の方法かもしれません――。


 さあ、扉は開かれました。

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