#69 むにゃむにゃ
「――と、いう訳なのヨ!」
その一角にある特訓おじぃ道場にて。
最初は目線を合わせて正座をしていたが、いつしか熱が籠り。
気付けば演説の様に立ち上がって、大きな声で一人芝居が始まっていた。
それを胡坐をかいて聞いている玄武。
懐かしそうに、時折微笑んでいる。
反対に、
姿勢よく正座をしているが、眉間には常に皺を寄せ。
なにかを言いたそうに何度も瞬きをしている。
「ル~ルル~ルルルル~ルル~ルルルラ~ラ~ラ~ラ~ラ~ララ~」
彼の頭の中では、壮大なスタッフロールが流れているのかもしれない。
「――で、どうだった? アタイの活躍劇は?」
「……え? アンタの活躍なんてあった?」
そもそも
当然そういう話だと思って聞いていた
謎に見つめ合う時間が流れる中、玄武と
「
金髪幼女の
「アタイは
「うむ! トモダチとはそういうものなのじゃな。良い勉強になったぞ!」
顔を近づけ、目を輝かせ。
その横で、
「……
「ふっふっふ。
そう言って、何故か誇らしげに胸を張る幼女(
その後ろへ視線を向ければ、大きなリュックを抱き枕にして「むにゃむにゃ」と眠っているラクナの姿(
「最近は人が多い場所に居すぎて、疲れちゃっているのかしら」
と呟き思考を巡らせる。顎に手を当て、真剣に悩んでいるようだ。
すると床に転がっている木片を拾い、ラクナの為に掛け布団をクラフトし始めるのだった。
その横で、
「それで、
身を乗り出し、興味津々で質問を投げる
だが、その問いに
「ノンノン。事件のあった五年後に、突然姿を消したのよ。探索用ドローンのGPSでも行方が分からなかったワ……。白虎ちゃんと籍を入れて、一緒にクランを作って。あのコ自身、順風満帆だったとは思うんだけど……」
「なんと……」
まさかの話の顛末に、
と、ラクナに布団を掛けて戻って来た
「それで……今の話は、お爺様の奈落探索にどう関係が……?」
もちろん、
そして、
ただ、それよりもまず。
なによりも
彼女は玄武の奈落探索失敗を期に、五年間の総てを奈落踏破の為に捧げたのだから当然だ。
熱意の籠った眼差しを向ける
「五年前、羽古根の未踏破ダンジョンが暴走しておると連絡が入ってのう。『生きているかのように、他のダンジョンへ次々と接続をしている』、とな。その時、儂はまるで二十年前の『鰐ノ門事件』の様だと思ったものじゃ」
「確かに……よく考えたらあの時のダンジョンは、今の奈落とソックリね」
「いざ奈落を探索してみたら、内部は鰐ノ門と比べもんにならんほど規模が大きくなっておった。だからとりあえずモンスターを減らすだけに留めるか、なんとか踏破を目指すかを迷いながら探索しておったんじゃが……。そんな時、
「ヤツ……?」
何のことか分からず首を傾げる
対して
「まさか……」
「うむ。頭部が三つ首髑髏のモンスター――お主等が鰐ノ門で出会った、通称『イレギュラー』と呼ばれるモンスターじゃ」
玄武の告げた事実に、
「同時に、分かってしもうたんじゃ。九雀が行方不明になった原因がのう」
「え……? ど、どういう事なの玄武ちゃん?」
「
九雀は『九刀流』という、この世に一つしか無い奇抜な戦闘スタイルを用いる。
それは九本の剣で戦場を舞い、一本ずつ敵の体に串刺していくというもの。
加えて、あのイレギュラーを追い詰めた数少ない探索者でもある。
八本の剣は、九雀がイレギュラーと戦闘をしたという何よりの証だった。
「そこでつい、奈落踏破よりも其奴を倒すことを優先してしもうた。探索よりも、復讐を選んでしもうたんじゃ。無視して踏破すれば、簡単に退けられたというのにのう。ほっほ」
玄武は、奈落での失敗談を話すと言った。
それは、探索よりも復讐を優先したこと。
それこそが、彼の失敗。
復讐の為だけに奈落踏破を目指した
「頭に血が上ると視野が狭くなり、魔力の消費も大きくなる。とにかく冷静な判断が出来ん。そんで、このザマじゃ」
そう言って、右目の眼帯を指差す。
努めて明るく話す玄武だったが、その内容に
ただ一人、興味津々で聞いている
「それで、その強いモンスターはどうなったんじゃ!? 倒したのか!?」
「うむ。ちゃんと倒したぞい」
「おおー。流石は古き良き英雄じゃ!」
力こぶを作る玄武に、パチパチと拍手を送る
「と言っても、勝てたのはあの子のお陰じゃがなあ」
そう言って向けられた玄武の瞳に映るのは、依然すやすやとマイナスイオンを出し続ける抱き枕系探索者――ラクナ。
それは、
五年ぶりに羽古根山で出会った日。
あの時も玄武は言っていた。
『――あの子はのう、儂の命の恩人なんじゃ』と。
そして、そのことについて口を開こうとすると、
――チャンチャーンチャチャン、チャンチャーンチャチャン。
どこからか流れて来る、聞き覚えのある音楽。
そう、これは――。
『――まもなく閉館のお知らせです。本日はお越しいただき誠にありがとうございました。またのご来館を心よりお待ちしております』
閉館のお知らせである。
どうやら
まだまだ聞きたいことが山ほどあった
「あ、あの、お爺様……」
「ほっほ。続きはまた今度でもええじゃろ。もう、いつでも会えるんじゃ」
「あ……は、はい……」
玄武が優しく諭すと、
それを見た
「
「……ええ、そうよ」
「それじゃあ
「ほっほ、そうじゃなぁ。では明日、聞きに来るとええ」
「……は、はい!」
間を取り持ち、約束を取り付けた。
その横で、話を聞いていた
「あさって? では、明日は何をするのじゃ、
「明日は普通に学校へ行って、放課後またここに顔を出す予定ね」
「ほう。ガッコウか。ほうほうほう」
「……駄目ですよ」
目を輝かせ、ニヤニヤと口角を上げる
その背後で、ずっと鳴りを潜めていた付き人――黒執が、ポツリと口を挟んだ。
「まだ何も言っておらんが?」
「貴方様が何をお考えなのかなど全てお見通しですが?」
「正体を隠せば良いのであろう? ちゃんと考えておる。
そう言って、自信満々の
彼女は着ぐるみで正体を隠しながら、
目立たない事への配慮は捨て、正体を隠すことだけに全振りした作戦。
黒執は言葉を返すことなく肩を落とし、特大の溜息を吐いた。
と、ここで。
玄武も
「まあ心残りがあるとすれば、清十郎には最後まで話してやれんかった事かのう」
「アラ、気付いてたのね。流石は玄武ちゃん」
ニヤリと笑みを浮かべる
すると、その体が淡い光を放ち始めた。
なにが起こっているのか分からず、顔を見合わせる
二人に向けて、玄武が髭を弄りながら口を開く。
「
本体と見た目や性格までもが瓜二つの偶像を生み出せるスキルだ。
かつ、感覚も共有しており、偶像が体験したことは全て本体も情報として得ることが出来る。
しかし、このスキルの最大のデメリットは、偶像を意のままに操る事は出来ず、本体の性格を反映して自由に動き回ること。
偶像が勝手に玄武へ決闘をけしかけ、自身のクランを景品として差し出している今回の件を例に見ても、そのデメリットは明らかだろう。
その上、任意のタイミングで消すことも出来ず、偶像が魔力切れを起こすまで消滅させる手段は無い。
そして今、その偶像に消滅のタイミングが訪れたのだ。
「んマ、アタイは玄武ちゃんに何が起こったのか知れただけで十分ヨ。話してくれてありがとう」
光が漏れ、まるで蒸発するように少しづつ消えていくその体。
そこへ、一歩前に出た
「御前が弱かったのにはカラクリがあったんじゃなー」
「ウフ、そうよ。今度は本体とも遊んで頂戴?」
「うむ、分かった!」
ウインクしながら拳を突き出す
それに合わせて、
「じゃあこれで、アタイたちもダチって事でオーケーね?」
「おお、そうじゃな!
二人が笑顔で約束を交わすと。
「アタイはダチの為ならなんだってする。
「……!」
すると一同を見回し、大きく両手を広げると。
「チャオ!」
最後に別れの挨拶を残し、その姿は消滅した。
目の前に浮かぶ光を見ながら、
「……気持ちだけ受け取っておく。
笑顔で小さく呟いた。
§
皆と別れた後。
玄武は一人、羽古根山にて夜風に当たっていた。
そこは、かつてラクナと共に五年間修業をしていた場所である。
探索者として長い年月、苦楽を共にした
奈落での探索失敗や、そこでのラクナとの出会い。
そして、目覚ましい成長を遂げた
様々な想いを胸に、夜空に浮かぶ欠けた月を見上げていた。
――ザッ。
すると、背後から静寂を破る足音。
一人の男が、ゆっくりと姿を現した。
玄武は背中を向けたまま、静かに口を開く。
「ラクナが探索者になってから、儂を尋ねて来る者が多くなってしまったのう。これが『身バレ』というやつか? ほっほっほ」
その言葉に、返答は無い。
玄武はそのまま立ち上がり、ゆっくりと振り返る。
男は白髪にサングラスをしており、上から下まで真っ白いスーツ。ファーの付いた白いロングコートに身を包んでいる。
表情には温度を感じない。
まさに冷徹、という言葉が似合う。
対する玄武は目尻を下げ、にっこりと微笑んだ。
「久しいのう、白虎」
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