超難度ダンジョン『奈落』をただの洞穴と勘違いして特訓していた結果、規格外の化け物が生まれました。~モンスターより人間が怖い陰キャですが配信者としてがんばります!
大入 圭
#1 奈落は下を向く。
手に持っているのは、ピカピカの探索者ライセンスカード。
そこに載った顔写真も、同様に引きつった笑顔である。
「……初探索……初ダンジョン……へ……へへ……」
小さく呟き、視線を前に。
目の前には
その横には、門番のように赤いドローンが浮いている。
ラクナはごくりと生唾を飲むと、震える手で赤いドローンにライセンス証をかざした。
『――ピッ。探索者ライセンスを確認。Eランク。楢木野ラクナ。認証完了。初級ダンジョンの探索を許可します』
ドローンから音声が流れると、ラクナは「ひっ」と声を上げてのけ反った。
そしてそのまま地面に尻もちをつく。
ラクナは薄手の白いTシャツに、自分の体の倍はありそうな巨大なリュックを背負っていた。
およそモンスター
もたつきながらも態勢を立て直し、立ち上がる。
手に持っていたライセンス証をカーキ色のパンツにしまうと、ついでに手汗をごしごし拭いた。
「よぅし……初探索……初ダンジョン……」
呪文のように同じ言葉を呟きながら、洞穴の奥へと一歩進む。
『――ビビー。警告。ダンジョン内では追尾型ドローンの起動が義務付けられています。こちらは探索規制法第6条第1項で定められており、違反した場合30日間のライセンス停止、又は――』
「……あ。そうでした」
赤いドローンから警告音が流れる。
するとラクナは背中のリュックから白いドローンを取り出した。
ダンジョンを探索する際、一人一台追尾型ドローンと共に探索することが義務付けられており、ライセンス取得と共に国から探索者へ配布される。
一番は探索者の安全の為。
ダンジョン内はモンスターや未知の仕掛けなど危険が多い。
使用者の危険を察知した追尾型ドローンはすぐに救難信号を送ることが出来、搭載されたGPSで即座に救助へ向かうことが出来る。
加えて搭載されたカメラにより探索データを残したり、配信を行うことも可能。
ちなみに、配信は任意である。
電源ボタンを押すと電子音が鳴り、早速ドローンはラクナの追尾を始めた。
「おお……」と小さく息を漏らすと、
「……それでは! 初探索! 初ダンジョン! 初配信を始めます!」
ドローンの液晶に向かい、両こぶしを握ってみせる。
すると映し出された画面には同じく両手でポーズを取るラクナと、『0人が視聴中』の文字。
「……って、誰も見てない。そりゃそうだよね」
残念そうな、でもどこか安心したような顔で息を吐く。
両手でリュックの紐を握ると、今度こそダンジョンの奥へと歩みを進めるのだった。
§
神奈川県
自然豊かなこの町で、
小さいころから内気な性格で、友達もなかなか出来ず。
基本的にいつもひとり。
人との共同作業も大の苦手。
運動会のリレーで、上手くバトンを受け取った試しはない。
しかしこのままではいけないと、小学校に入学した際は友達を作るために一念発起。
家にあった全身甲冑を着て登校したり、道中で出会った極太大蛇をマフラーみたいに巻いて登校したり、頭に乗ったカラスと一緒に登校したりと、多種多様な登校を披露。
周りにドン引きされる結果となった。
小学校でも孤立化が加速する中、人気者の子たちは輪を作って今日も楽しく会話中。
どうやらみんなの間では配信者が人気らしい。
ラクナの脳裏に稲妻が走る。
「そうか。配信者になれば人気者になれる。ということは友達もたくさんできる。でも私はあの子みたいに可愛くないし、取柄も無い。こんなミジンコよろしくな私が人気者になるためにはいったいどうすれば……」
そこでラクナは配信者を調べてみることにした。
といっても、ラクナはスマホを持っていない。
家に帰っても、ネットに繋がっている訳でもない。
なので、いま目の前でわいわいやっている人気者たちのスマホをこっそり観察することにした。
どうやら話題の配信者を見ているようだ。
そこに映っていたのは、容姿端麗な美少女……ではなく、
死んだ魚の眼をして無精ひげを生やした、筋骨隆々の中年男性だった。
配信者であるその男は、一言も喋らずに迫りくるモンスターをばったばったと倒している。
その背中を見て、沸き立つクラスメイト達。
そこで、彼女は探索者の存在を知った。
社会の授業で習った、百年前から突如として現れた未知の存在――ダンジョン。
そのダンジョンを探索し、その様子を配信する探索者の存在を。
「そうか。探索者も配信してるんだ。探索者になれば人気者になって友達もできる。しかも、別に可愛さなんていらない。面白さも必要ない。これなら、私でも出来るかもしれない……!」
早速その足で図書室へ行き、探索者の事を調べる。
そして、探索者のライセンスを取得できるのは16歳からだということを知る。
ここで、彼女の夢は決まった。
「16歳まで探索者になるための特訓をして、16歳を迎えたら速攻でライセンスを取ろう!」
そう呟くと、目を輝かせながら小さくガッツポーズを作る。
……しかし。それはつまり『16歳まで友達作りを諦めた』ということにもなるような……。
などと突っ込む者など居る筈も無く。
ましてや彼女の頭によぎる筈も無く。
期待に胸を膨らませながら、山積みになった探索者関連の本を読み漁るのだった。
そして気が付けば日の暮れた放課後。
授業などそっちのけで探索者の知識を脳にぶち込んだ彼女は、その足で帰り道の山道にある
早速その洞穴で、人知れず特訓を開始した。
こうして月日は経ち、現在。
ラクナは計画通り16歳の誕生日に、探索者ライセンスを取得するに至ったのである。
だが、彼女は知らない。
その特訓をしていた
その上、超高難易度のダンジョン――通称『奈落』と呼ばれるダンジョンの一部だったことを……。
次の更新予定
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