第6話 “だるまさん”を携えて

 「この手紙を読まれましたか?」と尋ねると綾子さんは首を振ったので手紙を彼女の前に置いて、僕は両の拳で涙を止めた。


 読み終わると彼女は顔を伏せて嗚咽を洩らした。


「失礼を顧みずお聞きします。あなたは……この手紙の通りなのですか?」


 彼女は顔を伏せ涙にくれたまま頷いた。


「だとしたら、僕はお母様のご希望には副えません」


 綾子さんは……顔を上げて頷いた。

 涙がはらはらと落ちる。


「僕にはそんな度量などない、ちっぽけで臆病な人間です。だからたくさんたくさん時間を下さい。あなたを一日一日守っていける様に。二人で優しい時間を紡いでいける様に」



 その晩、僕はお義母さんが生涯の相棒にしていた“だるまさん”を携えて彼女の住まいを訪ね、僕達の婚約を、手を合わせて報告した。


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