不殺探偵 泉導 黎の探偵録

狂歌

序編 自殺願望とお人好し

目次 プロローグ

目次 プロローグ

雑踏する夜の街。

 深夜だというのに光は弱まるどころか強くなる一方であり、昼間はあまり人がいないのに、夜になった瞬間虫の如くどこからともなく溢れていた。

 キラビラとした街並みはとても綺麗で、見惚れてしまうほどであり、さまざまな人がいた。

 だが、この有象無象の人間の群れの中に紛れ込む……悪意を持った者、殺意を持った者、自身を正義だと確信した者、自身を悪とは思わない者達やはたまた人の姿を持たない異形な存在がいる。

 例えば、世の中には未だに解明されていない事がある。

 例えば本能寺の変で信長は本当に死んでいたのか?

 海底都市アトランティスは本当に存在していたのか?

 UFOやUMA、地球外生命体は実在したのか?

 世界ではおとぎ話とされている怪異や都市伝説、妖怪が本当に存在しているのか。

 答えはYES。

 この世に存在しないモノなんて実はそんなにない。

 では何故世間では解明されていないのか……いやいないのではない。

 ただ信じたくないのだ。

 そんな恐ろしく、不気味で得体の知れないモノを知るという行為それ自体に。

 ただそんな空想上のモノ達を軟式したくない人間の傲慢さが故に事実を虚構として見ているのだ。

 そんな者達が、普段は姿を隠し、息を潜めていた。

 そしてここ、愛知県の南部に位置する場所のあるマンションの一室で、不可解な謎が息を潜めていた。

 マシンョンの304号室の中。

 中は電気がついておらず、あまり見えなかった。

 暗闇で良く見えないが、暗闇の中に二つの人影があった。

 一つはリビングに、もう一つはリビングと寝室を繋いでいる境目に一つ。

 リビングにあった人影は、壁にもたれかかっており、寝ているのかピクリとも動かなかった。

 そして気のせいか、壁に寄りかかっている人影には首がないように見ていた。

 さらにもう一人の人影はリビングにいた人影をじーっと見つめているようだった。

 突如、暗闇に一つの淡い光が現れ始めた。

 どうやらその光はベランダから降り注いでいた。

 雲に隠れていた月が現れ、月明かりが照らされていたらしい。

 そして雲が離れていくにつれて、部屋の情景が見えてくる。

 だが、時としてその見えてきた情報は時に見えない方がいいモノだってある。

 徐々に月明かりが2人を照らしていく。

 そして照らされていくにつれて、何の変哲もない部屋が一瞬にして狂気へと移り変わる。

 リビングにいた1人の影が鮮明に見え始める。

 その人物は男で、服装は白も黒のTシャツにジーパンを履いていた。

 そして彼には一つだけ無いものがあった。

 それは……あってないと不自然な物。

 その人物の頭部だ。

 そしてリビングにもたれていたのは、寝ていたのではなく、死んでおり倒れていたのだ。

 男の頭があったであろう場所は頭を繋いでいた骨と赤黒い血と肉が露出していた。

 断面図がとても綺麗で、見惚れてしまう程。

 そしてその者の血だろうか、辺り一面に血が飛び散っていた。

 そして月明かりはもう1人の男が月明かりに晒されていく。

 晒された姿は更には深い黒を纏っていた。

 黒のスーツに黒のトレンチコート、更には手袋にも黒い物だった。

 そして更には顔には不気味な仮面を付けていた。

 仮面は白と黒を基調とし、前から見て右側は白、左を黒と色が分けられ、白側の目は泣いている模様で、黒側は笑っている模様であった。

 姿は男か女か見分けがつかない程、細身に、長髪ウルフカット。

 細身の男は静寂に包まれている部屋に足を踏み込む。

 徐々に死体に近づくと、ゆっくりと膝を付くと今まで黙っていた口を開く。


「……済まない……もっと早く……」


 その男の声は死体の彼に懺悔するかのような声で告げるが、彼のとても優しそうな声質が隠しきれていなかった。

 その後どこからか取り出したのだろうか花束を彼に手向け、事件性のある悲鳴を鳴らし、そそくさに部屋を後にする。

 

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