となりの席の佐伯くん

朝日屋祐

第一夜 優しい橙色

 優しい夕陽に照らされる。校庭から聞こえる蝉がなく声。恐らく夏頃だったろうか。男子たちがサッカーをしていた。汗ばんだ半袖のシャツ、緩んだダークブルーのネクタイ。夏色の染めた汗で濡れたサラサラの黒髪は綺麗だった。


(桃花ちゃんに渡してみたらと言われたし)


 ひそりと隠れていた。彼は確か、この学校で王子様と呼ばれる、佐伯友介くん。


 ただ自分の携帯の電話番号を渡して帰ればいいんだよと言い聞かせている。


 自分の名は中条遥という。


 彼は北欧とのハーフで、とても整った顔立ちだが、自分はごく普通日本人の一般市民だ。壁に身を隠して、様子を窺っていた。


「中条? なにしてんの?」


「え? 反復横飛びの練習ですよ?」


 佐藤竜馬とのこと、私のクラスの担当の先生が現れた。竜馬とは坂本龍馬のような日本を変えるような人材になってほしいと思って付けた名前だったらしい。生徒思いの先生。


「もしかして……ハハーン。頑張れよ」


「え?」


「佐伯は確か、ふわふわした黒髪のピュアな女子が好きとは訊いたことがある。中条。持病は大丈夫か?」


「……はい」


「本当か。良かったな。中条は髪が長いから。もしかして佐伯の好みかもな。ま。頑張れよ」


 竜馬さんはジャージ姿の儘、胸元からもぞもぞと取り出して、女子力の付け方の本を貸してくれた。



「女子力の付け方?」


「俺は体育の授業があるから、ここで行くぞ。じゃあな〜」

 遥は思う。女子力ないんだよなあ。料理も出来ないし、整頓もあまりうまく出来ない。遥はそう思っていたら、向こうから女子の集団が歩いてくる。中島恵子さんの率いる女子軍団に固まってしまった。あまりのメイクの濃さに驚いた。つけまつげは二重付けは普通だと訊いた。遥の親友の桶川桃花ちゃん来ないかな……。と思っていると中島恵子さんは佐伯くんに声をかけた。佐伯くんは普通に受け答えしている。佐伯くんは恵子さんに笑みを見せて別れた。


「えっと中条さん」

「はっ、はい!」

「ちゃんとボールを片付けてくれる? リーダーの私から言わせてもらうと協調性がない子困っちゃうんだよね」


 恵子さんに怒られて、しゅんと項垂れる遥は体育倉庫に一人バスケットボールを片付けることになった。体育は苦手なんだよな。遥は協調性がないというか。人見知りで人付き合い緊張するんだよな。体育倉庫で気配がした。と思ったら、すると声をかけられた。


「中条、顔色悪いけど大丈夫?」


 サラサラの黒髪の佐伯くんが現れた。揺れる髪、夏服ジャージのTシャツが汗ばんでいる。ちょっと香水つけてるんだな。男物香水とか大人なんだな。私は香水とか疎いんだよな。佐伯くんは細マッチョらしく適度に筋肉が付いている。えっとこういうときは普通に話しかけるほうがいいんだよね。と言ってもドキドキして困ってしまう。あの一件より彼が好きになった。


「えっと、佐伯くんはあの時」

「ああ、気にしないほうがいいよ。俺も気にしていないから。それより、顔色悪いよ? 大丈夫?」


 と思ったら。持病がある私は身体ががふらついて、よろけてしまった。佐伯くんの方に倒れた。佐伯くんは胸板が厚いのだな。しかし、この緊張感は否めない。


「えっ、佐伯くん、ごめん、気にしないでね?」

「いや? 意外に中条って……」

「……うん、」

「俺はえっと、その」

「中条は頑張ってるんだなって思ってさ。俺はそんなに真剣じゃなくて。気楽に生きているからさ。持病あるんだろ? 竜馬さんとの会話聞いていたつもりはないけど」


 佐伯は私のおでこを触った。一気に額に熱が火照る。すると佐伯は鞄から、飲み物を取り出した。遥はキョトンとした。


「はい。スポーツドリンク。熱中症にならないようにな」


「あっ、ありがとう」

 遥は、飲みものをもらった。

 遥はこれは、間接キスだよねと思った。勇気を振り絞って飲んだ。ごくごくと遥の喉を通る。遥はポカリスエットかな、と思った。佐伯が黒髪に戻したのは何故だろう。遥は気になる。


「佐伯くんはどうして黒に戻したの?」


「えっと、失恋しちゃって、俺は結構恋愛では打たれ弱いし、気にしないでね?」


「……そうなんだ。佐伯くんのお住まいは?」


「ああ、俺は埼玉の所沢市だよ」


「この御恩のお礼がしたくて、お歳暮とか……、」


 お歳暮とは遥は自分で言っても可笑しすぎる。電話番号とメールアドレスを聞けば良い話なのに。


「え? 俺の家にお歳暮? いいよ」


「えっと中条は? お歳暮を送るのだったら俺も中条の住所ひかえたいんだ。紙とかないかな」


 佐伯は腕を組み、うーんと考えている。住所を教えるところまで行くのかな。佐伯くんはメモ帳を取り出してかきはじめた。すると佐伯くんのお友達の深田正広くんが現れた。げ。深田くん苦手なんだよな。ときどき意地悪なこと言うのだから。


「友介何処行ってたん? ああ、中条遥ね。俺はコイツ面倒くさいんだよな」


「おいおい。弄くるのは止めろよ」

「友介、だってコイツ反応面白いじゃん」

「……失礼します」


 とぼとぼ歩いて行く私に大声を出して叫んだ。


「中条! 俺もお歳暮お送るね! だからお正月まで待っていて、」


「つーか! 忘れ物!」


 佐伯くんはダッシュで走りだした。運動神経いいんだね。羨ましい。夕陽が照らすグラウンドは陽だまりに囲まれていた。半袖ジャージ姿でこんなにグラウンドを駆けるとは如何なものだろうか。


「あのさ。中条」


「うん?」


「俺達はクラスメイトだろ?もっと話そう?」


 そうじゃなくて心臓の感じが悪い。


「俺は中条嫌いじゃないし、友達としての興味だってあるよ?具合悪いんだったら。保健室行こう?」


「ううん。気にしないで? 大丈夫だよ」


 くらくら目眩がして、早く薬を飲みたい。私は恋愛はしても結婚はしないと決めている。どうしてかというと、二十五歳までには亡くなるのだから。特別な治療を受けており、飲んでる薬の副作用で心臓の具合が悪くなる。私の家は決して裕福ではない。満足な治療も受けられていない。だけど佐伯くんは好きだ。大好き。でも命が無くなっても、ずっと一緒に居られるといいな。


「佐伯くんは、帰らないの? 私は大丈夫だよ」


「全然俺はいいよ。あっ、小雨が降ってきた」


 佐伯くんはタオルを貸してくれた。しとしと、と降る小雨は本降りになり、二人共ずぶ濡れになった。どうしようかと悩んでいた。すると下駄箱から傘を持ってきてくれた。肩を貸してくれた。


「大丈夫?」


「うん」


(……かわいい。キスしたい)


 竜馬さんがニヤニヤしながら。体育の授業を進行していた。佐伯くんは優しい。ジャージの上着をかけてくれた。私は単にメールアドレスを聞けば良い話なのに。竜馬さんも手があいたらしく。こちらへと駆けて来た。さすが元陸上部だけある。佐伯くんは私の雨粒が伝う頬を触っていた。丁度桃花ちゃんが向こうから走ってきた。


「佐伯。良かったな」


「竜馬さんには関係無いだろ」


「あはは。ムキになってるのか?恐らく中条はおまえに脈アリだぞ。ま、精々がんばれよ」


 竜馬さんは体育の授業に入った。途中で合流してきた桃花ちゃんに任せることになり。佐伯くんとは別れた。すると桃花ちゃんが購買部でオレンジジュースを買ってきてくれたらしい。一緒に校庭が見える保健室のベットに腰掛けて飲んでいた。ずぶ濡れだよとブレザーを貸してくれた。桃花ちゃんは親御さんが具合が悪い関係で来るのが遅くなったと言っていた。


「あー……佐伯か。遥が好きになった男」

「うん」

「あいつはなんて言うか。この高校の王子様で性格もいいからね。キラキラスマイルもありでしょ」


「……桃花ちゃんはブラックサンダー好きなの?」

「そ。かなり美味いじゃん。あんたのも買ってきたよ。体の具合悪いんでしょ。ちゃんと食べないと駄目だよ」

「あっ、ありがとう」

「買ってきたよ。オレンジジュースも飲みな?」


 桶川桃花ちゃんは夏の頃、缶コーヒーを開けた。私は隣で購買部のオレンジジュースを飲んでいた。晴れ間が見えて綺麗な夕暮れに茜色の空に千切れた雲がグラデェーションが浮かび。校庭から見える風景を眺めていた。


「遥は佐伯が好きなの?」

「うん。とても優しいんだ」

「佐伯って確か……、有名な外資系会社の社長の息子なんだってね」


「そうなの? すごいね!」

「あたしはあいつと何回か話したことあるけど、北欧とのハーフで、中学生の時は帰国したばかりで日本語が分からなくてよく同級生にいじめられたって言ってたな」


「そうなんだ。確かにハーフっぽい感じはあるね。なにか好きな食べ物あるのかな」

「ああ、本人は焼き鮭が好きらしいよ」


「桃花ちゃん。私は料理とか、焼き鮭、作ったこと無い」

「これからだよ。佐伯は確か男子とは噂あったみたいねー、私はあいつにまったく興味ないけど」


「なんの噂?」


 桃花ちゃんは笑っている。ガーナチョコを吹き出しそうになっている。


「ゲイだという噂よ。浮足立った色恋沙汰がないから。爽やかすぎて逆に気持ち悪いって同学年の男子の中では言われているらしい」

「……え?」

「笑えるでしょ! でも本人のまえで言っちゃ駄目だからね?」


 陽だまりで微笑んでいた。するとノックが鳴る。そうしたら、保健室で耳を立てていたのは眼鏡をかけた短髪の眼鏡をかけた深田くんだった。青白い顔をしていたので、


「中条は無事か? 友介が随分心配していたが」


「正広、ここは女子の聖域でしょ。ここに入ってはいけません。もし遥が着替えていたらどうすんのよ?」


「悪い。ま、それだったらいい。友介がかなり心配にしていたぞ。中条に十分休養をとってくれと伝えてくれ」


「もし中条が元気になったら、また一緒に屋上で飯を食おうぜ」


「ハイハイ。遥に伝えておくね」


 ぱたんと扉は閉まった。緊張していた。私は深田くん唯の意地悪な人かと思っていたけど優しいな。ということは佐伯くんも来るのかな。脳裏に浮かぶのはあの笑顔。布団にくるまっていた。保健室のベットでくるまっていた。時計をみて桃花ちゃんはこう言った。


「げ、もう五時か……。あたしそろそろ帰るね。親父が家で飯を待ってる。しばし、待て。八神先生を呼んでくるから」


 桃花ちゃんと手を振って別れた。私は布団にくるまってぬくぬくしていた。最近。心臓の具合が悪い。私はジャージで寝ているのも変かと思い。制服に着替えていた。丁度肌着を脱いで、シャツを着ていた。するとコツコツと靴の音がする。するとこんこんとノックの音が鳴った。


「……中条?」


 佐伯くんの声だった。正直びっくりした。慌ててカーテンを揺らし閉めた。


「着替えてるから!」


「え? ごめん」


 気まずい。相手は男性だし、私は年頃の男性への免疫もない。中学生までは大きな総合病院に入退院を繰り返していた。青春らしいものしたことはない。高校生になり、それなりに学業を励んでいた。だけど……。佐伯くんは咳払いしてこう言った。


「中条」

「ごめん、着替えてるから」

「俺は中条に伝えに来たんだよ。俺と正広と弘樹、桶川と七月二十二日で夏祭りに行く予定なんだ。良かったら中条も来ないか?男だらけはむさ苦しいって正広が言っていて、これは桶川から伝言なんだ」


 私が夏祭り……?行ったこともないし、非常に迷う。目線を泳がせた。


「でも具合悪いんだったらいいよ。俺もそんな関係になりたかったような気もするし」


「うん、いいよ」

「いま着替え終わったよ」


 カーテンを揺らして、私がちょこんと覗くと佐伯くんは目線を外らした。


「良かった。日神花火大会で待ち合わせする事になってるから。七月二十二日の日神花火大会で皆。午後の五時半に集合ね」


「うん、」


「後、全員私服じゃなくお洒落しろって正広が勝手に決めたから。俺等は甚平で中条と桶川は浴衣ね。俺もとても楽しみにしてる。一応、携帯の番号を訊いておこうと思ってさ。ごめんな? 体調が悪いのに」


「携帯の番号? 佐伯くんの番号も教えて貰ってもいい?」


「おう! いいよ。俺は会話が好きなんだ」


 快活に笑う。佐伯くんは優しい。番号を教えてもらった。


「じゃあ、俺はそろそろ帰るね」

「うん。ばいばい」

「俺は中条と帰りた「ワシを呼んだかね?」


 すると八神先生が現れた。保健医のおじいちゃん先生。白髪頭の優しい先生でどうやら。最近家庭菜園にハマっていると言っていた。佐伯くんは物悲しそうに私は見ていた。カーテンで仕切られた。佐伯くんは待機中。


「中条さん、じきに貴方の病気はもうすぐ治るよ」

「?」

「けど恋煩い病は不治の病だが、心臓の病気は良くなると思うよ」


 聴診器で胸の音をはかる。私の病気はすぐに治ると言っていた。キョトンとした。


「じゃあ、もう帰っていいよ」


 カーテンを揺らして黒髪の佐伯くんは私が寝ていたベットに腰掛けていた。サラサラの黒髪も窓から入ってくる風に揺れていた。肩くらいの髪は丁度よかった。声をかけようか迷った。すると振り向いた。


「中条」

「どうしたの? 先に帰っているんじゃ」

「……俺は今日は中条と帰りたかったから」

「え?」

「ま。俺の自己満足の世界だけどね。じゃあ、一緒に帰ろうか」


 下校中、もう暗くなっている。街頭の光が輝いていた。


「暗いね」

「前期テスト点数大丈夫かな。国語が苦手で点数が駄目だったらどうしようか迷っています」

「大丈夫だよ。俺が勉強を見てやるから。やー。俺の美術の点数を見ると中条もそんなんでもないよ。俺は美術がだいの苦手だもん。どういう意図でピカソのゲルニカが生まれたか知らないもん」


「えっと……、美術が苦手なのですか?」

「そうそう。成績表で美術だけ一点取ったんだよな。そういえば中条ってしたの名前はなんて言うの?」


「中条遥と申します。佐伯くんのしたのなまえは?」

「遥ちゃんか……、いい名前だね。俺は佐伯さえき友介ゆうすけっていうんだ。友介って呼んで? 苗字で呼ばれるのがあんまり好きじゃないんだ。ごめんな」


「じゃあ、友介くんって呼んでもいいですか?ゆうっちとかでもいいですか?」


 彫刻みたいな顔がくしゃくしゃになった。笑みを浮かべた。


「あだ名つけるの好きだね。俺のこと友介くんって呼んでくれる子なかなか居ないから本当に嬉しい」

「じゃあ、俺は中条のことハルちゃんって呼ぶね。アダ名でもつけねーと女子を名前で呼ぶの照れくさいんだ」


 優しい帰り道。用賀駅についた。田園都市線で一本で来れる所に住んでいる。母からメールがあったようだった。スマホを取り出しチェックした。佐伯くんはどうやら、待ってくれてるようだ。


 件名:今日は早く帰って来てね。


 佐伯くんと一緒に帰るからと返したら。


「お母さんにも話している同級生の男の子と帰るんだ。私だって恋愛もしたい。青春だってしたいから。今日は特別に許して欲しいよ」


 と返した。

 するとこう返信してきた。


 ”あら。もしかして彼氏が出来たの?いいわ。いつもは門限は8時だけど今日は特別に許してあげる。もし、いい人だったら。今度お母さんにも紹介してね。見守ってるよ。きっとお父さんも喜んでいるわ。お母さんと天国のお父さんはいつも遥の幸せを願ってるよ”


 私のお父さん……。私の父は中学生の時に交通事故で亡くなった。とても優しい父だったから。毎年サンタクロースの仮装をしてくれてプレゼントをくれた。開封してみると、いつも欲しかった物だ。綺麗な指輪だった。だが、父は幼い私を庇って世を去った。そして俺はもう助からないからと形見の指輪を私に預けてくれた。もし私が結婚したら。俺の墓に入れてくれと言っていた。綺麗な青空を仰いだ。


「……、ハルちゃん。大丈夫?」


「友介くんはお父さんはいらっしゃいますか?」

「うん、俺には家には親父がいるけど。……そっか。カフェでも寄ろう。でもハルちゃん。泣き顔が綺麗だね」


 綺麗な帰り道。もう夏祭りのじきか。佐伯くんはもぞもぞと制服のポケットから。チェック柄のハンカチをくれた。涙がぽたりと落ちた。だんだん大粒になってきた。夕暮れのあかね空は綺麗だった。カフェに入ったら。友介さんは私にオレンジジュースを奢ってくれた。


「飲みやすい? 俺コーヒー苦手なんだ」

「美味しいです。こんなにして頂いて有り難うございます」


 ポケットから取り出したのは財布で万札が何枚もあった。


「佐伯くんって」

「ああ、知ってると思うけど俺の親父は日本では有名なんだ。本も結構出しているし。息子の俺としては、とても頭が上がらない」


「えっとハルちゃんって、もしかしてオレンジジュース好き?気にいってくれたのなら俺は嬉しいよ」

「あの、友介くんって芸能人の誰かに似てるね」


「え?俺は何処にでもある普通の顔だよ。俺は正直、中性的な桶川のお兄さんの翔さん羨ましい」

「えっとほら、あの俳優によく似てます……えっと、テニス漫画のミュージカルに出てる、皇帝の人」


「そうか?芸能人はまったく無知で詳しくわからないけど。俺の顔の何処が似てるんだろうね。たしかに俺は声が低くて独特だとは言われるけど」

「じゃあ、褒めてもらったから俺から言わせてもらうと、ハルちゃんは目がくりくりで大きいね。肌も色白で綺麗だし、ワリと顔立ちがハッキリしてる。なんつーか……、フランス人形みたいだね」


「いやいや」

「いや、俺はそうだと思うよ。いま七時だね。何処か行こうか?ごめんね、帰りたい所。俺のわがままに付き合ってもらって」


「ハルちゃんはとても優しいんだね。女子って言ったらちょっと嫌だったけどハルちゃんは友達として好きだよ」


「友介くんって女の子が嫌だったんだ」

「俺のお袋は変わった人だったから。その所為で中学生も高一も同年代の女子はかなり苦手だったんだ。友人からゲイ扱いされるし。これでも好きな女の子居るんだけどね」


「女子とお茶するなんてなんか照れくさい」

「えっとどんな子なんですか?きっと可愛いんだろうな」


「えっと、そこはノーコメントで。バレちゃうでしょ?ヒントは黒髪のロングヘアかな」

「桃花ちゃん?」


「それは無い。だって桶川は俺のこと爽やかな西部劇のゲイボーイって言ってたからな……ストレートな俺に失礼だよな。女子が苦手なだけで」

「女子が苦手なんですか?」

「俺は中学が男子校だったから、よく女子は扱いがわからない。それに女の子と付き合ったこと殆ど無い。周りは結構本持ってたけど俺は理解できない。幼なじみの女の子も居ないし」


「どんな恋愛がしたいですか? 例えばデートとか」

「……遊園地とか映画かな? ハルちゃんは?」


「え、メイド喫茶とか、行ってみたいな。ちょっとお薬飲みますね」

「いや、俺がお冷持ってくるから、持病があるなら俺にも甘えてよ。だから彼女居ねーのかな」


 お冷を持ってきてくれた。ごくごくと飲んだ。現在私は心臓の病気で薬を服用している。友介くんはひょいっと覗きこんだ。大量に服用しておりそのため。中学生は青春を謳歌できなかった。でもいまはまあまあになった。お冷が美味しい。


「じゃあ、そろそろ行こうか?」

「うん。有り難う」


 遊歩道を歩いていると花火の音がする。花火か。そろそろ家路を、


「俺は中学生の夏にキャンプでリーダーをやっていたけど。俺はその頃は坊主頭だったんだ。親父に止めなさいって言われて髪を伸ばしたんだ」

「そうだったんだ。普通に黒髪の丁度いい長さだよ。私は髪がある友介くんが好きだよ。今の髪型とてもよく似合ってるよ」


「サンキュ。つーか、ハルちゃんって髪の量多いね。長くて女子らしい感じだよな。俺の周りには男しか友達が居ない。普通に女子のクラスメイトはいるけど……ハルちゃんは?」

「あまり友達が居ませんです。病弱で体育はあまり出席できない」


「じゃあ、俺と友達になろうよ!実は俺達は屋上で昼飯を食ってるんだけど一緒に食わない?帰りは男だらけで買い食いとラーメン屋に行ったりとか餃子食べるよ」


 手を差し伸べてくれた。手を取った。


「じゃあ、これから宜しくな。友情を記念してオレンジジュース買うよ」


 近くに自販機で買ったので百四十円で買ってくれた。ちびちび飲んでいたら。もうすぐ自宅へつく。拳をぶつけて、玄関までついてきてくれた。


「じゃあ、またあしたな」


「うん」


 私の家にはオレンジジュースの缶がおいってあった。忘れないオレンジジュースの味は儚き花火の恋と同じだった。

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