サンタクロースの純情

トヨタ理

第1話

「第十九問。すべてのサンタクロースは、性別に問わず白髭の男性だと誰でも分かるよう扮しなければならない」


「ん〜……バツ!」


「その理由は?」


「理由ぅー? んーとぉ……た、タヨウセイを受け入れる社会、だから?」


「言葉がなんか怪しいけど、正解でいっか。じゃあ、第二十問。サンタクロースが配送の際に用いる電動飛行ソリは、第一種普通自動車免許の資格を有している者であれば誰でも運転が可能である」


「マル?」


「バツだってば。<普通>自動車免許じゃなくて<飛行>自動車免許。ここの引っ掛け前も間違えてた」


「ハァー?! んだよこの問題! サンタの試験なら正々堂々空で勝負しろやぁ!」


 意味分かんない理由でムキーっとキレ散らかすアキオに、僕は思わず笑ってしまった。サンタっていうかサルなんだもん。


 日本民間サンタクロース試験。


 グリーンランドの公認サンタクロースとは別の、日本で誕生した独自の試験。

 簡単に言うなら「日本中の貧しい家族や施設、病気の子供達にボランティアでプレゼントを届けるサンタクロースになれる資格」を取るための試験。


 今から十年前、日本で飛行自動車——いわゆる空飛ぶクルマがブームになった時期、民間の複数の企業団体が中心になって「空飛ぶクルマをソリにして、本物のサンタになろう」って話し合ったのが始まりなんだって(アキオ談)。


 それから毎年、全国の認定サンタたちがクリスマスになると子供達へプレゼントを配布するようになったんだけど、アキオはどうしてもこのサンタ側になりたいらしい。


 試験は、十二月二十ニ日。


 一日目の体力測定と二日目の学科試験。

 そしてクリスマス当日の三日目に行われる実技試験。

 すでに飛行自動車免許を持ってるアキオは、全ての試験に合格すれば来年から念願のサンタクロースになれる。



「二十問中十問正解。合格ギリギリラインだね」


「つーかユキ、なんで問題集見てねーの? そんでよく解答言えんな」


「もうその本、全部覚えたのー。カンタンだから」


「はぁ……。学科問題とかいらんわ。プレゼント運ぶだけなら運転技術と体力だけありゃ良いだろクソがよぉ」


「そーいうおバカな考えの人を落とすために必要なんだよ」


 すると、アキオは不貞腐れた顔で「天才様にバカの気持ちが分かるか」なんて口答えしてきた。


「頭良いワケないじゃん。中卒だよ」


 何でもない事をさらっと言っただけなのに、アキオは急に口をへの字に曲げて、黙ってじっと僕を見る。

 アキオは時々こんな顔をする。何か言いたいけど言葉が思いつかない。だから不満だって事を顔で抗議するんだ。


 今のはどうせ「空気悪くすんな」って言いたいんだろうな。


「僕、夕飯作るからさ。勉強してなよ」


 への字のアキオを居間に残して、玄関横のキッチンにそそくさと移動する。

 どうせ僕が言い返したらヘソを曲げるんだし、僕は居候の身だからケンカはなるべく避けたい。


 六畳一間、1Kの古い木造アパート。


 居間と仕切られた暖房のないキッチンは外と同じぐらい手先が冷える。

 それでも屋根があるし、吹きさらしじゃない。

 水道もガスも電気も通ってて、冷蔵庫にはちゃんとカビの生えていない食べ物がある。


 去年の今頃とは——アキオと出会っていない僕の生活とは、かけ離れた生活だ。


「また、生き延びちゃったなぁ」


 煮立った鍋に切っておいた豆腐を入れながら、ぽつりと呟く。


 マッチ売りの少女が火の中で見た暮らしのような。

 幻のような日々を、僕は生きている。

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