22話 和気あいあいと朝食をとる
トッシュとシル、元上司のネイ、後輩のレイン、ロウ、同期のドルゴ、計6人はパーティーホールの隅にあるテーブルを囲んでいた。
残りの9名は前日の内に帰っている。
「美味い! 昨日のピザがなんでこんなにパリパリなんだ……! 口の中に入れた瞬間、なんか、こう、ピザの味が口の中に広がる! 俺のスキルで味変する必要がない!」
「加水と火加減だ」
「それだけで焼きたてに戻るの? マジで、ネイさん、うちに永久就職してくださいよ」
トッシュとネイが台所でのノリを続けると、それを聞いたレインが「んがっ」と口を大きく開いた。
「ど、どど、どういうことですか?! 永久就職ぅ?!」
「トッシュは料理を作る人間がほしいらしい」
「わ、わたし、おにぎり握れますよ!」
「すげえ。たったひとことで料理スキル皆無なのが分かる」
トッシュが女性陣と会話していると、正面のドルゴがピザの1カットを僅かふたくちでペロリと平らげてから口を開く。
「おいおい、トッシュ。分かってやれよ」
「分かるって何を?」
ドルゴは両手を上に向けて、大げさな『呆れてます』アピール。彼はレインがトッシュに惚れていることを察しているし、今までも何度か陰ながら彼女を支援していた。トッシュが朴念仁すぎて、すべて徒労だったが……。
「はあ。リオンが昨日のうちに帰ってくれて良かった」
「なんでリオンが出てくるんだよ」
「お前が幸せになるのが気に喰わねえから言わねえ」
「あ? ぶちのめすぞ」
朝食を取りながら、思い思いにわいわいと過ごした。
話題に取り残されがちなシルに、レインが気を遣って話しかけているのを見て、トッシュはかつての後輩を改めて見直した。
(ああ、こいつ、人に気を遣えるんだなあ)
「な、なな、なんですか、先輩。私に熱視線を送ってません?!」
「人がちょっと見直しかけてたのに、そのどもる癖、なんなの?!」
「だ、だってえ、先輩が見つめてくるから……」
レインが可愛らしく肘を畳んで「きゃっ」と腰を捻った。
その様子を見て頭にはてなマークを浮かべるトッシュ。
その様子を見てドルゴがでっかい溜め息。
「はぁ、ほんと、リオンが居なくて良かった。トッシュ、お前、そのうち刺されるぞ」
「なんでだよ。そうだ。ドルゴ、ロン、レイン。せっかくだから、この洋館を掃除していってくれよ」
「はあ、なんで俺達が?!」
ドルゴの大声の陰で、それまで黙々と朝食をとっていた無口なロンが、「……給料でるんですか?」と、ぼそっと呟く。
「やります!」
「レイン、いいこだなあ、お前。ゴリラと根暗野郎は見習ってほしいぜ」
「えー、えへへ」
トッシュの発言に、ロンの眉がピクッと跳ねる。彼は寡黙なだけで、けして、内気でも弱気でもない。
「……ドルゴさん。リオン、呼びます?」
「そうだな。糞トッシュがかつての上司権限を乱用して、レインに洋館を掃除させていると伝えろ。飛んでくるぞ」
「……っす」
「おいそこのゴリラと根暗、小声で何か悪巧みしてないか?!」
「俺達は正義だから、悪巧みなんて出来ないさ。なあ、ロン?」
「……っす」
「怪しいな。まあ、いっか。よし、シル。大掃除だ」
「うん!」
席を立ったトッシュとシルの背中に、ネイが待ったをかける。
「掃除は私達に任せなさい」
「え。さすがにネイさんに掃除してもらうなんて、悪いですよ」
「身の回りの品で、不足しているものがあるだろ? シルと買い出しに行ってくるといい。シルの物を揃えるなら、君たちが行くしかない。遠慮するな」
「先輩がそう言ってくれるなら」
「レインもついていきなさい。女性が必要だ」
「はい!」
こうして、ネイの勧めにより、トッシュ、シル、レインの三人は日本エリアへと買い出しに行くこととなった。
最もはりきっているのは、猪突猛進娘のレインだ。
家庭力のあるところをトッシュに見せつけて、異性としての評価を上げたいと思っている。
果たしてどうなることやら。
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