10話 屋敷(実はホラーハウス)を探索する

 玄関に入ると、さっそく扉が正面と左右にあった。今入ってきた玄関ドアを含めれば、四方すべてにドアがあるようだ。

 とりあえず正面ドアを開けると広いホールに出た。ここからなら、まだ外にいるであろう兵士には声が届かないだろう。

 だが、念のためにトッシュはシルを母親として扱う。


「じゃあ、ママに説明するね? ここは、つい先週に転移したばかりのゲーム領域。昔に比べると頻度は下がったけど、この世界はこの洋館みたいに、ゲーム領域が突然、転移してくることがあるんだ」


 ホール内を見渡しながらトッシュは説明する。


「ゾンビサバイバルホラーアクションゲームの舞台になった洋館かな。所有者がいない土地だし、モンスターが出現する可能性が高いから、安く買えた」


「ゾンビサバイバルアクションってなに? ここにはゾンビが出るの?」


「それはまだ分からないから、これから調査かな。いや、それにしても、日本とファンタジーの境界に近いエリアでこんないい物件、ほんとないよ。すっごい運が良かった。僕の二年分の貯金を頭金にして、ローンで買えた……」


 トッシュは玄関ホールの広さに満足しつつ、まずは入り口右手にあるドアを開けてみた。そこは、玄関の右にあったドアとも繋がっていると思われる部屋だ。


「椅子と、小さな棚にテーブル。来客の待合室かな? ママはどう思う?」


「分かんない」


 ふたりはホールに戻って一階を探索した。


「台所とか食堂とかパーティーホールとかだね。寝室は二階か。行ってみよう」


 ふたりは入り口脇にあった階段を上り、二階へ上がった。そして、右手の部屋を確認した。


「うん。寝室だ。隣も寝室。屋敷の規模からするとちょっと小さいから、子供部屋か使用人部屋かな?」


 多分、想像はあっているらしく、でっかいベッドが置かれた、主人用らしき寝室が別にあった。

 ちょっと使うのは気がひけるくらい立派だから、ふたりは小さい寝室を使用することにした。

 しかし、ベッドが壊れているし埃まみれだった。

 壊れているのはトッシュのスキルで直せるが、埃やその他の汚れは、ちょっと面倒だ。ステータスを弄って『綺麗』にしても、埃や汚れ自体がこの世から消滅するわけではないので、室内が汚れる。


「よし。掃除は明日にしよう。今夜はランプの準備がないし電気も無いから暗くて何も出来ないし、寝るしかない。一階の待合室にあったソファが一番綺麗だと思うけど、そこで寝る?」


「う、うん」


 というわけで、ふたりは階下に降りた。

 そして玄関から右の待合室をシルに、左の待合室か娯楽室か分からない部屋をトッシュが使うことにした。


「じゃあ、ママはこの部屋。クマスーツを着て寝てね。俺はあっちに居るから。何かあったら呼んで」


 トッシュはシルと別れ、自分用に割り当てた部屋に向かおうとする。

 しかし、腰に小さな抵抗を感じる。


 シルがトッシュの服の端を掴んでいた。


「ん?」


「トッシュ、ひとりで寝るの怖いよね?」


「んー。まあ、少しは」


「ひとりで眠れないよね?」


「さすがにそれは大丈夫かなあ。職業柄、ダンジョンで野営することもあったし」


「でも、ここ暗いし、モンスター出るかもしれないし? 怖いよね?」


 トッシュはシルの言いたいことを察した。


(あー。要するに自分が怖いんだけど、怖いって素直に言えないのか)


「ママが一緒に寝てあげてもいいのよ?」


「んー。せっかくソファのある部屋がふたつ有るんだから、ひとりひとつだよね?」


「で、でも……。トッシュ、ひとりだと怖くて眠れないよね? ママが一緒に寝てあげる……」


 シルはトッシュの腰に抱きつくと、絶対にひとりは嫌と頑なに主張。


「ごめん。ごめん。分かったよ。ちょっとからかった。夜になったらゾンビが出るだろうし、一緒に寝るつもりだったよ。スキルを使うから、離して」


「ひとりにしない?」


「しないしない」


 トッシュが頭を撫でてあげるとようやくシルは手を離した。


 トッシュはシルと共に玄関右の待合室に入る。


「どうやって一緒の部屋で寝れるようにするの?」


「ステータス編集のスキルでだよ?」


「攻撃力アップして壁を壊すの?」


「あ。違う違う。俺が編集できるステータスは、色々あるから、サイズを変えるの。縦幅の値を広げれば、ほら」


「凄い! ソファが広くなった!」


 シルは両手足を広げて全身でソファに飛び込んだ。


 そして、べしべしと、隣を叩く。


「怖くて眠れないトッシュのために、今日はママが一緒に寝てあげるわ! 甘えてもいいのよ!」


「はいはい、分かった分かった。じゃあ、今日はママに甘えさせてもらいますよ」


 トッシュはソファに寝転がり、ふざける。


「わーい。ママ、おっぱい、おっぱい~!」


 もちろんトッシュはロリコンじゃないし、幼女に甘えたい性癖があるわけではない。彼はかつての上司のような、年上の巨乳が好きだ。だから、これはふざけているだけだ。当然、シルもおふざけにのって――。


「そういうのはどうかと思う」


「あ、はい……」


 変なところでシルは梯子を外してくる。


 暗くなったので就寝だ。


 暖炉もない部屋で、薄い布団一枚だけだったが、クマ着ぐるみのシルが密着してきたので、トッシュは寒がることもなく、眠りについた。


 だが、トッシュはすぐに起きることになる。

 何故ならこの洋館は、ホラーハウスだから怪異が発生するのだ。

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