最強の制御不能いい加減男、ギルドを解雇されたからチートスキル『ステータス編集』を使って地球とナーロッパの融合世界で適当にスローライフする
うーぱー
最強制御不能いい加減男
プロローグ:解雇編
1話 ギルドを解雇される
国境の長いトンネルを抜けると魔法王国であった。
具体的には、新潟県から群馬県に通じる清水トンネルです。
新潟県民もびっくり。トンネルを抜けたら、群馬男が槍を持って、オークと戦っているのです。
202X年に、突如、地球の至る所がゲームの世界と入れ替わってしまったのです。
コンビニの隣に騎士団の宿舎がある、なんてことも。
そして、世界各地で転生者が生まれるようになりました。
転生の仕方は人それぞれ。
生まれた瞬間から前世の記憶があったり、無自覚なまま生まれ育ったり、ある日突然前世の記憶が目覚めたり……。
スキル持ちの地球人もそれほど珍しくなってきた頃から、この物語は始まります。
さて、主人公は、異世界ナーロッパ生まれナーロッパ育ちの、生粋のナーロッパ人、トッシュ・アレイ。17歳の男です。
黒髪で平凡な顔つきをしており、中肉中背。何処にでもいそうな体です(全裸の場合は)。
元の世界ではきっと魔王を倒す勇者にだってなれたでしょう。
しかし、彼はナーロッパと混ざった日本で、
**
「クビだ! 解雇だ! 出てけ! 貴様は現時刻をもって解雇だ!」
ドンッ!
デスクの前に立つトッシュは、『なに言ってんだ、こいつ』と呆れながら、実戦経験のなさそうな社長を見下ろす。
トッシュは定時で帰宅する寸前に呼びだされたから不機嫌だったが、金星の脂肪が乗りまくった顎肉がプルンッと震えたのが視界に入ってしまい、つい、笑いかける。
「スライムが現れるなんて、ここはダンジョンだったのか……」
金星のデスクの上は管理職なのにいったいどんな仕事をしているのか想像もつかないくらい、スッキリしている。
部屋に飾られた、本人の能力では到底狩れないであろうモンスターの剥製や角といったオブジェが、部屋主の虚栄心や自尊心の強さを物語っている。
「何をブツブツ言っている。とにかく貴様はもう明日から来なくていいからな」
「はあ? 解雇される理由に心当たりがないんですが?」
「その生意気な態度だ!」
ドンッ!
金星は顔をしかめた。強く叩きすぎたらしい。デスクの下に両手を隠したから、きっと押さえてなでなででもしているのだろう。
トッシュは半笑いで言う。
「いやいや、態度が原因で解雇って、おかしいですよ。だったら先に自分自身を解雇したらどうですか? 机を叩いて威圧って、クソムーブじゃないっすか」
トッシュは小腹が空いてきたから、ポケットから裂けるチーズを出して食べ始める。
「おい、待て。俺も見間違いか。貴様、どうしてポケットからチーズを出して食べ始めた」
「18時ですし、お腹が空いたので」
「お前、ギルドマスターの俺に呼びだされたのに、腹が減ったら飯を食うのか?」
「ええ。ギルマスも何か食べて良いっすよ。そんなに太っているってコトはいっぱい食べるってことでしょ? カレーにマヨネーズでもかけたらどうですか?」
「黙れ! だいたい、なんなんだ、貴様のその服装は! 上から下までポケットだらけで、輪郭がデコボコして、七支刀か!」
「しちしとう? ああ。いいっすね」
トッシュは右腕の第三ポケットから七味唐辛子を取りだし、裂けるチーズの裂け目に少しかける。
「さすが歩く脂肪。食に対する意欲だけは、今一瞬、軽く尊敬しかけましたよ」
「やめろ、馬鹿、こぼすな。人前でチーズに七味唐辛子をかけるな!」
「えええ。しっかりしてくださいよ。七味唐辛子をかけろって言ったの、ギルマスじゃないっすか」
「ちっ。わけの分からんことを。四類は教養すら足りないか!」
金星は顔を真っ赤にして絶叫した。彼が口にした四類とは、出生を意味する分類のことだ。本来は差別用語ではないが、地球出身の地球人が、異世界出身の異世界人を見下すときによく使う言葉だ。
トッシュはファットスライムの言葉に苛立つことなく、チーズを食べながら、相手の誤りを親切心で指摘してあげる。
「ギルマス。それは、我々の業界では、使ってはいけない差別発言ですよ。デーブ・プペクターに録って晒したら炎上しますよ」
「それを言うなら、テープレコーダーだ!」
さすがに日本出身の金星は差別発言で炎上する危険を知っているため、僅かに残った理性を総動員して、テンションを下げる。
「貴様は先月、何時間、働いた?」
「きっちり160時間働きましたよ」
「そう。たったの、160時間だ。皆が200時間以上働いているのに、どうして貴様だけ、残業をしていないのだ?」
「時間内にきっちり仕事を終わらせる能力があるってことですよ」
「何故、18時の今、ギルド内に居る」
「何故って、帰ろうとしていたのに呼ばれたから、まだ居るんですが? ギルマスが呼ばせたんですよね? もう忘れたんですか? 記憶操作系のスキルに頭を弄られたんですか?」
落ちつこうとしていたはずの金星は既に苛立っている。怒りはスリープモードだったらしく、再開は早いらしい。
「何故、ダンジョンや戦場に行かないんだ! ……? 待て、貴様、なんでキュウリをかじっている!」
「チーズを食べ終わったから」
「貴様はチーズやキュウリを持ち運ぶために、そんな上も下もポケットだらけの格好をしているのか! 社会人だろう。スーツを着ろ!」
「スーツは高いじゃないですか……。それに服装は自由でしょ?」
ダンッ!
金星は本日の最高威力で机を叩いた。しかし、強く叩きすぎたらしく、すぐに手を押さえながら顔を歪めた。顔色は赤を通り過ぎて黒に近い。
「大丈夫ですか?」
「だっ、黙れ、貴様に心配される理由はない!」
「あ、いや、この程度の机を破壊できないくらいの強さで、ギルドマスターを務めていて大丈夫ですかって聞いたんですが」
悪意はなく、純粋に素朴な疑問だったのだが、この言葉が金星に深く突き刺さったようだ。金星が叫び、トッシュが顔をそらした直後、唾が飛んでいった。
ガラス製の灰皿も飛んできたが、トッシュは容易くキャッチ。
何も言わずに金星の机に戻した。それが、かんに障ったらしく金星は額に欠陥を浮かべ、顎下の脂肪をぶるんぶるん大きく揺らしてわめく。
「貴様は! 『ダンジョン探索RPG』世界の攻略を支援する業務に就いていたよな?!」
「ええ」
「見積もりでは攻略難易度A! 契約は20階までの攻略支援! 既に期限まで残り6営業日だ! 事務所に戻ってくる余裕などないだろう! にもかかわらず、貴様は毎日定時前に戻ってきているそうだな!」
ガンガン! ガンガン!
金星が何度もデスクを叩いている。
(うーん。机を破壊したいんだよな? さすがに攻撃力が低すぎて哀れだし、手伝ってあげるか)
トッシュはこっそり机に触れた。
(ステータスオープン!)
彼が心の中でステータスオープンと唱えたら、机の上に半透明なステータス画面が現れた。
机:Lv3
耐久値:100/100
防御力:24
特性:高級品Lv4(売却価格が20%上昇する)
(ふむ。防御力の4を消して2にするか)
トッシュはステータス画面の防御力値を指で触れて、4を消した。
これがトッシュの能力だ。触れた物のステータスを変更することができる、超チート能力だ。
バキイッ!
金星が殴った瞬間、机に亀裂が走った。
拳はめり込み、引き出しが弾き飛ばされたらしく、床でガシャンッと鳴った。
「うわっ! 凄い攻撃力だ! マジかよ、ギルマス!」
トッシュは驚愕した。防御力2の机に全力パンチをぶちかまして、耐久値が2しか減らなかった。あまりにも弱すぎる。
一方の金星は、手が痛くて泣きそうだったが、己が秘めていた真の力を見せつけることができて得意げになる。
「ふん。手加減しきれなかったようだな」
本当はトッシュが悪さしたのだが、それに気づいていない金星は、威張ることにしたようだ。哀れなやつ……。
* あとがき
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今後の執筆の参考にさせていただきます。
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