研究室外の大工

「さぁて、昼飯だ」

 俺は建築資材を乗せたトラックから降りると、地下足袋のままでコンビニの店内に入る。ちなみにちょっと長めの髪だが、頭にはタオルを巻いている。昔ながらの大工と言った姿だ。

 今日の職場は午前中の仕事だった。最近は日差しが強く、午後になると暑すぎて仕事にならないのだ。だから早めにちゃっちゃと1日の仕事を午前中に終わらせる。それだけ効率よく作業をこなすことも、最近の大工には必要なことらしい。……まったく、嫌になるね。

 店内にはうまそうな弁当や色とりどりのサラダなどもあるが……そんなおしゃれなランチ女子が買うようなのじゃなくていい。とりあえず手早くさっとメシが食えて腹に溜まれば問題ない。しばらく迷って、俺はカップ麺を選ぶ。

 レジでは愛想の悪い、「いらっしゃいませ」すら言ったか怪しい店員さんがピッとバーコードを通す。

『お支払いは……』

 現金で。最後まで機械音声に喋らせる間もなく、ボタンを押し、会計。それが済むと、レシートを捨ててカップ麺のビニールを破いた。蓋を開けて、粉末の粉と唐辛子を入れると、店に置かれているポットから湯を注ぐ。あとは3分待つだけ……と呑気に思っていたところ、スマホが震えた。

『ああ、よかった! つながった! 非常事態です!』

「はぁ? こちとら今現場が終わったところ……」

『研究費稼ぎの大工仕事している場合じゃないんですよ、教授!』

「……何があったんだよ」

『説明はあとです! とりあえず研究室に来てください!』

 ……ポロロン。切れた。ったく、何だって言うんだよ。人のこと急かしやがって。メシ食う暇もないってか? 

「わーったよ、行きゃあいいんだろ、行きゃあ」

 俺はそのまま急いでコンビニを出ると、トラックに乗り込む。……あ、店内にカップ麺忘れた。なんてことしたんだよ、昼飯抜きじゃねぇーか……。

 まぁしゃーねぇか。とりあえず研究室で何があったんだ? 俺様の研究室でよぉ!


 彼が店を出たあとのコンビニにてーー

「あのおっさん、カップ麺買って忘れていきやがった。あり得ねぇわ……」

 愛想がないと思われた店員はドン引きしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る