大学の殿

「今年からいよいよ荒れそうだ……」

 大学内の教授や講師たちが頭を抱えている。そりゃそうだ。AIが普及してから、金持ちのボンボンどもが株を操作しつつAIを使って教授たちより「できるふり」をし始めたんだから。だけど、実際はどうだ。AIのデータは集合知の過去のもの。間違ったデータだって含まれている。そこに「完璧」というものはないし、ましてやこれからの「未知の学術研究」をするに当たっては、全く持って使えない代物なのだ。……AIが人間の仕事を奪う。その可能性は創作分野についてはなきにしもあらずなのだが、勉学・学問に介入できるかと言ったらそれは無理だ。何故なら人間は疑いを知る罪深い生き物なのだから。

 講師室でブランチのサンドイッチを食べると、僕は教室へ向かう。講義初日ということもあり、教室は満席。人気講義というわけではない。必修授業の後ろについている講義だから、単位修得には便利なのだろう。

 チャイムが鳴った。教壇に立つと、学生たちはスーツ姿の僕を見る。僕もそこそこ若いほうだが、学生たちはもっと若い。とは言え、年齢が近いから舐められないだろうかという心配はある。教室は広いのでマイクを持つと、僕は話し始めた。


「この講義は……あれ」


 マイクのスイッチが入っていなかったので、ボソボソとした聞き取りにくい声になってしまった。第一印象としては最悪だ。


「なんだ、チー牛じゃん」

「せんせぇ〜、出席してれば単位くれます〜?」


 生徒たちが声を上げる。クスクスという嘲笑も聞こえる。完全に舐められているなぁ……。


「今じゃAI使えばレポート課題とか楽勝なのに、出席する必要あるの?」

 

 後方の生徒は眠っているが、前方の生徒が優秀かと言ったらそうではなさそうだ。『AIを使えばレポートは楽』。そう言った男子生徒は、完全に人間を甘く見ている。僕はマイクのスイッチをオンにし直すと、男子生徒をメガネの奥から見据えた。


「君はノートパソコンとタブレットを使って授業を受けているね。それは何の意味があるの?」

「先生の言葉のエビデンスを取るんです。AIで予測した通りの授業をするかっていう」

「……へぇ、面白い」


 面白いので、僕はひとつ学生たちに挑戦をすることにした。いや、学生たちというより、AIに対して……になるのだろうか? まぁそんな細かいことは考えていないけども。


「では、今日からAIを使ったとわかった生徒から単位を落としていくことにします。つまり、僕の授業で独創性がないレポートを出した生徒は不可。ちなみにこれは採点する僕も大変になるから、一蓮托生だよ」


 教室がざわめく。これでいい。

 この時間のこの教室は、僕の城なんだから。

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