SHOW
「今夜は珍しく星が見えるーー」
グリニッジ天文台がある近くの街に住んでいるしがないミュージシャン。それが僕の肩書だ。ミュージシャンと言っても、ほとんどそれだけでは収入が入らないので副業もしている。昨今の音楽業界は本当に不況だ。どうしてそうなったのかはわからないが、曲を作っても売れやしない。売れたとしても、子どもの小遣いにすらならないレベル。
まぁ、もともと音楽と言うのは貴族がいてこそ成り立っていたものだし、庶民からミュージシャンになったのがおかしかったのかもしれないが……このご時世、貴族ですらアーティストに金が払えなくなったのかもしれないな。そう思っていないとやっていけない。
副業ーーって、ミュージシャンのほうが副業かもしれないがーーを終えると、僕はアパートの一室に戻る。部屋の鍵を開けたそのとき、タブレットにメールが届いた。
『久々に曲を作ったんだけど、歌詞を書いてほしい。ついでに歌ってくれ』
ついでにって何だよ。歌詞を書いたら、そりゃあ歌わないとダメだろう。誰が歌うって、結局僕だ。こっちが本職なのに、相方が曲を書いたのは5年ぶりくらい。……まったく、今まで何をしていたっていうんだ。曲も数撃ちゃ当たるマインドで、たくさん書かないと金にもなりゃしないっていうのに。
ひとつため息をつくと、とりあえず部屋に入って紅茶をいれるための湯を沸かす。メールを見返して、相手の相変わらずさに笑みを浮かべると、僕は添付されていた曲のデータを開き、イヤホンをする。
聞きながら返信する文章について考えていると、最後の一行に目が行った。
『これは宇宙一すごい曲だ! 星を動かすぞ!』
星を動かすーーそのひと言が僕にはあまりにも魅力的で。小さくうなずくと、文字を打ち込む。
『宇宙一すごくて星を動かせるレベルの曲なら、時代も変えられるかもしれないね』
湯の沸く音が聞こえる。いっそのこと、この曲で世界も沸かせられたらーーそんな思いを胸に秘め、僕は部屋にあるラジカセをオンにした。
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