サンタクロースの労働組合!

崔 梨遙(再)

1話完結:1500字

 簿九羽(ぼくは)三太は、今年もストライキ(雇用側の行動などに反対して被雇用側が労働を行わないで抗議すること)に参加していた。12月23日。全世界サンタクロース株式会社の日本支社の前に、日本中のサンタ達が座り込んでいた。もう、何年も、何十年もやっている。みんな、労働組合の組合員だ。だから本物のサンタは、24日、25日に現れなくなったのだ。そして現在、日本の国民は“サンタなんかいない”と思うようになっていた。


 組合員達の要求は待遇面の改善。だが、なかなか待遇は改善されない。集まっているサンタは47人。都道府県毎に1人が担当している。今年も、会社側は要求を飲まないとのこと。座り込みのサンタ達は、今年もため息をついた。座り込む組合員サンタは、長い戦いに疲れていた。ちなみに、今、サンタ達は最低賃金で雇われていた。そこに夜勤手当がつく。しかし、それでは納得出来ないとサンタ達は立ち上がったのだ。余談だが、ストライキを起こしている国は日本だけではない。



 今年、日本支社の労働組合委員長の三太は座り込むみんなの前、1段高い壇上で語り始めた。


「子供達から、サンタ宛に届いた手紙を読み上げます。“サンタさんへ サンタさんは本当はいないのですか? みんな『サンタなんかいない!』と言います。でも、僕はサンタさんが本当にいると信じています”という内容です。同じ様な内容の手紙が沢山届いています。皆さん、今年は久しぶりにサンタの仕事をやってみませんか? 来年のことは、来年考えましょうよ!」

「乗った! 本物のサンタがいるってことを、子供達に教えてやろうぜ!」

「俺もやる! “本物のサンタはいない”なんて思われたくないからな」

「やると決めたら、もう座り込んでいる場合じゃないぞ!」


 みんな、それぞれの担当エリアに戻って行った。三太も自分の担当の大阪に戻った。24日の夜。そこから三太の仕事が始まる。



 最後のプレゼント。古いアパートの前で三太は力尽きた。ギックリ腰だ。久しぶりに、大量のおもちゃが入った大きな袋を背負ったら、腰を痛めてしまった。出来れば、ベランダから入りたかったが、三太は玄関のベルを鳴らした。


「はい! え! あなた、どうしたんですか?」

「すみません、サンタです。腰が痛くて……。これ、プレゼントです。息子さんに渡してください」


 三太は、出て来たお母さんにゲームソフトを渡した。


「中に入ってください。肩を貸します」

「ああ、本当にすみません」

「ベッドに寝てください。湿布を持って来ます」

「あ、すみません」



「あ! 朝になったんですね!」

「目が覚めましたか?」

「すみません、寝かせてもらって。お邪魔しました、失礼します」

「ちょうど、コーヒーを淹れたところなんですよ。どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

「あなた、本物のサンタさんなんですね?」

「はい、本物のサンタです。何年も労働組合がストライキをしていたので、久しぶりの配達でした。久しぶりでしたので、おもちゃが重くて腰を痛めました」

「そうですか、本物のサンタさんがいるって素敵ですね」

「あまり聞くのもどうかと思いますが、ご家族は?」

「私、バツイチなんです。子供と2人で暮らしています」

「恋人は、いらっしゃるんですか?」

「いません」

「あ、お名前は? お名前を聞いていませんでした」

「冬月ありすです」

「ありすさん、お美しいですね。一目惚れしちゃいました」

「え!」



「クリスマスじゃなくても、この部屋に来ていいですか? 僕の給料は、最低賃金ですけど」







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サンタクロースの労働組合! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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