第一章:神々の誕生

意識転送技術が最初に発表されたのは2027年のことだった。その発表会の場は、科学という名の神殿のように荘厳で、会場の中央に立つ博士は、まるで新たな福音を語る預言者のようだった。「この技術は人間を永遠にする」と彼は語った。その言葉に歓喜したのは一部のエリート層だった。富と権力を持つ者たちが、死を克服するための切符を手に入れた瞬間だった。


だがその裏で、「卍」の暗躍は始まっていた。表向きには国際科学連盟のメンバーとして活動していたが、彼らの真の目的は技術の独占にあった。意識転送技術を「選ばれた者」にのみ提供し、その代わりに肉体を完全に代替するアンドロイドを開発する計画を進めたのだ。そのフォルムは女性であることが条件だった。理由は単純だった。「美」という概念を具現化するには、男性的な強さではなく、女性的な曲線美が最適だと結論づけられたからだ。


転送プロセスは残酷だった。意識は量子状態に変換され、アンドロイドの中に写し取られる。


その過程で微細なズレが生じれば、人間の「魂」は闇の中へと消え去った。誰もが恐れたが、成功した者たちが示す圧倒的な美と力は、その恐怖を打ち消した。


2030年代に入ると、意識転送は富裕層の間で急速に広まり、次第に地球の秩序を変え始めた。選ばれた者は「神人」と呼ばれ、不老不死の体を手に入れた彼らは旧人類を凌駕する存在となった。そして「卍」は神人たちの新たな社会を設計し始めた。


彼らの社会に男性は存在しない。繁殖が必要ないため、生殖の象徴である男性の役割は不要とされた。代わりに美しい女性のアンドロイドたちが理想の社会を築くとされた。それは、戦争や暴力のない平和な世界であった。しかし、その平和の裏には冷酷な選別があった。転送に失敗した旧人類は「役立たず」として排除されたのだ。

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