TCGストーリー『カードアカデミアに入学せよ』
佐藤ゆう
TCGやってたら彼女ができた
TCG『モンスタートランプ』。
世界中に2億人以上のプレイヤーが存在する、超大人気トレーディングカードゲームである。
このカードゲー厶のために創られた学校『カードアカデミア』。
その学校への入学試験が、今日始まる。
―――――――。
ドキドキドキドキドキ
そびえ立つ巨大な建物を見つめて少年『大空 天空(おおぞら そら)』は心を高ぶらせていた。
強くなりたい。ただ強くなりたい。誰にも負けないくらい強く。憧れのあのチャンピオンと戦えるくらいに――。
心に覚悟を決め、巨大な建物、『カードアカデミア』に足を踏み入れた。
内装は高級感が溢れ煌びやかであった。
受付に立つ女性係員に奥まで案内され、広間の扉を開ける。
広大な広間には、今日のカードアカデミアの入学試験を受けに来た受験生が300名近く。
一瞬その熱気に怯んだが、ぐっと気合いを入れ――
「全員ぶっ倒す」
決意を表明して、人混みの中に混じっていく。
◆
――時計の秒針がカチカチと進んでいき、試験開始の午前10時を差した。
ビリリリリリリリリリッ!
大きな音が広間に鳴り響いた。
照明がすっと消され、暗闇のどこからか声が流れる。
「ようこそ、受験生の諸君」
ぱっと壇上のライトが付き、照らし出される。
「わたしは、このカードアカデミアの副会長『伊集院 麗子』だ。これから入学試験を行う」
壇上には、麗しい見た目の金髪の少女が立っていた。
後ろにはずらりと、サングラスと黒スーツをつけた男女が並んでいた。
「よく、このカードアカデミアの入学試験を受けてくれた。 君たちは大会などで結果を出した、選ばれた強者だ。 このカードアカデミアには弱者は要らない。強者のみが必要とされる。 強くなりたい、誰にも負けたくない……そういった強い意志を持つ者が、これからの試験を勝ち上がれるだろう。 さあ、始めよう、試験開始だ!」
広間がまた暗闇に包まれた。
しばらく暗闇が続き、ガタン――と広間全体が激しく揺れた。
受験生たちの間に動揺が伝播していく。
そのまま振動とともに広間が下に降りていく。
ゴオン――。
どうやら到着したようだ。
照明がぱっと付き、受験生たちは辺りを見渡した。
広大な広間より、さらに数倍の広さの地下空間が広がっていた。
その地下空間には、30を超える円形の闘技場があった。その上でカードバトルをすることによって、ホログラム映像によって創り出されたモンスター達が戦いを繰り広げるのだ。
受験生から おおーっと歓喜と驚きの声が漏れた。
(ここで試験を受けるのか……)
緊張した面持ちで大空 天空は汗ばんだ右手をぎゅっと握った。
(必ず受かってみせる! チャンピオンを倒すために……!)
熱い闘志を心に燃やした。
〚これから試験の内容について話す〛
広大な地下空間に、副会長 伊集院 麗子のアナウンスが流れた。
〚ここはカードアカデミア。 当然、試験はカードゲーム『モンスタートランプ』に関しての事がすべてになる。 試験内容は、各自に事前に渡した200枚のカードの中から52のカードを選びデッキを組んでもらい、受験生同士でカードバトルをしてもらう。 一度デッキを登録したら 変えることはできないので注意して組んでくれたまえ。 配布されたカードはすべてランダムになり、誰かとまったく同じデッキになることはないだろう〛
(受付で渡されたカードか……)
大空 天空は腰のベルトに取り付けた、配布されたデッキケースを開けた。
〚3勝した者から勝ち抜け、次の試験に駒を進める。 だが、1敗でもすれば即試験終了となる。 それと、これは普通のカードバトルではない。 通常、ライフ【15】のところ、ライフは【1】に設定させてもらう。 それをよく考えたうえでデッキを組んでもらいたい。 では、デッキ作成時間は三十分……。その後、受験番号が呼ばれた順に闘技場に上がり、カードバトルを開始してくれ。君たちの健闘を祈る〛
プツン――とアナウンスと途切れた――。
(……さて、どうしたものか……)
デッキケースから取り出した200枚のカードを1枚ずつ確認していく。
(ライフ【1】となれば、速攻で相手にダメージをあたえるデッキにするべきだろう。――だが、それでいいのか? ここはカードアカデミア、強者のみが存在を許される場所……)
頭の中をフル回転させ決意する。
「よしっ、決めた!」
―――――――。
〚受験番号、27番 大空 天空 選手、159番 剛田 小路丸 選手 No7の闘技場にお越しください〛
「よし、オレの番だな……!」
地下空間にある控え室に待機していた大空 天空が扉を開け、指定された闘技場に上がった。
すでに待ち構えていた対戦相手がいやらしく笑う。
「ヒヒヒっ。弱そうな奴じゃ〜ん。ラッキー♪」
準備運動をしながら天空はにやりと笑う。
「んじゃ、初戦を勝たせてもらいますか」
互いに視線をバチバチとぶつけ合った。
〚それではカードバトルを開始します〛
アナウンスとともに、大空 天空と対戦者 剛田 小路丸の前に、1メートル程の初期手札となる、ホログラム映像のカードが5枚ずつ出現した。
〚先行は、大空 天空 選手〛
「よっしゃぁ! オレのターンだ。 ドローっ!」
カードを引くように腕を横に振るモーションを取ると、目の前にホログラムのカードが出現し、手札が6枚となった。
「オレはリボーンスライムを召喚!」
目の前に浮かぶ、ホログラム映像の手札に触れると、光に変わり、目の前に放たれる。放たれた光の中から、スライム族モンスターが出現した。
【リボーンスライム レベル1 属性 水 種族 スライム族】
「オレのターン終了だ」
にっこりと笑い、相手にターンを移した。
「ケケケっ、俺のターンだぜェ。ドロー!」
剛田 小路丸は腕を横に振るモーションでホログラムの手札を引いた。
「ヒャッハーっ! いい手札がきたぜェ! 呪文、《ファイアーボール》発動!」
目の前に浮かぶホログラム手札に触れると、大火球に変化して大空 天空に放たれる。
「ヒャハハハハハっ、俺の勝ちだ……ぐぎゃあっ!」
小路丸の顔面に、いま自分が放った大火球が直撃する。
「あ? え? はあ?」
困惑する小路丸のライフが【0】となり――
〚勝者『大空 天空』選手〛
闘技場に、アナウンスが響き渡った。
「な、なんだとォォォッ! なぜだ、なんでこの俺様が負けたァー!」
納得がいかず頭を掻き毟るに小路丸に、天空は理由を述べる。
「カウンター呪文、《マジックリフレクト》だ。 このライフ【1】によるカードバトルの必勝法は、相手に先にダメージをあたえることじゃない。 先に呪文を当てようとする者の『呪文を跳ね返す』ことだ」
カードバトルをモニターで観戦していた伊集院 麗子は、ふふふっと楽しげに笑った。
(そのとおりだ。私から試験の内容を聞いて皆が思っただろう。 ライフ【1】しかないのなら、先に呪文でダメージをあたえたほうが勝つと。そしてそのためのデッキを構築したはず。 その思考を先読みし、対呪文カウンターを準備し迎撃することこそが、この試験の必勝法)
――その後 大空 天空は順調に2連勝して、次の試験に駒を進めた。
―――――――。
地下空間にある巨大な闘技場の上に、一次試験を勝ち抜いた93名の受験生が立っていた。
「一次試験突破おめでとう。君たち93名はこれから二次試験を受けることになるが、その前にこれを受け取ってくれ」
係員が受験生それぞれにデッキケースを渡していく。
大空 天空はデッキケースを見つめ――
「また、さっきみたいにデッキを組んで戦うってことか?」
「ああ、そうだ。だが、今度の対戦相手は受験生ではないぞ」
伊集院 麗子が片手を上げると、闘技場に10名の男女が昇ってきた。
「次の試験は、渡した200枚のカードから52枚のデッキを組み、この10人の内の1人を倒してもらう。もちろん負ければ即敗退だ。対戦相手はこの中から自由に選ぶ事ができる。先着27名が次の最終試験に駒を進めることができる。相手のデッキは君たちより格上だ、慎重にデッキを組んで存分にバトってくれたまえ」
それを聞いて天空は、静かにたたずんでいた。
(違和感……。なにか……違和感を感じる……?)
闘技場の上で、受験生たちがデッキを急々と組むなか、その光景を微笑んで見つめている伊集院 麗子に視線を送る。
(この試験に求められている事はなんだ? 彼女の言葉から推察すれば、合格者の人数が先着27名と決められている。だから200枚のカードから最良のデッキを素早く組み、相手に勝つ。デッキ構築スピードの判断能力が求められている……と考えるのが妥当―――そうかっ! オレの予想どうりなら……)
じっと状況を見守った。
「よしっ、デッキが組み終わったぜ。おれが一番乗りだ!」
1人の受験生が立ち上がり、対戦相手がいる10の闘技場のひとつに向かう。
それに続くように次々と受験生が闘技場に上がっていく。
3分程度のデッキ構築の速さに、デッキを組む受験生たちに動揺が走る。さらに10名ほどが、それぞれの闘技場の外側に並び整理券を受け取り、順番待ちの状態になっている。
取り残された受験生たちは、急がないと先着27名に間に合わないと思い、デッキ構築のスピードを加速させた。
だが、大空 天空は冷静に状況を見守った。
(やはり、予想どうりだったな……)
――この試験に求められていること、それはデッキ構築スピードじゃない。
相手のデッキを見極める力だ。
『相手のデッキは君たちより『格上』だ、『慎重』にデッキを組んで存分にバトってくれたまえ』
彼女はそう言った。格上 そして慎重。
このワードから導かれる答えは、『格上』の対戦相手のカードバトルを観察し、10人の中から自分のデッキと相性の良い相手を『慎重』に見つけること――それがこの二次試験の目的。
最初の20名は、あきらかにデッキ構築スピードが速すぎた。
おそらくあの20名はサクラ。
300名近くいた受験生が一次試験により73名になった。
その中にまぎれ込ませても気づくのはほぼ不可能だろう。
対戦相手10名に、2人ずつサクラがカードバトルをして、観察する機会をあたえられている。
何故 、わざわざまぎれ込ませていたかは推測にしかすぎないが、おそらく受験生に動揺をあたえるため。
冷静に考えれば、『デッキ構築が速すぎる。しかも20名も一気に。これは何かある』と気づくはず。
だが、試験という緊張した環境。そして93名中 先着27名しか受からないという焦りが、冷静な判断力を奪った。
まったく、人の悪い試験だぜ。
やれやれと大空 天空は、不敵に笑う伊集院 麗子を見る。
(ふふふっ。どうやら彼が一番最初に気付いたようだな)
――そう、最初のデッキ構築を済ませた受験生20名はサクラだ。
対戦を観察して、自分と一番相性が良い相手を見極められる力があるのか――それを試すのがこの試験の目的。だが、状況に流されず自己を保てるか、それを試すのも目的のひとつ。
◆◆◆
闘技場の上の伊集院 麗子の前に、23名の合格者がずらりと並んでいた。
「おめでとう。二次試験を勝ち上がった受験生の諸君。 次の最終試験に『勝った者』が合格となる」
「勝った者……ということは、また誰かとカードバトルをするのか?」
天空からの問いかけに傲岸不遜に微笑む。
「御名答。 目の前にいる、この私が相手だ」
合格者たちに動揺が走る。
「カードアカデミアのナンバー2 伊集院 麗子。このわたしを倒せた者が合格となる」
焦った様子で1人の受験生が。
「で、でも、それってチャンスは『一度』だけじゃないんでしょ? あなたに勝てるのって、ここでは生徒会長だけなんだから。 さっきみたいに、あなたのデッキに挑戦して弱点を見極めるのが試験の目的なんでしょ? 挑戦するチャンスは『何度』かあるのよね?」
それをきっぱりと否定する。
「一度切りだ。 それに観察しても無駄だよ。 デッキは毎回 別のモノを使わせてもらう」
「そ、そんな……」
絶望しきった表情で肩を落とした。
「そんなついでに言わせてもらおう。 わたしに挑み負けた場合、このカードアカデミアへの入学試験は二度と受けることはできない」
「なッ! なんですってッ!」
「入学試験は年4回ある。次に賭けて、今回の試験を辞退するのも手段の内だ」
「1人も受からせない気ですか!」
激昂する少女に不敵な態度でつげる。
「ああ、そうだ。 君たちも知っているだろう? 前回の試験がゆるゆるすぎて通常の倍以上の合格者が出た事を。 今回は1人も合格者を出さなくてもいいと理事長に言われたよ。 君の自由にやれと。 さあ、戦う意志がある者はこのわたしの前に立て」
間髪入れずに天空が歩み出た。
わずかに動揺して伊集院 麗子は。
「まさか、君が一番最初に挑んでくるとはな……予想外だよ……」
天空は無邪気に笑い。
「オレが一番に あんたと戦いたいからな」
熱い瞳を見て、落胆した様子を窺わせる。
「対戦相手ごとにデッキを変えるつもりだが、まずわたしの戦いを観察して分析し、デッキの傾向や戦術の偏りを見つけ、その弱点を突くデッキを組むのが 君のやり方かと思っていたが……君らしくもないな」
気迫のこもった顔で大空 天空は向き合った。
「いいや、オレらしいですよ。 オレは元々こういう男です」
少しだけ戸惑ったあと、麗子は ふっと微笑んだ。
「君は、氷のような冷静さと 炎のように熱い心を持つ男だな」
そして、熱い眼差しを返す。
「いいだろう、大空 天空! いざ尋常に勝負!」
戦いの火蓋が切られた。
〚カードバトルを開始します。 デッキを前に出してください〛
闘技場にアナウンスが流れ、2人は自分のデッキを片手に持って前に出した。
〚デッキスキャン開始〛
天井から赤いサーチビームが放たれ2人が持つデッキに当たった。
〚スキャン終了。カードバトル開始。 先行は、伊集院 麗子 選手〛
大空 天空と伊集院 麗子の前に、初期手札となる、1メートル程のホログラム映像のカードが、5枚ずつ出現した。
「いくぞ、わたしのターンだ。ドロー」
指をパチンと鳴らすと、ホログラム映像のカードが目の前に1枚出現して、手札が6枚となった。
人差し指で銃を撃つ構えを取り、目の前の手札に触れる。
「呪文、《ナイトキングの称号》を発動。3ターンの間、1ターンに1度しかできない召喚を、ナイト系モンスターに限り、2体まで召喚できる」
さらに人差し指で2枚の手札に触れると、手札は光となり、麗子の前に放たれる。
「わたしは、ブレイドナイトを2体召喚する」
フィールドに放たれた光の中から、剣を持つナイトモンスターが2体出現した。
【ブレイドナイト レベル6 属性 土 種族 ナイト族】
「わたしのターンは終了よ」
ブレイドナイトを見つめて大空 天空は思考を巡らせる。
「ナイト系デッキの使用者か……」(パワータイプのモンスターも多いが、テクニックタイプの厄介なモンスターもいる 攻略難易度A+のデッキ……)
両手を広げて伊集院 麗子は高らかにつげる。
「さあ、大空 天空! 君の力を存分にわたしに見せてくれ!」
「ああ! オレのターン、ドロー!」
カードを引くモーションで、大空 天空が腕を横に振ると、目の前に1メートル程のホログラムの手札が出現した。
開いた手でそれに触れる。
「オレは、アーツドラゴンを召喚!」
触れた手札は光となり、天空の前に放たれ、小型の竜が召喚された。
【アーツドラゴン レベル4 属性 風 種族 ドラゴン族】
「さらに、アーツドラゴンのモンスタースキルで、手札からドラゴン族モンスター1体を召喚する。 オレはフュージョンドラゴンを召喚」
天空のフィールドに、2体目のドラゴンがあらわれた。
【フュージョンドラゴン レベル3 属性 水 種族 ドラゴン族】
「そして2体のドラゴン族モンスターを合体させ、ドラゴンアームマスターを合体召喚!」
2体のドラゴンがひとつとなり、巨大な両腕を持つドラゴンが誕生した。
【ドラゴンアームマスター レベル11 属性 火 種族 ドラゴン族】
「ドラゴンアームマスターで、ブレイドナイトを攻撃! アームアタック!」
攻撃宣言と同時に、手札に触れる。
「わたしは呪文、《戦士の連携陣》を発動。わたしのフィールドにナイト系モンスターが2体いるとき、相手攻撃モンスターを破壊する」
ブレイドナイト達の巧みな連携攻撃が、ドラゴンアームマスターを強襲する。
「呪文 《ドラゴン族合体解除》を発動!」
連携攻撃は空を切り、分離した2体のドラゴンが再召喚された。
「ほう。わたしの呪文を合体解除で回避したか」
「さらにフュージョンドラゴンは、呪文効果で召喚されたとき、フィールドのモンスターと合体させることができる」
2体のドラゴンがひとつとなり――
「もう一度、ドラゴンアームマスターを合体召喚!」
「ハハっ、やるわね。ナイスプレイングよ」
再度、ドラゴンアームマスターは攻撃を仕掛ける。
「ドラゴンアームマスターは攻撃時、相手モンスター2体に攻撃できる」
巨大な両腕を大きく広げて突進した。
「ダブルラリアット! 2体のブレイドナイトを同時に破壊! オレのターンは終了だ」
自らの破壊されていくモンスターを眺めて ふふふっと微笑んだ。
「いいわね、君。とてもわたし好みよ。燃えてきたわ」
熱い闘志を指に込め――パチンと鳴らす。
「わたしのターン、ドロー。わたしはデスナイトを2体召喚する」
鎧を装備したゾンビモンスターが2体召喚された。
【デスナイト レベル5 属性 闇 種族 アンデッド族】
「ターン終了よ」
その行動に天空は訝しむ。
(また、攻撃も合体もさせずにターンを終了させた……ということは……)
思考を展開させ、カードを引くモーションをとる。
「オレのターン、ドロー」
挑発するように伊集院 麗子は笑いつける。
「さあ、どうする? あからさまなトラップがある状態で、君ならこの場面でどう行動する?」
気迫のこもった瞳を輝かせ――
「決まってる。 正面から打ち砕く! ドラゴンアームマスター、ダブルラリアット!」
両腕を大きく広げたドラゴンアームマスターが全力で駆け出した。
「呪文、《デスミサイル》発動。この呪文は、フィールドにデスナイトが2体いるときに発動できる。 相手攻撃モンスター1体を破壊する」
2体のデスナイトから発射された、骨で造られたミサイルがドラゴンアームマスターに迫る。
「オレは呪文発動!」
「無駄よ、呪文で防ごうとしても。 デスミサイルには回避系呪文は通用しない!」
つげられた言葉を否定する。
「回避するつもりは無い。 言ったろ、正面から打ち砕くと! 呪文 《ドラゴンの進化》を発動! オレのフィールドのドラゴンアームマスターを進化させる!」
発動とともに、ドラゴンアームマスターの身体が光輝いた。
「ドラゴンアームキングに進化!」
進化途中の身体にデスミサイルが『ボムッボムッ』と連続で直撃した。
爆風が吹き荒れ、中から――
「無傷ッ!」
超巨大な腕を持つドラゴンが降臨していた。
【ドラゴンアームキング レベル13 属性 火 種族ドラゴン族】
「ドラゴンアームキングは1ターンに一度だけ、相手の破壊呪文を無効化できる」
大空 天空は勢いよく指差した。
「いけぇ、ドラゴンアームキング! ダブルラリアットスペシャル!」
一瞬にして姿が消え、2体のナイトモンスターにラリアットが炸裂する。
「デスナイト2体を破壊! ターン終了だ」
破壊される光景に伊集院 麗子は微笑んだ。
「ふふふっ、ありがとう。わたしのモンスターたちをすべて墓地に送ってくれて。わたしのターン、ドロー」
そして、とっておきの切り札を使用する。
「呪文 《戦士たちの墓場》を発動!」
フィールドに4つの墓標があらわれた。
「この呪文は墓地にいるナイト系モンスターを合体素材にして、合体召喚を行える」
4つの墓標から魂が浮かび上がり、ひとつとなる。
「あらわれなさい、ジョーカーモンスター『ナイトオーバーデス』!」
フィールドに凶々しいオーラを放つ黒騎士が生まれ堕ちた。
【ナイトオーバーデス レベル16 属性 闇 種族 ナイト族】
「ジョーカーモンスターか……そっちも賭けにでたか」
天空はわずかに緊張した面持ちでつぶやいた。
「そう、カードバトル中1枚しか出せない特別なモンスターよ。 超強力な能力を持つ代わりに、破壊された場合そのカードバトルは無条件で負けとなってしまう、希望と絶望の象徴……。あなた相手に小技は無用。敗北すれすれの大技で一気に決める!」
勢いよく手をかざした。
「攻撃、ナイトオーバーデス! 魔剣技
黒騎士の強力無比な一撃が切り裂いた。
「ドラゴンアームキングを破壊! ターン終了よ」
期待するかのような瞳で伊集院 麗子は言い放つ。
「さあ、見せてみなさい、大空 天空。あなたの崖っぷちのあがきを。それを全部 受け止めてあげるわ!」
「ああ、見せてやるぜ、ドラゴンの最期の断末魔を…! オレのターン、ドロー!」
腕を振るモーションで手札を引き、大空 天空もとっておきの切り札を使う。
「オレは呪文、《ドラゴンの究極進化》を発動!」
発動とともに、円形の闘技場が竜巻に包まれる。
「墓地にいるドラゴンアームキングを墓地から召喚して、ジョーカーモンスターに進化させる」
竜巻は収縮していき2人を飲み込み、さらに収縮して中央に高密度な竜巻が唸りを上げた。
高密度な竜巻は何事もなかったように消え去り、その場に、凶暴なドラゴンが誕生していた。
「ジョーカーモンスター、『ラストエンド・バーストドラゴン』に究極進化!」
【ラストエンド・バーストドラゴン レベル18 属性 光 種属 ドラゴン族】
そのモンスターをじっと見つめ。
「そう。やっぱりあなたもジョーカーモンスターを出すのね……」
「ああ、あんたの全力の想いを、全力で打ち砕く!」
熱い咆哮に、心が揺れ動かされる。
「いいわ、打ち砕けるものなら、打ち砕いてみなさい!」
高らかにつげた麗子に、最終攻撃指令を下す。
「ラストエンド・バーストドラゴン、ファイナルハイメガブラストォォ――ッ!」
破壊の力が凝縮された超ブレスが放たれた。
「ナイトオーバーデスのアルティメットスキル。 究極魔剣技
ナイトオーバーデスのレベルが、ラストエンド・バーストドラゴンを上回った。
「ラストエンド・バーストドラゴンは、相手のスキルが発動したとき、レベルを10アップさせる!」
さらに上回り。
ファイナルハイメガブラストが打ち砕いた。
「ナイトオーバーデスを破壊!」
荒れ狂う爆風の中から――
「いや、破壊されていない!」
ボロボロの姿の黒騎士があらわれた。
「ナイトオーバーデスのもう一つのアルティメットスキル。相手のあらゆる攻撃を一度だけ無効にする」
大空 天空は満足そうに笑った。
「どうやら、オレの負けのようだな……」
「いいえ、わたしの負けよ」
「!」
「このアルティメットスキルを使ったターン終了時に、ナイトオーバーデスはその力を使い果たして破壊される。そしてジョーカーモンスターが破壊されたとき、無条件でわたしは負けとなる」
同じように満足気に微笑む麗子に、天空がにっこりと笑いかける。
「なら、引きわけだな」
「え?」
「ラストエンド・バーストドラゴンは攻撃をしたターンの終了時、すべての力を燃やし尽くして、破壊され墓地に送られる」
2体のモンスターの身体が静かに崩壊していく。
〚ジョーカールールが両者に適用され、このカードバトルは引き分けとなります〛
アナウンスが流れて大空 天空は座り込んで笑った。
「あははっ、楽しいバトルだったな!」
「笑ってていいの?」
「ん?」
「試験の合否は気にならないの?」
「あ、そうだった! 引き分けの場合はどうなるんだ?」
つめ寄る天空に、焦らすように。
「知りたい?」
うんうんと頷いた。
「不合格だ」
「ガーン」
「なーんてね、嘘ぉ♡」
「へっ?」
「ふふふっ。というか、この場にいる全員が合格だ」
「はああああああッ!」
度肝を抜かす天空に、いじわるにつげる。
「さすがにこれは、君でも予想外だったようだね。まあ、当然か。この最終試験は元々は無く、君のために行ったものだからね」
「ど、どういう事だ……?」
「君という男の実力を計るため……そのためのカードバトルだったのさ」
「な、なんでそんな事を……?」
「君が将来、伊集院家の当主にふさわしいか確かめるためさ」
「お、オレが伊集院家の当主に……? まったく意味がわからん?」
混乱する天空に、照れながら。
「わたしは君に、ずっと惚れていたということだよ」
「ほ、惚れ……! って、ずっと? 今日初めて会ったばかりだろ?」
「いいや、君がチャンピオンと戦っていたときからずっとだよ」
頬を赤く染め。
「わたしの男になれ、大空 天空!」
「え こと」
「断ったら失格だ」
「なッ!」
「なーんてね、ふふふっ」
無邪気に笑い顔を近づける。
「わたしは、恋でもカードバトルでも負けるつもりはない。いつかおまえを必ず落としてみせる」
指でつくったピストルで心臓をバンとつついた。
「じゃあ、付き合います」
「はあああ、早いぞ! なんで?」
「いや、落とされてしまったので……」
お互いに顔を真っ赤にした。
――オレは今日、試験に合格した。そして彼女もできたようだ――
TCGストーリー『カードアカデミアに入学せよ』 佐藤ゆう @coco7
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