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さすふぉー

2025まであと3日

 12月28日。今年が終わる3日前になった。

 テレビを付けたら年末特番と題してドラマの総集編が垂れ流され、街に出てみるとデパートにはド派手な垂れ幕がかけられている。

 俺はこんな年末の雰囲気が嫌い、というわけではない。ただ、正月をめでたいものとして、それが来ることを望む奴らとそいつらが無意識におこなっている『お祝いムードの押し売り』が嫌いなのだ。なぜかといえば、俺にとって正月は全くめでたくない、1年で一番嫌いなイベントだからである。


「あと3日で記憶リセットだけど、どんな気分だ? 勝手に人んち上がって、その上人のベッドでゴロゴロしてる有紗さんよ」

「すんごい普通。記憶無くなるとか言われても実感湧かないよ」


 勝手に俺のベッドの上でゴロゴロしているこの女は、幼馴染の西條有紗さいじょうありさ。毎年『1月1日に記憶がリセットされる』という特異体質を持っている高校2年生だ。

 俺が正月を嫌う理由は、有紗の体質が絡んでいる。というのも、有紗の特異体質のせいで楽しい時間を共に過ごしたとしてもその思い出は消えてしまい、一緒に過ごした時間が消えて無くなったように感じてしまうのだ。もちろん一緒に過ごした時間は消えても無くなってもいないが、忘れられるというのは中々にキツいものがある。


「まじかよ……」

「大マジ。やりたい事も大体やったし、悔いは無いね」


 「あ、でも」と有紗は続けた。


「まだ君とデートできてないのは残念だね」


 突然投下された爆弾発言に頭が真っ白に――なったりはしなかった。有紗は平気でこういう事を言うせいで、これもよくあるやり取りになっている。


「デートプラン考えんのダルい」

「えぇ〜? じゃあ一緒に走るだけでも良いからさ〜」

「お前は雪道の走るんか? 滑るぞ?」


 俺は窓まで歩き、外の景色を眺めた。外はしっかり雪が積もっている。この道を走ってしまったら、2人仲良く足を滑らせ転ぶことは避けられないだろう。


「ん〜じゃあ、スケートする?」

「なんでそうなる」



 あの後、有紗がどうしてもスケートがしたいと言うのでスケートリンクに来た。周りを見渡すとカップル達や家族連れで賑わっている。


「立てねぇ! 怖い!」


 今までろくにスポーツを経験してこなかったからだろうか、スケート靴で立つことができない。立とうとしてもバランスが取れずに前に転びそうになってしまう。


「落ち着いて。ほら、手掴んで」

「ありがとう」


 有紗は立てない俺を見かねて手を差し出してきた。俺はその手を取り、有紗に支えられる形で氷の上に立った。

 手袋越しではあるが、有紗の温かさが伝わってくる。童貞の俺には手を繋ぐだけでも恥ずかしさで死にそうになるのだが、あろうことか有紗は指を絡ませて恋人繋ぎの形を作った。


(童貞には刺激強すぎるわ……てか有紗も恥ずいだろこれ)


「立てたじゃん! 成長!」

「それは嬉しいんだけど……その、この手は……」


 そう言い有紗の方を見ると、有紗の顔は耳まで林檎のように真っ赤に染まっていた。やはり、恥じらいを感じていたのは俺だけでは無かったようだ。


「お前、顔めっちゃ赤いぞ」

「っ! うるさい!」


 有紗は叫んだ。


「ごめんて」


 叫んでもなお、依然としてその手は固く結ばれている。

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