甘いココアは置いといて

「二つ質問があるんだけどいいかな?」


「うん、いいよ」


「さっき杜さんは『昨日の夜中にガラスが割られた』って言ったけど、何で夜中って言えたの?」


「ああ、それはね……」


 来るとわかっていた質問だったのか、杜さんはすぐに答えた。


「実は教室のガラスが割れる音を警備員さんが聞いたらしいの」


「警備員が?」


「うん、そう」


 こくりと頷く。

「それが夜中だったんだって。だけど現場に駆けつけた時には、教室はおろか周りには誰もいなかったみたい」


「へえ、誰もね」


 まあ、犯行現場に留まる犯人もそういないのだ。

 質問を変える。


「それじゃあ二つ目だけど、どうして杜さんはガラスが『何者かによって割られた』って言えたの?」


 これは随分と前から気になっていたこと。

『教室のガラスが割れていた』。これだけならただの事実として言える。けど杜さんは『何者かによって割られた』と言った。ガラスが割れていただけでそれを人的なものだと断言するのはさすがに無理がある。強風や地震、ガラスの寿命など可能性はいくらでもあるのだし明らかに言い過ぎだ。

 つまり、ぼくにはまだ言っていないだけで犯行現場には何かしらの“手掛かり”があったはずなのだ。そしてその手掛かりはおそらく……。


 杜さんはぼくにちらりと目をやると、その後でわざとらしく微笑んだ。


「ふふ、何でってね、教室の中にあるものが落ちてたの」


 ビンゴ!

 そう叫びたい気持ちを抑えて平然を装うぼくに、杜さんは言葉を続けた。


「ちなみにだけど広瀬くんは、それ、どうして訊くの?」


「え?」


 ここに来て泡を食うなんて思いもしなかった。


「あ、いや、どうしてって……」


 その問い自体はされて困るものでもないけれど、その回答を言葉にするのは時間がかかる。

 まるで探りを入れるかのような杜さんに多少の戸惑いを感じながらも、ぼくは思っていたことを頭の中で整理しながら話した。


「えっと、犯人が現場に何か手掛かりを残していたなら、それは確実にミスリードなんだろうなって」


「みすりーど?」


 考えもしなかったのだろうか、杜さんは本気でポカンとする。


 が、それも寸秒。すぐに嬉しそうに、

「ふふ、面白そう。続けて」


「……」


 面白そうとは大層な言い草だ。それじゃあまるで罠に向かうぼくを手ぐすねを引いて見ているみたいじゃないか。


 しかし杜さんが続けてと言う以上、ぼくは大人しく続ける。

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