第14話
❀雑貨商石づきなめこ❀
「行っておいで」
朝はやく、エプロン姿で台所にたつ高校生に、亭主はそういって、笑みを浮かべた。前置きがなくても螢介には通じた。「どこに?」「行けばわかるよ」答えになっていないが、螢介はフライパンで焼いたソーセージをかじった。なんとなく、学ラン姿で家をでる。生地がしっかりして戦闘服向きだし、身分証明になると思った。……雑貨商に行くだけで臨戦モードって、笑えるな。
亭主はすでに出かけているため、戸締まりをして玄関の鍵は胸ポケットにさしこんだ。軒下に飯茶碗がある。ネコはどこかに姿を消していて、彼女の朝食は台所の机に用意しておいた。雑木林の方角から、風が吹いてくる。
「さてと、それじゃ行くか!」
雨はやんでいたが、玄関まえに水たまりができあがっていた。
「まちがいない……よな?」
徒歩数分ほどで到着した雑貨商は、老朽化がひどかった。屋根瓦はひび割れ、石づきなめこと毛筆で書かれた看板は、斜めにかたむいている。長雨のせいで建物全体は湿っぽく、商家の戸板も
……台風や地震がきたら、
倒壊しそうなんだけど。
こんな見た目で、
繁盛してるわけないよな。
入口の扉に、あきない中の札がさがっている。螢介は「おじゃまします」と声をかけてから、なかへはいった。石づきなめこの主人は、思っていたより若い男だった。髪には寝グセがあり、商人らしからぬ洗濯灼けしたシャツにカーゴパンツを着ている。威圧感をあたえない風貌ではあるが、なんというか、不衛生な印象をうけた螢介は、「あなたが、ここの主人ですか?」と、やや失礼な口をきいた。……このにおい、墨?
湿った空気のなかに、墨汁のようなにおいが漂っていた。商品棚を横目で見ると、油絵具や筆記帳、硯や
「
と、ごく短いことばで牽制する。正体を見破られた螢介は、一瞬、ギクッと背中に寒気がはしった。……いや、べつに正体もなにも、おれ的には、なにも隠したつもりはねぇけど。
「あいかわらず
またしても、いきなりである。螢介の口をあやつり、炎估が勝手に主人と会話におよぶ。しかも、互いに旧知の仲にあって、親しみを感じないやりとりを展開する。
「きさま、死にたいのか」と風估、
「やってみろ。うけてたつ」と炎估。
……おい、こら、
〘つづく〙
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