プロローグ

第1話

時計の針は、丁度23時を通り過ぎた。


私は今、高級タワーマンションの最上階35階の満天の星空しか見えない寝室で、安堂不動産の一人息子であり、次期社長の安堂颯あんどうはやてにキングベッドに組み伏せられている。


美弥みや……好きだよ」


綺麗な切長の瞳で見つめられれば、心臓だけが、とくんとくんと返事をして、私の唇からは言葉がでてこない。


「んっ……ふ……」


颯から、軽く口付けられた唇はすぐに深くなって、息ができなくなる。


「待っ……んっ……颯」


「待てない」


颯の大きな掌が、私のシフォンのブラウスのボタンを外していく。露わになった淡いピンクのブラのホックはあっけない程に、すぐに外されて、ブラウスと共に放り投げられた。


「や……見ないで」


「だめ」


あっという間に両手は、颯の大きな掌で頭の上に束ねられる。暗闇とはいえ、寝室の大きな窓からは、月明かりで、私の自信なんてまるで無い、小さな胸はきっと、颯から丸見えだ。


「……初めて……だから」 


「知ってる」


颯は、意地悪く、形の良い唇を持ち上げた。


「美弥、綺麗だよ」


颯は、綺麗に結ばれたネクタイを片手で緩めると、シュルリと外して、ワイシャツのボタンも片手で器用に二つ、三つと外していく。そして、ワイシャツを脱ぎ捨てると、その大きな掌は、私のタイトスカートの中へと入ってくる。


「あっ……はや……て……」


男の人に初めて触れられる身体は、思っていた以上にすぐに熱を帯びていく。


「初めてのくせに、もう感じてんの?」


「言わない、で……」


颯の瞳を見つめながら、ようやく私は、言葉を紡ぐ。


「俺は美弥しか見てない。美弥は?」


「……颯しか……見てない……」


「じゃあ、今から俺のものにするから」


颯が、私のスカートを剥ぎ取ると、自分のワイシャツも脱ぎ捨てた。


午後23時の王子様のような彼に、恋をした私は、いつしか、彼に魔法をかけられていた。


それは、まるで絵本の中のシンデレラの様に、甘くて蕩けそうな、でも、決してけることのない魔法だった。

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