第36話

「こんなこと言いたくはないが……あまりにも仕事の覚えが悪いようなら俺から常務、そして君のお父様にお伝えしてもらうが?」


「そ、それは……パパ、父には言わないでください……」


「約束はできない。まずは今後の君の仕事に対する姿勢次第だな」


「そんな……」


「あと──恋は俺の婚約者だ」


(!!)


「えっ……副社長……っ、どういうことですか?! 有川先輩一昨日まで博樹……恋人いたんですよ!?」



未希の言葉に修哉がククッと笑った。


「君と同じだよ。恋人がいると知りながら好きになったから口説いて奪ったまでだ」


「なっ……」


「わかったら二度と恋に構うな! さっさと出て行け!」


怒気を孕んだ修哉の声に未希の体が小さく跳ねた。


「くっ……、失礼します……っ」


未希は副社長に一礼すると、私を睨んでから副社長室をあとにした。


未希が出ていくと副社長室は急にしんとなる。



「あの……修哉……」


「すまない、出しゃばって……。迷惑だったかな?」


修哉は少し眉を下げると私の顔をのぞき込んだ。


「いえ……その、私のために近藤さんに言ってくださってありがとうございます。でも良かったんですか? 婚約者のこと……」


「社長も了承済みだし俺は全然かまわない」


「でも……」


「そんな顔しないでくれ。俺には恋しかいないと思ってる」


「……なんて言ったらいいのか」


「はは、飯でも食いながらもっと口説かせてくれるか?」


「なっ……!?」


「恋、行こう」


修哉はいたずらっ子のような顔をすると、私のパソコンをあっという間にシャットダウンする。そしてご機嫌で私の手を引いた。

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