第22話

「この僕たちが昨日交わした仮の婚約者契約、通称『仮婚』のこと、やっぱり記憶にないでしょうか?」


「仮婚?! ななな、ないです……っ、本当にごめんなさい。全くもって、お、覚えてなくて……」


「そうですが……。昨日は今お付き合いされている方もいないとのことで僕の申し出に快くサインして頂いたのですが……」


(僕の申し出?)


「えっと……それはどう言う……」


「単刀直入に聞きます。恋さんは僕の婚約者になるのは嫌ですか?」


「それは……」


修哉が口篭った私から契約書を受け取ると眉を下げる。


「そんな顔をされると……少々落ち込みますね」


「え……いやっ、その何て言ったらいいのか……その私なんかじゃ、その、四葉副社長には不釣り合い……かと。それにそもそもなぜ私なのかも……わからなくて……」


私の言葉にすぐに修哉がはっとした顔をする。


「あ! それもお忘れでしたか。ではご説明を。僕は昨日恋さんに一目ぼれしてしまったんです!」


「へ⁉」


思わず素っ頓狂な声を出した私を見ながら修哉が綺麗な二重の目を細めた。


「ちなみに僕が一目ぼれした女性は神と仏に誓って恋さんが初めてです」


「ちょっと待ってください……えぇっと……」


「もし恋さんが僕を生理的に受け付けないとかじゃなければ少しずつお互いを知っていけたらと思っています」


そう言うと修哉が私の方へ一歩距離を詰め、私をのぞき込んだ。ギシッとキングベッドのスプリングが軋む。


「恋さん、ダメですか?」


その修哉の真剣な瞳に私の心臓は大きく跳ね上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る