第18話

私は夢を見ていた。

もうずっとずっと昔の夢だ。


両親を突然の事故で亡くした私はお葬式の後、こっそり家を抜け出しての公園の隅っこで蹲って泣いていた。


──『恋、大丈夫?』


顔をあげれば、近所に住んでいた仲良しのしゅうちゃんが心配そうに私をのぞき込んでいる。


『ぐす……っ、しゅうちゃん……パパとママが……』 


──『うん。聞いた……』


そう言うとしゅうちゃんは私の隣にちょこんと三角座りをする。


『もう会えないんだって……お空は遠いから恋には行けないよっておばあちゃんが……ぐす……』


しゅうちゃんは黙ったまま私の小さな身体を両手で抱きしめた。


──『僕が恋の悲しいも涙も貰ってあげられたらいいのにね』


そしてしゅうちゃんは私を抱きしめたまま私の頭をそっと撫でた。


──『…………悲しいの悲しいの飛んでいけっ……』


一生懸命、涙を浮かべながらそういって『おまじない』を繰り返す、しゅうちゃんの声に耳をから向けているうちに心が温かくなって、大丈夫だよって優しく心に寄りそってくれた気がして、私の涙をいつのまにか引っ込んでいたことを思い出す。


あの日から、私は何度もこの『おまじない』に救われてきた。


『しゅうちゃん、ありがとう』


──『どういたしまして』


そうして公園から並んで家まで帰った帰り道、しゅうちゃんが別れ際に私を真っすぐに見つめながらこう言った。


──『大きくなったら僕がずっと恋のそばにいてあげる』


そう言ってしゅうちゃんがにっこり笑って私もにっこり笑ったことを思い出す。


(しゅうちゃんの夢なんて……いつぶりだろう……)


ふわふわと曖昧な感覚で夢と現実の狭間を彷徨いながら、私は海の底から浮上するように意識を覚醒させていく。

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