第9話
「博樹? どしたの?」
「あ……今日は恋に大事な話があるんだ」
博樹が静かに言葉を吐き出すと唇を湿らせた。
(えっ、……大事な話? それって……)
私は戸惑いながらも今日の為に着てきたシックな紺色のワンピースの裾をそっと握りしめた。
おしゃれな店内にはバラの花が生けられていて良い香りが漂っている。
すでに食事のコースは事前に予約してあるのだろう。聞いたことのあるクラシックが流れて耳を掠めていくが、それよりの自身の鼓動の音が気になって私は高鳴る胸を押さえつけるようにワイングラスを手元に引き寄せると、再度そっと口づけた。
「……うん。なに?」
どうしたら良いのか、何を言ったらいいのか分からない私は博樹の言葉に疑問形で返した。
「あのさ。有川恋さん……」
(すっごいドキドキする……どうしよう……っ)
博樹は形の良い唇をきゅっと結んだ。
(プロポーズってこんないきなりくるんだ……)
私はあまりの緊張から酸素が薄く感じて何度も浅い呼吸を繰り返す。
「俺と……」
どきんどきんと収まらない心臓の音に博樹の私の名前を呼ぶ声に私は無意識に呼吸を止めた。
「──別れて欲しい」
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