2-7 魔女狩り
フーは脚を絡められた事にすぐに対処をしようと彼の武器をたたき折ろうとする。しかしその事を見越していたランは攻撃を当てられる直前に武器を引いて転げさせた。
フーは受け身で対処するもランに距離を詰められるのを許してしまう。ランが再び仮面を割ろうと変形させたバットを振ると、彼女は受け身と同時に振り上げた両足で受け止め、右に振り捨ててそのまま蹴りを入れる。
ランは首を曲げて紙一重で回避し、立ち上がったフーの追撃もどうにか避けてみせた。
(チッ……あの馬鹿のせいで余裕がねえ……これを続けられたら俺が根負けする。速いとこケリを付けないと)
ランはすぐにストレートパンチで牽制してフーの体勢を崩すと、飛ばされて彼女の後ろの宙にあったバットが独りでに動いて彼女の後頭部に命中した。
「ッン!!?」
突然武器が動いてぶつかったことに驚きながらもよろけるフーにまずは気絶させようとランが彼女のみぞおち辺りに左手のパンチを向けた。
(少々乱暴だがこれで)
とこの戦闘を終わらせようとしていたランだったが、焦りもあってこのときの見落としに気が付かなかった。
敢えて大きく身体を前に崩すことで多少なりとも威力を殺していたフーは攻撃に意識が集中して防御がおろそかになっているランのガラ空きの腹に右手で張り手を決めた。
「ガハッ!!」
これに攻撃の位置をずらされたランは彼女の横腹を攻撃し、お互いによろけるように後ろに下がって膝から崩れた。
「ガァ……ハァ……クッソ……受け身の達人かよ……」
体制を整えるフー。しかし彼女はそのとき左腰のポケットにしまっていたはずのモニーのステッキがなくなっていることに気が付く。
彼女の思考を読むようにランが話し出す。
「お探しのものはこれか?」
ランが背中に隠していた左手を出すと、その手にはフーから盗み出したモニーの変身ステッキが持たれていた。
さっきのパンチでみぞおちを突けなかった時に彼女がこの場から去らないよう交渉アイテムを奪っておいたのだ。
「さて、そちらさんの欲しいものはここにある。争いごとは止めて話し合いといこうじゃないか」
ステッキをちらつかせてこちらの優位性を見せつけながら結晶を手に入れるための交渉を持ちかける。
フーはどうにもこのステッキを見逃せないのか逃げることはせず、警戒は解かないながらも戦闘の構えを解いて交渉に応じる気になってくれたようだ。
「……」
飄々とした態度を見繕っているランだが、内心彼女の態度に胸をなで下ろしていた。
(フゥ……上手くいってくれてよかった……さてここからどう結晶を渡させるか……)
とここからの交渉についてランが話す内容を考えているとき、二人に取って予想外のアクシデントが発生した。二人の間、主にフーに向かって色とりどりの光弾が降ってきた。
彼女は後ろにジャンプして回避し、二人が攻撃の飛んできた方向、電柱の上や建物の屋根に視点を向けると、戦っていた三人とは別の三人の魔法少女がランのことは眼中に入れずにフーを睨ろしていた。
「あれは? まさか増援か? 『間の悪いタイミングに来たな』」
立ち退かせようにも彼女達はランの存在を無視してフーに追撃をかけた。
「覚悟しろフー!!」
「ハァ!!」
「何だあの荒っぽい攻撃!! 周りに気絶した奴がいるんだぞ!?」
連続でステッキから光弾を撃ち出す彼女達の動きは、安全地帯から無鉄砲に撃っている素人の手つきのそれだった。
流れ弾が幸助や朝に飛び散ったのを見たランはバットを大盾に変形させて飛ばし、二人を攻撃から守り、自身もローブを動かしてガードする。
「危なっかしいことを……」
更にそこにランにとって運の悪いことが起こる。流れ弾の一発が手薄になったランの左手に命中し、掴んでいた朝のステッキを弾かれてしまった。
「マズい!!」
ランが愚痴をこぼしている間にフーはすかさずステッキを回収し、苦い顔をしながらもその場を逃げ出す。魔法少女達は彼女を追いかけてその場から離れていく。
追いかけようにも彼女達の雑な攻撃から幸助達を守るのに気を配っていたランは置いて行かれ、結晶を持ったフーを逃してしまった。
「チィ、余計なことを」
「ウッ! ウウゥン……」
さっきの騒音で気を失っていた二人が目を覚ました。
「何が……ガッ! 腹が!!」
「あれ、私……そうだ! ステッキを取られて!!」
「悪い、取り返せなかった……」
ランは彼女に謝罪の気持ちを込めて頭を下げた。するとそこに同じく目を覚まして戻ってきた比島姉妹が合流してきた。
「朝! 大丈夫!? って、ウワァオ……」
「ごめん! 気を失ってて……って、ウワァオ……これ、もう終わっちゃった感じ?」
周辺が攻撃跡で派手にボロボロになっている戦闘跡現場を見て姉妹らしく同じリアクションを取る二人に唯一正気のランが事の詳細を説明した。
「……ということ。フーは逃げて残りの奴らも追いかけていった。生憎全部それに持ってかれた形だ」
「そう、朝に怪我が無くてよかったわ」
ハイは朝に近寄ってしゃがみ、彼女の左肩に右手を触れて摩る。キイはランに近付いて朝を助けてくれたことの感謝を素直に述べる。
「ありがとう、お礼はする」
「ありがたい。ならお前らにいくつか聞きたいことがある。正直に答えて欲しい」
「聞きたいこと? 別にいいけど」
ランは承諾を貰うと早速キイに質問を飛ばした。
「あのフーとか呼ばれてた魔法少女のこと、それとお前ら魔法少女のシステムについて詳しく話してくれ」
「フーを知らないの? 珍しいわね貴方……」
「御託はいい。手短に頼む」
キイはランの態度に腹が立つところがありながらも、朝のステッキが取られた今、味方は多い方がいいと判断して素直に説明した。
「あの女の本名は誰も知らないわ。誰か分からないって意味で私達は『
「魔女狩り?」
そこにハイの肩を借りて立ち上がった朝が付け加える。
「私達魔法少女は、公式の組織に試験を受けて、合格することでステッキを貰って変身しています。
そのステッキは、湖の集落にいる妖精の力を遠隔で伝える必需品。それがなくなれば変身が出来なくなってしまうんです」
更に幸助も腹を痛めたまま立ち上がって会話に乱入してきた。
「でも、なんで彼女はそんなことを?」
「さあ、本人に話を聞いてもいつも黙ってるからわかんないわ」
「噂じゃ、魔法少女の根絶を図っているとか。やられた子達は皆ボロボロになっているから、もっぱら世間の悪役よ」
「それでさっきの連中は一方的にフーを攻撃していたのか」
ランは余所に向けていた目線を残り全員が見られる位置に戻すと話の流れでふと流されていた話を掘り返してきた。
「待て、公式の試験ってどんなものだ?」
この質問に三人の魔法少女が代わる代わるに返事をした。
「試験って、まあ単純な体力テストみたいなものよ。課題で出された運動をクリアして、筆記試験もパスすれば合格証と共にステッキが来るわ」
「何その資格試験みたいなノリ」
「実際資格ですから。持っていると買い物に割引とかも効きますし、色々と便利なんです」
「一年ほど前からこの制度が出来て、以来武術道場とかは軒並み畳んでいるらしいわよ」
苦笑いをしながら話すハイに反応に困る幸助。対してランはまたしてもフー達が去って行った方向に首を回す。
(ちょっとした試験をパスするだけでろくに鍛えもせずにあの威力……場合によってはとんでもない兵器だぞこれ。一般人の火遊びにしては豪勢だ、どうにも気持ち悪い)
キイは一通り話したとみて、奪われた朝のステッキのことで焦りがあるため話を自分から切った。
「さあ、話は終わりよ。誰かも分からない奴の事なんてそうそう分からないんだから」
「フーはお前らの通っている学校にいるぞ」
その場にいた一同全員が目を丸くして同じように声を上げた。
「「「「エエエェ!!!?」」」」
次に個人個人が自由にランに詰め寄っていく。
「どういうことですかそれ!?」
「なんでアンタにそんなことが分かるのよ!!」
「証拠でもあるっていうの!? 私達が捜しても全然見つからなかったのに!!」
「ラン、冗談にしては今のはキツいぞ」
「今回は冗談じゃない、マジだ」
ランは少し顎を上げると目を閉じ、ため息を吐くように幸助にそう告げた。全員が静まり返ると、ランは左手首のブレスレットにチラリと視線を向けてから前に戻し、冷静に理由を話す。
「実は学校内でお前らの案内をいやがったのには理由があってな。あのとき俺は落とし物をしていた。
発信器機能を付けていたからそれを元に捜していたんだが、どういう訳か
「じゃあ、アンタの落とし物をフーが拾ったって事?」
「おそらくな」
魔法少女三人が息を呑んだ。
この世界の人達にとってフーは厄介ながらも尻尾を掴めなかった存在。そんな彼女がこうも簡単に手がかりを残したことに一周回って放心状態になっていた。
対してこの世界に来て浅いため動揺のない幸助は話しに切りが付いたのと腹の痛みが少々ましになったのを感じていた。するとそこにランが近付いた。
「幸助、ユリをこっちに」
「はい?」
「お前にくっついてただろ。調べて欲しい事があるから出せ」
ランは右手を差し出してユリを乗せるように求めてきた。そこで幸助はキョトンとした顔になった。まるで彼女のことを忘れていたようだ。
まさかと思ったランはさっきとは逆に幸助に詰め寄った。
「学校で生徒会長に見つかりかけたとき、ユリはお前の足下に隠れていたよな!?」
「ア~……それなんだけど……」
幸助は額に冷や汗をたらたらとかきながら申し負けなさそうに白状した。
「実は、モニーがやられたのを見て勢い余って飛び出したときに……
その、ズボンの中に隠れていたことをうっかり忘れてしまって……
どこかで落っことしてしまったらしいんだ。
「………………
ハァ!!?」
幸助が白状した内容に衝撃を受けてランは空高く聞こえるほどの大声を上げた。
その大声が聞こえたのか、道端のどこかで後ろを振り返ったユリ。しかしそこにランの姿はない。ユリは落胆していると、彼女の元に近付いてくる足音に気が付いた。
急いで落ちているぬいぐるみの振りをすると、そこに現れた人物に見つかってしまった。
「ん? これは」
その人はユリのことをぬいぐるみだと気が付かずに拾い上げる。
「どうしてこんな所にぬいぐるみが?」
そのままユリは拾った人物に抱えられ、ぬいぐるみの振りをしたまま持って行かれてしまった。
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