フェアリー・メイル ~ようこそ、妖精の配達人養成学校へ!~

どむ₍ᐢ◉∞◉ᐢ₎どむ

第1章 満月の日 君との約束

第1話 落第っ⁉



 収穫間近でふっくらと実ったキウイ。その葉っぱは、木の枝で造られたログハウスの家をすっぽりと覆っちゃうくらいの大きさに成長してて、そこから漏れる春のあったかい光はお昼寝にはもってこい。

 そんな、自然に囲まれた小さいけど元気いっぱいなこの里の隣に建っている学校。それが、わたしの通う『妖精の配達人フェアリーメイル養成学校』。

 その東校舎4階にある生徒指導室に、今日。わたしは大切な話があるってサダール先生に呼び出されたんだ。


「ミンズさん」


 教室の真ん中に置いてある木の机。それを挟んで正面に座っているサダール先生の真剣な顔に、わたしのノドと一緒に肩まで伸びたクリーム色の髪がゴクッて動く。わたし、また何かやらかしちゃったのかな……。

 そう思ってジッと先生を見つめていると、サダール先生はゆっくりと口を開いて――


「このままでは、あなたは落第です」

「ら、らく、だいっ……」


 雪みたいに真っ白な髪にクールな切れ長の目。だれが見てもキレイだなって思うサダール先生は女の子に大人気。いつでも微笑みを浮かべているそんな先生が、今はキュッと口を引きしめて『落第』って。落第っていうのはつまり、学校を辞めなきゃいけないってこと。そんなの、絶対にイヤだ!

 そこをどうにかっ。そう願いながらジッとサダール先生を見上げると、先生は険しい表情を緩めてはくれたけど代わりにため息をついた。


「いいですか? この学校では、フェアリーメイル。つまり空を飛び、依頼人に贈り物を届けるという仕事に就く者を育成する場所です。ですが、あなたはこの学校の生徒として最低ラインを満たしていない」

「うっ……」


 妖精の配達人フェアリーメイルになるための最低条件。それが飛べること。飛べなければ海を越えることも、高いところや遠いところに贈り物をすぐに届けることもできないから。

 だけど、わたしは飛べない。その背中に羽があるにも関わらず。


「でもっ……でもわたしはっ!」


 それでも諦めるなんてできない。わたしは咄嗟に声を上げたけど、続く言葉が出てこない。ただただ悔しくて、拳を強く握りしめた。


「教師として、何とかしてあげたい気持ちはあります。ですがこればかりは……あなた自身で乗り越えなければならないことです。分かりますね?」


 いつも生徒思いで優しいサダール先生。でもこの時だけは眉を下げながらも確かな口調で真っ直ぐわたしを見ていた。そんな先生の問いかけに、わたしは小さく頷くしかなかった。

 シャランッ。


「おや?」


 話が終わり、先生とわたしは椅子から立ち上がった。そんな時、窓から羽が擦れるような音が聞こえてきてサダール先生は後ろにある開いた窓に近付いた。

 そこには、わたしと同じ学校の女の子2人が空を飛んでいた。その背中には羽があって、鱗粉を舞い散らして自由に飛ぶ姿は、本物の妖精みたいに綺麗で。


「あ、先生ーっ!」

「こんなとこで何してるのー?」


 2人はサダール先生に気付くと、滑らかな動きで窓に近付いて声を掛けていた。でも、わたしはその子たちが羨ましくて。見ていられなくて視線を逸らした。


「……」


 2人と同じように背中に羽が生えているサダール先生はなんでか少し遅れて「仕事ですよ」と答えて、先生らしく2人にこう続けた。


「それよりも皆さん、あまり遅くまで外出してはいけませんよ。最近はただでさえ、危ない事件が続いているのですから」

「はーいっ!」


 その言葉に元気よく返事をした2人は「さようならーっ!」と先生に手を振る。そうして空高く舞い上がる2人を、わたしはボォーっと見上げることしかできない。


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