フェアリー・メイル ~ようこそ、妖精の配達人養成学校へ!~

やしゃまる

第一章 満月の日 君との約束

第一話 落第っ⁉



 収穫間近でふっくらと実ったキウイ。その葉っぱは、木の枝で造られたログハウスの家をすっぽりと覆っちゃうくらいの大きさに成長してて、そこから漏れる春のあったかい光はお昼寝にもってこい。

 そんな、自然に囲まれた小さいけど活気あるこの里と隣り合うように建っている学校。それが、わたしの通う『妖精の配達人フェアリーメイル養成学校』。

 その東校舎四階にある生徒指導室に、今日。わたしは大切な話があるとサダール先生に呼び出されていた。


     *****


「ミンズさん」


 教室の真ん中に置いてある木の机。それを挟んで正面に座っているサダール先生から感じる、外の穏やかな天気とは正反対のザワザワとした空気に、私の喉と一緒に肩まで伸びたクリーム色の髪がゴクリと動く。

 そしてサダール先生は私の名前を呼んだ後にもう一度、ゆっくりと口を開いた。


「このままでは、あなたは落第です」

「ら、らく、だいっ……」


 絹のようにきめ細かい白髪に切れ長で涼しげな目元。中性的な見た目から女子に大人気のサダール先生。そんな人が珍しく眉をつり上げ、真剣な顔をして告げた『落第』という言葉に気がついたら私の頬は引きつっていた。

 そこをどうにかっ。そう願いながらジッとサダール先生を見上げると、先生は険しい表情を緩めてはくれたけど代わりにため息をついた。


「いいですか? この学校では、フェアリーメイル。すなわち空を飛び、依頼人に贈り物を届けるという仕事に就く者を育成する場所です。ですが、あなたはこの学校の生徒として最低ラインを満たしていない」


 サダール先生は眉を下げてわたしの落第理由を説明した。

妖精の配達人フェアリーメイルになるための最低条件。それが飛べること。飛べなければ海を越えることも、高いところや遠いところに贈り物を迅速に届けることもできないから。

 だけど、わたしは飛べない。その背中に羽があるにも関わらず。


「でもっ……でもわたしはっ!」


 それでも諦めるなんてできない。わたしは咄嗟に声を上げたけど、続く言葉が出てこない。ただただ悔しくて、拳を強く握りしめた。


「教師として、何とかしてあげたい気持ちはあります。ですがこればかりは……あなた自身で乗り越えなければならないことです。分かりますね?」


 いつも生徒思いで優しいサダール先生。でもこの時だけは眉を下げながらも確かな口調でまっすぐわたしを見ていた。そんな先生の問いかけに、わたしは小さく頷くしかなかった。


 シャランッ。


「おや?」


 話が終わり、わたしは椅子から立ち上がった。そんな時、窓から羽が擦れるような音が聞こえてきてサダール先生は後ろにある開いた窓に近付いた。

 そこには、わたしと同じ学校の女の子二人が空を飛んでいた。その背中には羽があって、鱗粉を舞い散らして自由に飛ぶ姿は本物の妖精みたいにきれいで。


「あ、先生ーっ!」

「こんなとこで何してるのー?」


 二人はサダール先生に気付くと、滑らかな動きで窓に近付いて声を掛けていた。でも、わたしはその子たちが羨ましくて。見ていられなくて視線を逸らした。


「……」


 二人と同じように背中に羽が生えているサダール先生はなぜか少し遅れて「仕事ですよ」と答え、それから先生らしく二人にこう続けた。


「それよりも皆さん、あまり遅くまで外出してはいけませんよ。最近はただでさえ、危ない事件が続いているのですから」

「はーいっ!」


 その言葉に元気良く返事をした二人は「さようならーっ!」と先生に手を振る。そうして空高く舞い上がる二人を、わたしはボォーっと見上げることしかできない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る