Just the Two of Us

白黒鯛

プロローグ

10月に入ったというのに未だに残暑の続く昼下がり、私はひとり橋の上に佇んでぼんやりと川を眺めていた。

別に綺麗な景色ではない。

都市部の中を流れる川だから、両岸はコンクリートで固められて木の一本も生えてなくて、すぐ真上は高速道路のため陽も当たらず薄暗い。

なにより臭い。

河口に近いから多少海水が混ざっているのか普段から潮の香りがするのに、この暑さでより強くなっているみたい。


私、石田美緒は、心療内科で診察を受けた帰り道にこの橋に来たところで、このまま川に飛び込もうと思っていた。

いじめの被害、親友と思っていた子の裏切りで心が折れてただ今中学を不登校中の私は、もうなにもかもが嫌になっていた。

ただ、実際に橋から川を見下ろして、この濁った臭い風情もない川でまだ15年にも満たない人生を終えるのは無様で惨めだと感じた。

心が折れて不登校になった私を今も支えてくれているお父さんとお母さんの顔が浮かぶ。

どうしよう……

橋の上でひとり思い悩んでいると、ふいに左手を握られた。

「えっ!?」

「お待たせしました。さあ、行きましょう」

いきなりイミフな声をかけられて、見ると天使みたいに綺麗な知らない女の子がニコニコと笑っていた。


まさか、本物の天使……?

いや、輪っかも羽もないし、普通の人間だ。

ロリータっていうの?白いふりふりなドレスを着て、それが綺麗な長い黒髪と相まって良く似合っている。

待たせた?

行くってどこへ?

そもそもあなた誰よ?

訳がわからずパニクる私をよそに、女の子は握った私の左手に力を込めた。

「さあ、行きましょうね」

女の子が改めて言った。

それが彼女との初めての出会いだった。

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Just the Two of Us 白黒鯛 @shirokuro_tai

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