第2話 下卑た世界
「政治学、第一章。政治理論。」
窓を背に座席に座ったひよりは、揺れる電車内でビジネスバッグから政治学の教書を取り出し、耳に当てたワイヤレスイヤフォンで外世界をシャットアウトした。
政治科学は、彼女のバイブルでもある。
国会議員、漠然と考えたわけではない。彼女の母は、日本で初めての女性議員として国会の場に立った。当時、母のしおりは28歳。誰もが、偏見の目で彼女を見、誰もが期待をしなかった。
派閥のの知名度アップのための道具として扱われたのだ。
国会答弁では、意見が一度も通らず、並み居る重鎮の男議員に嘲笑いされた。しおりが真剣になればなるほど、「女の意見だ。」と揶揄され続けた。母は、そんな男社会に疲れ果て、うつ病を発症し、自ら命を絶った。
「
ひよりの耳には届かないアナウンスの声が電車内に響く。彼女は、周囲を見ずに時間のみを確認していた。
「あと35分だわ。」
国会議事堂のある桟橋駅に着く時間を把握している為、教書への集中は途切れることがない。それでも、事故やトラブルに巻き込まれれば遅延する場合もある。しかし、彼女は確率論で行動するタイプだ。何事もなく当たり前の時間が過ぎるそう楽観的に考えた。
南潟屡駅に停車して10分、黒いTシャツにジーンズのいでたちの若い男が乗車するのが目に入った。ひよりには学生浪人風に見えた。男は、周囲をきょろきょろと見まわし、ひよりの真向かいの座椅子に腰かけ、肩にかけたショルダーバッグから一冊の教書を取り出した。「政治学概論」と書かれた本を徐に開き、すぐにその内容に集中してるようだった。
「あの人も、政治家に?」
ひよりはすぐに打ち消した。
彼の顔は、無精ひげがひどく、よく見るとTシャツや、ジーンズにも綻びがあった。
「政治家になるには金が要る。」
下卑たこの言葉は、現実の事なのだ。
ひよりは再び、政治理論第5章、政治理論と世界観に目をやった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます