第2話 下卑た世界


陽斗神ひとかみ駅に着いたひよりは、目的地である国会議事堂へ向かう為、電車を乗り継いだ。10分の時間差があり、ホームが同じであることから、乗り継ぎに手間取る事なく、乗車できた。座席にも空きがある。


「政治学、第一章。政治理論。」


窓を背に座席に座ったひよりは、揺れる電車内でビジネスバッグから政治学の教書を取り出し、耳に当てたワイヤレスイヤフォンで外世界をシャットアウトした。

政治科学は、彼女のバイブルでもある。


国会議員、漠然と考えたわけではない。彼女の母は、日本で初めての女性議員として国会の場に立った。当時、母のしおりは28歳。誰もが、偏見の目で彼女を見、誰もが期待をしなかった。

派閥のの知名度アップのための道具として扱われたのだ。

国会答弁では、意見が一度も通らず、並み居る重鎮の男議員に嘲笑いされた。しおりが真剣になればなるほど、「女の意見だ。」と揶揄され続けた。母は、そんな男社会に疲れ果て、うつ病を発症し、自ら命を絶った。


南潟屡みなみかたる、南潟屡。お降りの方は電車が停止してから立ち上がり下さい。直この電車は、南潟屡で20分停車いたします。」


ひよりの耳には届かないアナウンスの声が電車内に響く。彼女は、周囲を見ずに時間のみを確認していた。


「あと35分だわ。」


国会議事堂のある桟橋駅に着く時間を把握している為、教書への集中は途切れることがない。それでも、事故やトラブルに巻き込まれれば遅延する場合もある。しかし、彼女は確率論で行動するタイプだ。何事もなく当たり前の時間が過ぎるそう楽観的に考えた。




南潟屡駅に停車して10分、黒いTシャツにジーンズのいでたちの若い男が乗車するのが目に入った。ひよりには学生浪人風に見えた。男は、周囲をきょろきょろと見まわし、ひよりの真向かいの座椅子に腰かけ、肩にかけたショルダーバッグから一冊の教書を取り出した。「政治学概論」と書かれた本を徐に開き、すぐにその内容に集中してるようだった。


「あの人も、政治家に?」


ひよりはすぐに打ち消した。

彼の顔は、無精ひげがひどく、よく見るとTシャツや、ジーンズにも綻びがあった。


「政治家になるには金が要る。」


下卑たこの言葉は、現実の事なのだ。

ひよりは再び、政治理論第5章、政治理論と世界観に目をやった。

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