脱ニート! 豊作神話のパーカー娘〜Leaving NEET! The parker girl in the abundant harvest myth

イズラ

第1話 豊作神の脱ニート!?

1-1 きっかけ

 ──それは、白き長髪に背の高い、美しい顔つきをした女だった。

「豊作神ツクリノミタマ、貴様の”最後のアイデンティテ”を──没収する」

 その天神が、布団でヌクヌクしている俺に言い放った。突然の訪問者に驚いた俺だったが、北風が寒いので、また布団でヌクヌクする。

「……面食いの巫女に甘えすぎではないのか?」

 そう言われても、俺はヌクヌク。

「お前をずっと見てきた。……あまりにも怠け過ぎ。神々の面汚し。クズニート。そして、亭主関白」

「……亭主関白。俺はアイツと家庭を築いた覚えはないんだが……」

 俺はやっと布団から顔を出し、天神に反論する。

「そう、巫女は貴様の妻でも交際者でもない。だがしかし──」

 天神が目を閉じながら述べる最中、部屋の襖が勢いよく開いた。

「ツクリノミタマ様! どうなさったのですか!?」

 必死の形相で駆けつけたのは、この神社の巫女・虹音黒花にじねくろかだった。

 俺の”美顔”に惚れ、身の回りの世話をしてくれている。一応、世襲で巫女を引き継いでいる。

「──って、え……?」

 だが、俺の顔を見るやいなや、彼女は唖然として口を開ける。

「……どうした、そんなショックな顔して──って、え……?」

「あぁ、言い忘れていたが、既に貴様の”美男容姿”は没収済みだ。そして、”代わりの姿”を貴様に与えたのだが──」

 天神がヒョイッと渡してきた手鏡を見ると、そこには──

「……なんですか? この……貧弱そうな女の子は……?」

 そこには、赤い髪の愛おしい少女が映っていた。

「失望!!」

 その時、黒花が叫ぶ。「え?」と見ると、黒花は絶望と軽蔑のような表情をこちらに向けていた。

「そんな”か弱い少女”の巫女になった覚えはありません! ってか、普通に死ね!」

 そう俺に吐き捨て、面食い巫女はドタドタと廊下を走り、どこかに行ってしまった──。

 頭が真っ白になった。

「……え?」

 遠くから、「死ね穀潰し!!」という声が聞こえてくる。

「──さて、私は帰るとするか」

「待って! 見捨てないで!! 助けて神様!! 俺──!!」

 立ち去ろうとする天神に、俺は半べそですがり付く。

「穀潰しが喚くなよ……」

 冷たい目を向けられ、俺の涙は溢れ出す。

「捨てられる! 死ぬ! ってか、ナチュラルに『死ね』って言われた!! ショックで死ぬ!!!──」

「じゃぁ、とっとと死ね。人権も神の権利もなし」

「うぅ……! 嫌だぁ……!」

 子供のように──いや子供もだけど、俺はうだうだする。

「そんじゃ、早く働け。ニートやめろ。そんで、精いっぱい社会の役に立て。そしたら、貴様のアイデンティティを返してやる」

「──働くのはやだぁ……!」

「……(ゴミを見るような目)。……それなら、まずは学校にでも行け。せっかく女の子にしてやったんだ。それくらいならできるだろ? 豊作神様?」

 天神に完全に見下され、俺の精神は崩壊した。

「あ、ああ、あ………」

 天神はフッと笑うと、俺に背中を向けてスッと消えてしまった。




   *




 ──その頃、巫女・虹音黒花は、神社の参道でほうきを掃いていた。

「──これも、ツクリノミタマ様のため……」

 その顔は、決して笑顔ではなかった。

 だが、そこに”失望”はない。むしろ、これからの”未来”に目を向けるようで──

「とっとと就職して、”最強イケメン豊作神”の威厳を取り戻してください……!」

 輝いていた。

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