冬の熱
九戸政景
冬の熱
「電車、まだかな」
「うん」
雪が降りしきる中、ホームで電車を待つ。少し余裕を持って出てきたから時間はもちろんあるけど、その待っている時間がどこかもどかしかった。
「今日も楽しかったなー。ねえ、次はいつ会えるかな?」
「次……来月、かな?」
「来月かあ。その間は少し寂しいなあ……」
白い息を吐きながら彼女が言う。時間と気温のせいかホームには僕と彼女の二人だけ。それならキスの一つでもしたいものだけど、勇気が出なくてそれすら出来ない。そんな自分が少し嫌になる。
寂しいのは僕も同じ。それを口に出せばいいのに口にすら出せない。雪のように冷たい男だと思われてないか不安にすらなる。
「ねえ」
彼女が話しかけてくる。
「なに?」
「大好きだよ」
その言葉に嬉しくなる。僕も大好き。そう返せばいいのに口はそう動いてくれない。そうしている内に構内に電車の到着を知らせるアナウンスが流れ、電車が到着する。
「あ、来たみたい」
「うん……」
「それじゃあ私はそろそろ――」
「待って」
「え?」
驚く彼女の唇を奪って返事の代わりにする。そして顔が熱を帯びる中で電車に駆け込んで顔を上げる。窓の向こうに顔を赤くする彼女の姿が見えると、彼女が何かを言っているのが見えた。
「え、なに?」
それが何かを考える前に電車が発車する。窓の向こうに流れていく彼女の姿を見ていた時、メッセージアプリに彼女からのメッセージが来た。
『今の、なんて言ったかわかる?』
『なんだったの?』
『バカ』
「ば、バカって……」
そう言われても仕方ないとは思うが、それにしても別れ際にバカはないんじゃないか。そんな事を思っていると、次のメッセージが来た。
『でも、そういうとこも好き』
「……そっか」
その言葉に胸の奥があたたかくなる。会えない間は寂しくなる。でも、このあたたかさがあれば大丈夫だ。電車の心地よい振動を感じながら僕は次のデートの事を彼女と一緒に相談し始めた。
冬の熱 九戸政景 @2012712
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