宇宙漂流、残業代なし。
二度東端
Prologue:WORKER THAN BLACK
フェイタル星系付属777コロニー、通称『ギャンブルコロニー』での仕事を終えた僕は、ライナーと呼ぶには遅すぎる広域巡航宇宙船の座席で、小さく丸まっていた。
小さく丸まっている原因は、眼前のヒュードロイドにあった。
「やっぱり勝利の後の一杯って、格別ですね」
アトスは口いっぱいに肉の塊を頬張りながらそう言った。
得体の知れない液体を流し込みながら。喋るたびに飛沫が飛んできている。匂いからして明らかにアルコールの類だが、せめて合法であることを祈るばかりだ。
彼女が何に勝利したのかは知らないが、おそらく仕事を放りだしてカジノにでも行っていたのだろう。コロニー予算を元首自らがギャンブルに突っ込んでいたのではないかという疑惑を詳らかにする【調査官】として赴いた立場でありながら、カジノに興じるのは言語道断であると思うのだが、こいつに限っては今更の話になってしまう。その度に言語道断とするならば、もう言語がなくなりかねない。
まぁ、厳密に言えば僕らは【調査官】ではなくて、その下請けに過ぎない訳だから、社会的な言い訳は立つのだけれど。
そう思案をしていると、アトスはいつのまにか眠りについていた。誰もいない客室に、どんな設計をしたらこんな音が出るのかと疑念を持ちたくなるほどの寝息が響き渡った。僕はまた小さくなった。本当は寝たいのだが、この音じゃどうしようもなかった。
僕は顔をしかめ、しかめにしかめたところで自分の瞼が閉じてくれることを、ただ祈ったのであった。
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